第10話 しょーたいむ
杖を構えたおっさん達に囲まれている。
サプライズかな?
《呑気すぎるだろ、おい、隙あらば飲もうとするな、それはしまっておけ》
うるせえや、喉が渇いたんだ仕方ない。
《それを飲んでも乾くだけだろう》
彼らの背後から最初の偉そうなおっさんが歩いて来た。
バックリーだっけ?どうでもいいけど。
「商売を邪魔される訳にはいかないのでな、もはや我々は引き返せない」
「……なんか間違えてない?」
「間違えていないさ、大方スベトラーナが杖の出所を吐いたのだろう?卸していたのが我が商会だとな。だが、時間稼ぎもお終いだ」
「え?」
「外を確認させたが、それらしい者はいなかった。恐らく配下が始末したのだろう。もはや君を助ける存在はいない」
この世界にもドッキリってあるの?バックリーじゃなくてドッキリーさんなの?
《こいつらは本気だろうな》
男達の杖は私の方に向く。
《すこし気合いを入れろ、前にサロンで披露したのと一緒だ、我輩に魔力を寄越せ!》
そんなことしたっけ?私別に気を引き締めただけだったと思うけど。
「それでは勇敢な"両刃の斧"君。永遠にさようなら。おい、後は任せたぞ」
バックリーは部屋を出て行った。
「最後に言いたい事は何かあるか?、俺らも鬼じゃない墓にくらい何か書き残してやるよ」
リーダー格の黒服が言う。
その顔に張り付いた無表情が、これから行われる事の深刻さを如実に表しているようだった。
「…ちょっと待て、こいつを飲ませてくれ」
まだいくつか残っている小瓶を開けて、それをーー砕かれた。
顔に液体がかかる。
男の中の誰かが、魔術でやったらしい。
どこからか嘲笑するような声が聞こえた。
「なんつってな!わざわざそんな事するわけねぇだろ!!」
「今のは誰がやった?」
普段ならそれほど怒らない私の頭の中が、一瞬で怒りに満たされる。
騒がしい黒服の笑い声が一瞬止んだ。
「聞こえなかった?今のは誰?」
返事はない。
一瞬の間をおいて、リーダー格の男が答えた。
「まさか…"怒りによって目覚めた"とか言わないよな!ははははは」
一斉に湧き上がる黒服達、でも今はそんな事は全く気にならない。
《そうだ、魔力はそうやって出すのだ!これなら記憶も消費せず、我輩の『魔法』も多少は使えよう!》
さっぱりわかんないけど、いいだろう。
私の逆鱗に触れた報いを受けてもらおうか!
さあ、やってしまいなさい、イヴさん!
「オイなんとか、な、なんだその魔力はッ!き、聞いてないぞ!《契約書》にサインしたんじゃないのか!?なぜ魔力封じが効かない!」
取り囲んでいた男達が目に見えて怯え始めた。
そういえばこの人達にはイヴが見えていないんだったな。
《なに、せっかくだ今回は貴様に活躍してもらおうか》
つまり…どういう事だってばよ?
《黙って聴け》
《『舞台へ上がれ、小娘。余興を始めよ』》
どういう意味?そんな魔術があるの?
《《魔術》ではない…『魔法』だ》
「ひ、怯むな!始末しろ!」
リーダー格の男の声で、腰の引けていた男達が一斉に魔術を打ち出す。
目の前に見える色とりどりの魔力光。
いつの間にやら、魔力光も見えるようになっている。
《構えろ!そして言え!『端役よ、身の程を知れ』》
「え、『端役よ、身の程を知れ!』」
迫り来る魔術全ては、紫炎に飲み込まれ消える。
そして紫炎はそのまま部屋を取り囲んだ。
おお、なんか派手。これが魔法ってやつ?
《それだけではない。引き出した魔力が尽きるまでの間、お前は主役だ。想像しろ、全てはその通りになる》
よくわからんが分かった!
「さあ、覚悟はいいか?私はできてる!」
《決め台詞にしてはイマイチだな》
じゃあやり直そう。ここからは私の世界だぜ。
「『カットですカット!イマイチだったんでやり直します、監督もそれでいいですよね?』」
《何を…?》
監督に向かって叫ぶ。監督は壁の向こう側からOKのサインを送った。ありがとう監督。
「え、あ、はい?な、何?監督?」
黒服達は虚をつかれ混乱の中。
「『アシスタント!こいつをつまみ出せ!』」
何処からか、インカムを付けた屈強な青年が数人現れ、有無を言わせず黒服を連行していく。
「お、おい!?何処に連れていく!」
「『役者が退く所なんて奈落に決まってる!』」
青年達の足元に穴が空き、数人の黒服と共に闇に飲み込まれていった。
後には何も残らない。
勿論床は優秀な美術係が直して行った。
「な、何を!」
「『出番が来るまでお座りしてな!そしたら名犬になれるぜ?』」
黒服の中にいた紅一点の娘は、秋田犬に姿を変え、お座りをする。
《こんな使い方をする奴は居なかったな…》
そうか?私の世界では一般的だったような気がするぞ?ほら仮面つけてるし。
「よし、『大人しく位置につけ!監督がお怒りだ!さあ、3.2.1.アクション!』」
「な、何故魔術が使える!誓約書に…せい…」
秋田犬はセリフをとちった。
「『ちゃんと人間の言葉を喋れよ?犬だから難しいのか"ビックパピィ"よぉ?餓鬼をこさえるだけが取り柄なら、ポルノビデ』」
「しゅ、主演だからってそれは言い過ぎだ!差別的だぞ!」
横から突然、金髪の青年が現れ、私に抗議をする。
黒服達は唖然としている。
「『主演は私だ、ヒーローだ!主人公だぞ!完璧なものじゃないと…いや、もういい。あとで撮影すれば良いさ。私も少し冷静じゃなかった。すまない』」
ニックは怒りに震えているようだ。
「犬っころ…なんて酷いんだ!多様性を認められないだなんて!」
しょげている秋田犬はニックを舐めつつ、こう言った。
「いいんだ…ニック。僕が悪いんだ…次はうまくやるよ。」
「…ああ、僕は君の味方だ。何があっても」
感動的だな、だが無意味だ。
「『よし、再開するぞ…いや、曲が悪いな、暴力的なシーンだから若い子が好きそうな頭の悪い曲にしてくれ』」
何処からか軽快な音楽が流れ始める。
私が生前聞いたことのある音楽だが、ここは権利会社の顔を立てて、歌詞は表示させない。
「音響魔術だと!まだ他にも仲間がいるのか!?」
「『ボッシュート。セリフはちゃんと守れ』」
また1人奈落へ連れてかれて行く。
「『撮影を再開しよう!アクション!』」
「
《あまりに下品でないか?》
知った事か!まだマイルドでしょ!
襲い来る黒服の拳やら交差する魔術をアクロバティックに回避しつつ、一人一人始末。
今の私のならガン=カタもできる。
勿論銃は無い。作ってもいいけど、スマホ太郎にはなりたくないので作らない。
大男が殴りかかってきたのを交わし、足を払う、その体を踏みつけ跳躍し、後ろからの魔術を避け、懐の酒の小瓶を投げつけ奥の黒服をノックアウト。
横手に回った奴の魔術は紫炎が勝手に飲み込み、返す刀で滑り込んだ私の蹴りが炸裂、壁の花に。
「『壁とでも話してな!』」
ナイフで切りかかってきた手を蹴り飛ばし、宙に浮いたそれを掴んで長々しい詠唱をしていた黒服へ投げる。飛び散る赤。
「まだいたのか」
一斉にかかる他ないと見たのか、囲んで来る黒服達。
「
座っていた秋田犬が背後から襲いかかる。
私はその一瞬の隙をついて、包囲から抜け出し、食いかけの干し肉を投げる。
「はっ、何かと思えば只の干しに」
「『カモン!シャークネ……タイフーン!』」
地面が水のように波打ち、黒服達を巻き込んで竜巻が起こる。
巻き上げられた空飛ぶサメが黒服と秋田犬を連れて彼方へ消える。
「
《え、お前がやったんだろ?》
「『血も涙も無いのか!秋田犬の為に涙も流してやれないなんて…と以前の私なら言うだろう。だが、ニック』」
「なんだ?」
「その服、前と後ろ逆だぜ…」
「……!」
「本来一番辛いのは相棒のニックさ、だが彼はあえて耐えているのだ。ここは…敵地だからな!わかるだろ!」
「ああ!そうだな!」
スタッフが連れてきた代役の黒服達も頷いている。
「…!秋田犬のリードが…」
彼らが消えた先から彼のリードがひらひらと落ちてきた。
「うぅ、秋田犬…あきたいぬぅぅぅ!!」
「『ここは敵地…
しかし皆は感情をおさえきれなかった…
私は叫んだ、秋田犬の名を!
ニックは流した、悲しみの涙を!
けれども秋田犬の名をよんでも帰ってきたのは残酷な秋田犬だけ……………
秋田犬は死んだのだ…
残酷な秋田犬とニックは静寂によってこの事実を秋田犬………』」
《おい、帰ってきたぞ、その犬》
残酷な秋田犬が駆け寄って、泣き叫ぶ皆をなぐさめる。何て感動的なんだ、だが無意味だ。
「『フィニッシュだ!ニュークリアパンチライン!』
部屋の中の存在は全て爆風に吹き飛ばされた。
背景には私のイメージカラーの爆煙。
何色かはわからない。
「『これが"フロム・アナザーディメンジョン"だ!』」
決めポーズを考えておかないとな。
「こんなの関わってられない!割に合わない!逃げるんだ!」
生存者の黒服と秋田犬は部屋から続々と逃げていく。
「逃すとでも…?あれバックリーのおっさんは?」
《お前が訳のわからんショーをやっている間に逃げていったぞ》
ま、いっか。別に。
《…二度とお前には飲ませんよ》
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