魔法少女☆おいてけぼりの宣戦布告

「くっくっくっ……なるほど、いいことを聞いたぞ、ラビとやら? ならば少数精鋭を以っての接近戦ならば、シールドも役には立たないということだな?」


「しまった! もし、人の大勢いる町中で戦うことになったら、一般人が巻き込まれるのを恐れてプリティエリアンの強力すぎる魔法も使えない! 周囲に人がいる状況だと、魔法少女の力は著しく制限されてしまうんだ! どうしよう、弱点がばれちゃったよ、プリティエリアン!?」


(あー、なにこの茶番劇……)


 アキラはとりあえずラビに合わせて焦ったふり(可愛らしく)を演じていたが、内心はげっそりだ。


 つまり、定番のヒーローものの条件を無理やり作り出したわけだ。


 Q1.何故か主人公を倒すのと世界征服が同義である。

 A1.魔法少女以外、敵にもならないから。

 Q2.何故か敵は少人数で主人公を襲ってくる。

 A2.大軍団では一網打尽にされる危険性が高いから。

 Q3.何故か敵には主人公もろとも都市を吹き飛ばす発想はない。

 A3.遠距離攻撃は無効化されて無意味だから。

 Q4.何故か近隣住民が死傷することはない。

 A4.守るべき住民がいなくなれば魔法少女の制限がなくなるから。


 ラビはすべてを心得ているが、相手のビジターナイツの総帥は、多分事情を知らないのだろう。

 上手く誘導されているだけで。


 白熱の戦いを演じるには、台本があってはいけない。だからこそ、ラビ曰くの植え付けられ、なのだろう。

 大筋だけが決められており、相手が本気で戦いを挑んできて、負けると人類滅亡。プリティエリアンもそれを避けるために必死になるしかない。


 俺の願い成就のためと思い、親身でこの筋書きシナリオを用意してくれた異星の輩にこそ、このマジカルアタックをぶちかませてやりたい――アキラは今度こそ本気で願った。どこかにこの願いを叶えてくれる心優しき異星人はいないのだろうか。


「では、さらばだ。魔法少女プリティエリアンと、そのサポートのラビよ。喜ぶがいい地球人! その魔法少女が倒れるまで、貴様らは命永らえることができるぞ!? はーっはっはっ!」


 大笑いと共に、夜空に映し出されていたスクリーンは消えた。


「悪の結社ビジターナイツ……総帥のダーククラウザーと、四天王のインペリアルナイツ……どれも恐ろしそうな敵だね! プリティエリアン!」


「そっすね……」


 呆れすぎて、ついつい地が出た。


 それにしてもラビ君。何度も何度も中継通じて敵も味方も名前連呼して、どんだけ大衆に刷り込もうと必死なの!


「てへっ」


 ラビは可愛らしく首(はないので身体?)を傾げた。ムカついた。


 そんな中、事の重大さを告げられた観衆は『魔法少女プリティエリアン』の名前を大合唱。

 戦う宿命を帯びることになったいたいけな少女――報道レポーターが涙ながらに中継し、自衛隊まで全員整列して敬礼している。


 地上の様子に、アキラは空中でびくっと後退りし、ちらりとラビを見た。


 ラビは、意味ありげに赤眼でばちばちウィンクし、やれ!やれ!と煽ってくる。


(ううう~~)


 もうこうなっては、後には引けない。

 今さら秘密がバレたら、すべてが終わる。社会的にも物理的にも。


「魔法少女プリティエリアン☆皆の平和は私が守るからね! ぶいっ」


 決めポーズ。そして大地を揺るがす大声援。


 巻き起こる熱狂の中、プリティエリアンはいずこへともなく去っていくのだった。



◇◇◇



 深夜にもかかわらず熱狂覚めやらぬ大通りから少し離れた近くの路地裏。

 そこに変身を解いたアキラとラビの姿があった。


 幸いなことに、変身時に消失したスーツなどの衣類は、解除と同時に元に戻っている。

 さもなくば、地球を救う以前に公然猥褻で留置所だった。


 よれよれのスーツ姿のおっさんは、打ち捨ててあるゴミ箱の中に酔っ払いよろしく吐いていた。


 変身中は感じなかった――正確には無理やり無視していた罪悪感と羞恥心が湧き上がり、ストレスで近頃めっきり弱くなってきていた胃に直撃した。


(マジカルなんとかって――いい年こいたおっさんが魔法少女ってなんなんだよー!)


 でも身バレは怖い。だったら戦うしかない。


 戦うのはいい。人生は戦いだ。仕事も命がけだ。金がないと生きていけないから。


 ただ問題は魔法少女だ。あのふりふりの格好で、ピースとかして、アニメ声で可愛く叫びながら。

 なんて羞恥プレイだ。恥ずいし、キモいし、情けなさすぎる。


 アキラは人知れず涙ぐんだ。

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