A Huge Crush‼ -好きなあの子の為に、とりあえず世界を滅ぼします-

宮井ゆきつな

第一章 ロマノー帝国編

Prologue 終焉の王

 ──どう、して。何、で……!?



 視界を埋め尽くすのは鮮血と、夥しい数の物言わなくなった兵士の山。

 そこから流れ出た彼らの命は、街の至るところに血溜まりを作り上げた。


 返り血を浴び真っ赤に染まった自身の体も、真っ白だった装束のことも気にせず、私は『彼』を見つめていた。

 悲鳴と怒号が飛び交う戦場にあって、それでも私の耳には何も届かず、ただただ『彼』を見つめていた。

 『彼』が撒き散らす、際限のない死を。



 ──何で、こんなことに……!?



 私は、数時間前のことを思い出していた。

 『彼』と出逢った瞬間のことを。


 少し頼りなさそうな、でも笑顔が可愛らしいその人は、私の願いを聞き届けてくれた。

 初めて出逢った素性も知らない私に、それでも嫌な顔一つせず、力を貸すと言ってくれた。

 まだ本当に短い時間しか過ごせていない。聞いてみたいこと、話したいことも沢山ある。

 それぐらい、私たちは互いのことを知らない。


 でも何故か、この人となら、きっと上手くいくと思った。

 一緒に、願いを叶えられると。


 改めて、手に持っている本のページを捲ってみる。


 見られるのを嫌がっているのか、或いは、これが『彼』の心の内なのか。そのページは真っ黒に、乱暴に塗り潰されている。



 急に辺りが眩い光に包まれ、私は視線を戻した。


 『彼』の剣が荒れ狂う雷を纏う。そしてそれを、横薙ぎに振るった。


 すると兵士の腕が、胴が、頭があっさりと切り離される。

 命の灯が消え、ただの肉の塊へと変えてしまう。


 背後から迫りくる一団を見て、私は「危ない!」と叫んだ。

 しかし『彼』は慌てることなく、当たり前のことのようにその命を奪った。


 程なくして、兵たちは撤退を開始した。

 中には泣き叫んでいる者もいる。


 その後、街には静寂が訪れた。

 だが、街の人たちは誰も喜びの声をあげなかった。


 その心中は容易に想像ができる。

 突如現れた『彼』は兵を退けたものの、人々の心に強い恐怖を与えた。

 次は自分たちが同じ目に遭うのではないかと、恐怖と疑念が渦を巻いている。


 撤退していく兵たちを眺めた後、『彼』は振り向き、私を見つけると微笑んだ。

 その笑顔は、初めて見せてくれたものと同じで──



 だから私も、湧き上がってくる恐怖も疑問も全て黙らせ、同じように微笑んだ。


 これが私、アニヤメリアと彼、皇飛鳥スメラギアスカの旅の最初の一ページとなった──

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