第14話 メガリザード!〜蘇る地底の怪物〜
瓦礫で切った傷が痛む。
死ぬかと思ったわ、なんなんあのビーム兵器。
世界観違いすぎるよ!聞いてないよ!
何で私がこんな目に!
異世界ファンタジー物って、畑に砂糖撒いたり、素手でドラゴン倒したり、ユニークスキルで二刀流したりするんじゃないの!?私のスマホはどこにあるの!?
「大丈夫?震えてるけど」
雑魚専の言葉で現実に引き戻された。
「だ、大丈夫!私をなんだと思ってるんだ!主人公だぞ!」
「まず深呼吸しよう、はい吸ってー、吐いて」
「すぅーはぁー」
そうだ私は私の物語の主人公、クールだ。クールにならなきゃ。
「ちょっと僕でも無理そうだ。あの人たちに任せよう」
大丈夫、最初から期待してない。
それにしても恐竜風の化け物が盾になったけど、まるで無傷なのはどういう事だろう?
むしろ大きくなってるような。
《オォォォオオォォォ、よくも私の店を!!》
私の店を…?
こいつ自分を店主と勘違いしている精神異常者か?
「ちょっと待って」
「早く逃げないと危険だ。あんな魔術を放つ奴らがマトモなわけない」
「いいから、いいから」
魔力の線を繋ぐイメージ。前に選定の剣にやったのと同じように。
《もしかして、バックリー?》
暴れている恐竜擬きに、念話で語りかける。確証はない。なんとなくそんな気がするだけだ。
《なんだ……?バックリー……そうだ、いや違う?私の言葉がわかるのか!?》
《いやまあ、うん。そうだよ》
《誰なのか知らないが、店を破壊したものを始末しなければならないんだ、後にしてくれ》
私の事がわからないのか。
自分の事も混乱しているみたいだし、そうだ。
《そこいる人達が、この店を破壊した全ての悪だよ。そこら辺に倒れてる奴らもそいつらの仕業》
《なんだと…よくも…よくもぉぉぉ!》
煙が口や鼻から噴出している。
そしてデカブツは光を放った相手へと向かって行った。
興奮するとそうなるのか、マンガみたいだ。
これでよし。
「じゃあ行こう、もう大丈夫のはず」
「なにか物凄く怒っているようだけど、何をしたんだい?」
「お話。さあ、早く逃げよう」
「そ、そうだね」
駆け出した私たちの後ろで、また眩しい光が炸裂する。
◆◆◆◆◆◆◆◆
レモナ様を置いて逃げてしまいました。
夢見が悪そうです、無事だといいんですが。
暗い倉庫に逃げ込んだ私達は寄り集まってどうするか話していました。
「お嬢、流石に俺たちじゃどうにもなりませんぜ、あんな化け物…」
「他の出口は?」
私は乗っている、犬のルル(先ほど名付けました)を撫でながら、なるべく落ち着いた声で聞きます。
「ここは一番奥の倉庫だ。あの部屋からしか外に通じる道はない。さっき様子を伺いに行った奴らは戻ってきてねえ…つまりまだあの部屋にいるんだろうよ」
「品物を運び込む入り口とかないのですか?」
「あるにはあるが、それも向こう側だ。」
「じゃあ……どうしようも」
「いや、まだ方法はある。確かこっちの方には売りに出す予定の奴隷の部屋があったはずだ。そいつらを囮にすればいい」
「そんな!いくらなんでも」
「お嬢、あんた珍しい奴だな。お貴族様の割りに。だが割り切れ。お嬢がこれから生きる世界っていうのは何も明るい所ばかりじゃねえって事なんだよ、まだお嬢には分からないかもしれねぇけどな」
「囮になんて」
「お、おい、なんか聞こえないか?」
嫌な響きの鳴き声が聞こえました。
ネズミか何かだったらどれほど楽だったでしょうか。
ルルの毛が逆立っています。
「ちょっと様子を見てくる」
そう言って部屋の外におじさんの一人は出て行きました。
「何だ、何もいな--う、ぐぁぁ!」
今は聞きたくないような、声と音。
「お、おい。ここにいるのも危険なんじゃないか?早く奴隷のいる所に」
「そうだな、だが何が起きているか分からない。固まって全員で行くぞ」
「お嬢、お手を」
「は、はい……」
差し出した手を、おじさんの誰かが握りました。
指輪でも付けてるのでしょうか、何か冷たいです。
「指輪ですか?」
「ああ、故郷にお嬢くらいの娘と嫁がいるんだ。あと今月の仕事が終わってお嬢からお金がもらえれば、娘を学校に行かせる事が出来るんだよ…」
「そうなんですか…」
適当な所で知らない顔しようかと思ってましたが、ちゃんと雇わないとまずそうですねこれ。
お家に相談しないと…
暗闇の中、手探りで進んで行きます。
途中何か毛皮のようなものが手に触れます。
慌ててロウソクの火を向けると、目の前に獣の顔が。
「ひっ」
思わず声が出てしまいました。
「売れなくなった剥製だ。心配するな……」
小声で教えてくれるおじさん。
少しだけ怖くなくなりました。
心なしか、体が軽くなったような気がします。
「そ、そうですか」
手元を照らしながら進むと、いくつもの動かない動物の顔が見えました、全部剥製なら怖くないです。
ちょっと血みたいなのが付いていても……付いていても……?
変わった形の剥製がありました。
口を開けた大きな蜥蜴の顔のような……?
「これは何ですーー」
「……」
返事はありません。
「あの……」
振り返ろうとして、握った手があまりにも軽いような気がしました、あまりに"軽すぎるような"。
私は振り返らず、黙って手を離します。
カキンッと音が鳴りました。
硬い何かを落としたような音。
そんな音を鳴らすようなもの、誰が--
「ルルッ!」
私はロウソクを蜥蜴の顔に投げつけ、意図を汲んだルルは、暗闇の中を脱兎の如く駆け出しました。
甲高い嫌な音がいくつも聞こえ、おじさん達の声は一つも聞こえなくなっていました。
「ルルッ早く!早く!」
私はルルの背中に必死にしがみついて逃げます。
夜目が効くのか、ルルはなにかの群れを上手く躱しながら、倉庫を抜け出しました。
そして、廊下には広がっていたのは絶望でした。
廊下には牙が並んでいます。
いえ、爪でしょうか?もうよくわかりませんが。
終わりました。多分、逃げ場は見当たりません。
《◾︎▪️◾︎▪️▪️ーー!!》
ルルは私を下ろして、蜥蜴の達に立ち向かいました。激しく動き回って、何とか私を庇っています。
「《氷精の息吹をここに!》《氷精の息吹を!》」
悪あがきです。手前の蜥蜴を飛ばしても後ろから次々現れます。
「《氷精の…》」
もう魔力も尽きそうです、ルルのお陰で何とか凌げていますが、これはダメそうですね。
フーカさんも間に合いませんでしたし。
きっと、レモナさんも見殺しにしたからでしょう。
私もここで終われ、という事なんでしょうね。
「あっ」
杖を落としてしまいました。
体に力が入りません、魔力を使い過ぎたようです。
蜥蜴の一匹が私の袖をその顎で掴みました。
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