今日のおもしろい夫 ~令和編〜

柳なつき

まえがきにかえて。今日も、かなわないなあ。って。

 私には、夫がいます。




 連載のしょっぱなで唐突に自分語りをはじめますが、私はある意味、あまりぜんぜん自慢できたことではない意味ではほんとうに「作家」らしいところがあり、というのはものを書いているゆえに、自分なりにひとつの巨大な価値観や世界観や得体の知れない「なにか」が、体系的にそびえ立つかのように「そこに存在」してしまっているのですね。

 それは、おそらく他者から見ればなんてことない、単なるありきたりなバベルの塔なのかもしれませんが、私にとってはまさしくそこが世界。

 そうやって、そのように。世界を捉えて、世界を感じて、世界を考えて、そしてその世界のなかに生きています。

 まあなんとも、独特といえば聞こえよく、しかし実際は単に孤独で偏屈、とでもいいましょうか。


 そんなところがありますので私はいつでも自分の世界のなかで、自分の世界らしく生きています。自分の世界の法則に従って、くるくるとすべての歯車になって動き続ける。そういう生きかたは、書いているうちはすくなくともとっても有意義で、恍惚とした幸福感さえあるものですが、たぶん、相互了解や、外の世界という意味では、けっこう、ほんとうに、ただどうしようもない生きかただなあ、とも思うのです。



 勝手に世界をつくっていますけどそれはあくまで「私の世界」でしょう? って。

 世界、っていうのはそんなもんではなく。もっと、もっと、広いもので。「私の世界」なんか簡単に多様性の一部として呑み込めてしまう、それは圧倒的にどこまでも広がる宇宙なのです。


 頭では、そのことを知っているのですけど。

 でも、知っているだけです。

 私は、自分の世界に生きている。

 それは、どうしようもなく、もうほんとうにただどうしようもないことで――「作家だから」というところに自分自身の紹介を還元でもさせなければ、もう、ほんとうに、やってられない、そんな事実です。



 私はいつでも自分のつくった世界の端っこを見上げて生きています……いいえ。

 彼に出会ったいまでは、いつでも、のところを、いつも大抵は、と言い換えるべきでしょうか。




 そうなんです。

 そんな、どうしようもない私と、

 結婚してくれるひとがいました。




 彼は、とびこえてきます。

 いつも。いろんなことを。私の限界を。想定を。

 いつも見上げている巨大な夜空を。世界の果てを。




 私も、私で、じつはけっこう自分の世界の巨大さには自信があるんですけど……。

 そしてその世界の端っこは、たまにドンドンドンと叩かれて地震が起こってうおぉと足元が揺れたり、変なものが降ってきてこれどう処理しようと頭を抱えたり、ということはたびたび、あっても、




 やっぱり、あんなにひょいとある意味華麗にとびこえてくるのは、いまも、むかしも――彼だけだなあ、って。




 どうして、あんなにとびこえられるんだろうなあ、といつも思います。

 どういう生きかたをしてきて、どういう感じかたをしてきて、

 なんの、果てに、あんな芸当ができるのかな――って。





 ……今日も、かなわないなあ、と思いながら、帰ってまいりました。





 と、いうことで。

 そんな私と、夫、どちらかというと夫をメインに、日々の暮らしをつづっていく連載になります。





「今日のおもしろい夫 2019年春編」、はじめます。やっとこさ!!

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