第11話 見た目が8割


「コミュニケーションにおいて重要なのは、第1印象。ひいては見た目である」


 私は実感を持って言える。

見てくれで、サムネバイバイされたり、ブラウザバックされてしまえば、内容なんて見てもらえないのだ。

イラストやキャラデザの力は偉大なのだ。


「見た目、ですか?」


 肉塊は言葉の意味を理解できない様子だった。


「いや、何というか、もう少しコミュニケーションを取りやすくしたい」


「現在、不適切?」


「先ず、顔が何処なのかわからないから、何処見て話せばいいのかわかんない」


「顔、生成」


 肉の塊が伸び、球形の塊を先頭に作り出す。

まだどう見てもクリーチャー。


「もうちょっと可愛くできない?」


「参考、クドゥリュー様、記憶、読み込み」


 触手が私の耳の中へ


「うわ、やめっ」


「解析……拒否!? 逆流、防御、失敗、再生……制御不能」


 突然身体を捩って苦しみだした。


「え、何、どうしたの?」


《記憶を解析しようとして、何か良からぬものに触れたのだろうな》


「私の記憶にそんな不味いものあるの?」


《さあな》


「再再生、構築、」


 触手がすっぽ抜けて、肉塊が形を変える。

生々しい水音を立て変形が終わると、そこには薄紫色の髪をした少女が一糸まとわぬ姿で蹲っていた。


「おお、凄い」


《これがお前の記憶から?もっと悍ましい何かが出て来ると思ったのだが》


「失礼な!私の記憶は新品のスケッチブックみたいに真っ白!」


《それだと記憶が無いことにならんか?》


「まあ目覚める前の記憶とか……いやそんな事より、大丈夫?」


 蹲る少女を揺する。


「うぅ、形態変化?何故こんな事に?」


 少女と化した肉塊は流暢に喋り始めた。


「大丈夫なの?あと服は作らなかったの?」


「構成……失敗。変形能力……喪失を確認」


「取り敢えずこれでも着てなよ」


「ありがとうございます」


 外套だけでも羽織わせて年齢制限を下げる。

服はともかく、これで救助が来た時に誤魔化して逃げるには丁度よくなっただろう、後でそれらしいボスを設置しておけば囚われの姫達の完成だ。


「クドゥリュー様、申し訳ありません、弱体化しました」


「ああ、いいよいいよ。」


 弱体化して何か救助隊員が攻略しやすくなるなら万々歳だ。


「変形不可能。魔力感知は視覚のみ、眷属の精製……」


 肉塊が手を床に向けると、黒いタールのような粘ついた液体を纏った、四足歩行の異形が山程生み出された。


「召喚の弱体化を確認」


「前より強そうなんだけど……?」


「魔力耐性が大幅に減少。耐久性、速度ともに減少」


 見た目だけか、弱くなってるなら多分なんの問題もないだろう。


《どうやらお前の影響は眷属の方に出たようだな》


 関係ないから、いや絶対に関係ないから。

いくらなんでも、私の記憶からあんな化け物は生まれてこないから。


《お前はそう思っていても相手はそうでもないみたいだぞ?》


 黒々した球形の塊達が、歯をガチガチならしながら私の前へ擦り寄って来る。

尻尾らしきものがすごい速度で振られている。


 これでふさふさの毛玉だったら別に私は構わないんだけども、相手はネバネバの何かだし。


「懐いているようです、クドゥリュー様、撫でてみては?」


 これを?正気!?

こんなベタベタでネバネバのやつを!?


《ククッ、案外触りこごちが良いかも知れんぞ?》


「いや、むり茶漬けってうわっ!」


 体によじ登って来たそれらが、私を押し倒して、顔をベロベロと舐める。


 唾液だか、粘液だか分からないものが塗りたくられる。


「うぎゃぁぁ!」


 乗っかっていた奴らを払いのけると、ネバネバ達は何だがションボリしたような仕種を見せた。


 目がどこにあるのか分からないけど、たぶん上目遣いのつもりなんだろう。


「いや、可愛くないからな」


 せめて肉塊ちゃんの事を見習って、もう少し愛でられそうな見た目になってからやってくれ。

というかそれ子犬とかにしか許されない仕種じゃないかな。


「そういえば、迷路って今どうなってるの?」


「無事全ての侵入者が迷っています」


 それは無事じゃないんだけども!


《お前が作った迷路通りに作られているのか?》


「作った迷路みせてくれないかな?」


「承知しました」


さてさて、どうなっているものやら。



◆◆◆◆◆◆◆◆



 ミケ・クロフォードは薄暗い通路を歩いていた。


「あ、あの」


「う、うう、あぁ」


 周りにいる生徒や、教師に話しかけても、気の抜けたような声が返ってくるのみ。


「クドゥリュー、サマ、バンザイ」


 オマケにこの間の魔人を讃えている。


 皆、生気のない目をしており、明らかに尋常ではないのはミケにも見て取れた。


 捕らえられた生徒は肉塊に連れてかれた後、このように変貌していたが、ミケだけは放置されている。


 自分だけ無視され、放置されている事をミケは疑問にも思わなかった。


 いつもの事だからだ。

ミケがそれを自覚したのは、魔力が使えるようになったとある日の事。


 魔力が使えるようになり、それを自慢しようと、親の元へ駆け寄ったミケは、その喜びと興奮を全身に表して伝えた。


 しかし、両親は全くの無反応だった。

他の家と同じく、盛大にお祝いをしてもらえるもの思っていたミケはショックを受け、家出をするが、どこに行っても相手にされない。


 途方にくれ、街の近くを流れる川を眺めているとある事に気がついた。


 見下ろした水面には自分の姿が映っていなかったのだ。


 魔力が尽きた頃に発見されたミケは、その後、魔力を抑制する魔導具で、辛うじて人に認識されるようにはなったが、それでもしばしば暴走を起こし、人から見えなくなった。


 それは学園に来ても変わらなかった。

まるで相手にされない日々の中で、唯一他人から話しかけられたのは、魔力視の授業の事。


「お、おい、そこの」


 !二人組を組む授業なんて出来る訳がない、そう思っていたミケは嬉しさのあまり、声の方に駆け寄ってしまった。


 その相手が悍ましい瘴気を纏ってサロンに来たフーカという生徒だったとしても、ミケには関係がなかった。


 しかし、ようやく友達が出来るかもしれないという時に、魔人の襲撃とやらで台無しになり、今度は寮の部屋が完全に崩壊してしまった。


 絶対に許さない、そう誓ったミケだったが、仮設された臨時施設の廊下を歩いていると、なんとフーカが捕まっているという会話が聞こえた。


 友達になりうる人物を失う訳にはいかない、決意を固くして、突入するが、早々に他の生徒同様に捕らえられ現在に至る。


「この事件を解決すればきっと……」


 ミケが独り言を言っても周りの者共は無反応。


 あらゆる侵入者を阻む虚空塔の中、戦闘力皆無の人間が頂上へ歩き始める。

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