英雄

@shino991

第?話 「循環」

 そこはまさしく地獄だった。

 町はその原型を保っておらず、瓦礫の山に死体が混じり積み上がっている。

 立ち込める煙に目が霞むような異臭が混じり、


 そんな中に、一人の少女がいた。


 その町にそぐわない、どこか遠い異国の服装に身を纏う少女の手には、彼女の背丈よりも大きな鋏が握られてる。

 だが、その特徴的な服装は見る影もないほどにボロボロで、握られた鋏も引きずることでしか動かすことが叶わない。

 あわぬ方向に曲がった足を庇いながら、鋏を握る腕を反対の手で押さえながらも、それでも少女は必死に歩き続けていた。


(もど、らない、と……)


 思考は何度も点滅を繰り返し、全身の痛みは段々と増していった。

 それなのに意識は眠るように遠のき、火照る体の熱を次第に感じなくなっていく。


 この惨劇の中に目的地などはない。そもそも、目的地があったとしても残っているのかどうかすら怪しいほどだった。

 第一、少女は今どこにいるのかも分かっていなかった。


 それでも、少女は歩き続けていた。


 たった一つの、大切な約束のために。


(………………ッ)


 無理矢理力を込める。

 激痛が全身を貫くと同時にふっと一瞬体が軽く感じる。

 

 そこで、彼女の意識は途切れた。

 力なく、ゆっくりとその場に倒れ込み、


 そして、彼女はいなくなったのだった

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