初恋 ~3season

茉莉 佳

may 1


          may



 その日の朝。

ほんの気まぐれで、いつもの散歩道じゃない道を通ったとき、ぼくの目の前に、彼女は、いた。

町外れのバス停。

かっちりとした紺のブレザーの襟元から、真っ白なシャツがのぞき、首には柔らかそうな紫のリボン。

胸元には小さなネームプレートが見えるが、ぼくの場所からは文字までは読めない。

赤いチェックの入った短いプリーツスカートをはいた君は、同じ制服を着た友達らしき女の子と、バスを待っていた。

ほっそりとしたからだに、透き通る様な白い肌。

ぱっちりと睫毛の長い、澄んだ大きな瞳は、五月の真っ青な空を写している。

ふっくらとした可憐な唇は、小鳥がさえずる様な可愛らしい声で、友達とのおしゃべりを楽しんでいる。

サラサラの綺麗な髪に輝くエンジェルリング。

それはまるで、地上に舞い降りた天使そのもの。

そして君は、不意に、ぼくの方を振り向いた。

瞬間、目と目があったような錯覚に陥る。

鼓動が速まり、ベルのように心臓が鳴り響く。

こちらを向いた君は、ひと言言った。


「来たわ!」


“ブロロロロロ…”


その言葉と同時に、不細工な重低音を響かせて、ぼくの横をバスが通り過ぎていった。

君のいる場所で、バスは耳障りなブレーキ音を軋ませて止まる。

ブザーの音とともに開かれたドアのステップを、軽やかにかけ上がっていくきみ

短いプリーツスカートが、腰の回りでヒラヒラと悩ましく揺れて、すらりと細くて綺麗な脚が、ぼくの瞳に強烈に焼きつく。

いわゆる『ビビビッ』と表現される、強力な電流がからだを走り抜けたようなショック。

真っ黒な煙を吐き出しながら、君を乗せたバスは、ぼくの目の前から走り去る。

早朝の空には、大きな雲の塊がいくつも重なり、その隙間からまるで神のお告げのように、天使のはしごが幾筋もこぼれ、バスの行く先に降り注いでいる。

鼻をつく軽油の匂いに、軽いめまいを感じながら、君の声が何度も何度も、ぼくの頭の中をリフレインしていった。




『来たわ!』

『来たわ!』

『来たわ!』

『来たわ!』



そうだ!

来たんだ!!


これがぼくの…




初恋!


つづく

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