魔法少女☆再び戦場へ
魔法少女プリティエリアンは、その可憐な容姿に風を纏わせ、随伴するサポートキャラのラビと共に、件の現場へ空を飛んで直行していた。
蒼天の空に飛行機雲のように、魔法少女が尾を引くカラフルな光の帯と、ラビが尾を引く白い光が飛び位置を変えつつ交わるさまは、いかにも幻想的な様相だった。
「なー、マジで行くの? やっぱ止めとかない? 格闘経験とかもないのに、俺には無理だって」
「ここまできて往生際が悪いよ、アキ。大丈夫、仮に死んでも生き返らせてあげるから!」
「マジでぱないな超科学。でも、それ以前に生き死にとかかけたくねー」
遠くから眺める分には幻想的だが、近づくとこんな感じだった。
その後も同じような会話を繰り返し、ようやくテレビで中継されていた小学校の現場にふたりは辿り着いた。
上空で静止して、眼下の校庭を眺める。
確かに、多くの動物が校庭で暴れている。しかし目を引くのは、野次馬や警察や自衛隊、報道陣の数の多さだ。ご丁寧に交通規制や立ち入り規制もされている。
「あ。すでに魔法少女が現われることは各所にリーク済みだから」
ラビが至極当然とばかりに言ってのけた。
「はぁ? マジで!?」
いつの間に。というか、ただでもこんな姿で目立ちたくないのに、この毛玉、余計なことを。
「あのねぇ、アキ。いや、魔法少女プリティエリアン。アニメと違ってここには視聴者用の専用視点とかないんだよ? 正義の味方が、陰でこそこそ正義してどうすんのさ? 誰がその正義を見守るの? それで世論は得られるの?」
すごい呆れ顔で諭された。
理論的には間違っていないのかもしれないが、事の元凶に言われると無性に腹が立つ。
「ああ、ダメダメ。プリティエリアン。こうしている間にも、超望遠で狙われているかもよ? 言動には気をつけないと! 特にその顔は少女としてもNGだよ?」
そして、小声で付け加えられる。
「……身バレ、嫌だよね?」
「くぅぅ!」
アキラは覚悟を決めざるを得なかった。
男として、大人としての尊厳と、社会的と物理的な抹殺を天秤にかけたとき――尊厳などゴミ箱にぽいだった。
アキラはスイッチをONに切り替えた。むしろ心のスイッチをOFFにした。
今から俺は――いえ
プリティエリアンの身体から光の帯が周囲に撒き散らされる。
地上の人々がそれに気づき、上空を指差してなにやら叫んでいた。
距離があるので言葉は伝わらないが、歓喜の声であるとことはニュアンスでわかる。
次々上がる声の数々が一塊のどよめきとなり、蒼天の空に響き渡った。
プリティエリアンは上空から自由落下し、地上10mくらいの高さで静止する。
「魔法少女プリティエリアン☆地球の平和を守りに参上です♪ ぶいっ!」
星型の光を振り撒きながら、満面の笑顔での決めポーズ。
笑顔で隠した悲壮な決意のもと、魔法少女プリティエリアンは、大衆の目前に降り立った。
こうして衆目に晒されるのは二度目だが、一度目とは状況が違う。
前回は夜ということもあったし、なにより今回はこれでもかと名が知れて、しかも観衆の期待のさなかにあるときた。
(う……ストレスで胃が……)
プレッシャーがきつ過ぎる。
でも、どんなにきつくとも辛くとも、やらなければならないのなら、やるしかない。
そうやってこれまでも、ブラック企業の部長からの嫌味に耐え、営業ノルマをこなしてきたのだから。
小学校の校庭には、動物園から脱走した動物が放し飼いの状態で暴れている。
にもかかわらず、観客にも校舎にも被害が出ていないのは、なにかしらの統制された意志を感じる。
プリティエリアンが校庭内に踏み入ると、にわかに動物たちは騒ぐのをやめた。
無感情な眼で、じっとプリティエリアンを見つめている。
「やぁ~ときなすったか! 魔法少女!」
「誰っ!?」
居並ぶ動物たちを押し退けて、一頭の獅子が前に進み出た。
(ライオン……?)
いや違う。
獅子の背に誰かいる。
そこに仁王立ちするのは、同じく雄々しきたてがみのシルエット。
短い手足にぽっこりお腹。顔の部分がぽっかり繰り抜かれ、中学生くらいの勝気な少女の顔が覗いている。
なんというか――とてもファンシーなライオンの着ぐるみだった。
「あの……本当に誰ですか?」
なにかいろいろ台無しだ。
アキラが素に戻ってしまうのも致し方ないというもの。
「くっくっくっ! 誰かと問うたな? プリティエビアン」
惜しい、それはミネラル水だ。正しくはエリアンね。
アキラはすっかり醒めてしまっていたが、相手側は臨場感たっぷりに含み笑いなどをしていた。
「あたいは悪の結社ビジターナイツが第一の刺客! たあっ!」
着ぐるみはライオンの背から飛び立つと、空中でくるりと前転し、身軽に地面に着地した。
「
ガゥが凄み、親指で自分を指差した。
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