第16話 冬

 季節も移り変わり、コートを引っ張り出す季節になりました。そろそろ推薦入学で大学入学が決まった人が出てきている時期です。


 私ですか? とりあえず志望大学には行けそうな感じです。まずは第一段階の推薦入学試験を受けて、その結果待ちです。ここで落ちても、普通に試験を受ければ良い訳ですしね。


 そんな風に悠長にしている私は、勉強はひとまず置いといて、最近お気に入りの小説を読みながら、ひとりで教室に残っていました。ちょっとした相談の依頼が入っていて、そのために残っている訳です。





 しばらくして教室に入ってきた彼女は、隣のクラスの同級生です。学内でも指折りの美人で、目はパッチリ睫毛も長くて、綺麗な瞳が印象的な人です。


 私が座っている席の隣の椅子に座って、何とはなしにお話を始めます。


水織みおり、相談って訳じゃなくてただのグチになっちゃうけど、聞いてもらっていいかな?」

 私は彼女に視線を向け、無言でうなずいてお話の先を促します。


「アタシ、〇〇と付き合っていたってのは知ってるじゃない? でもね、数日前に別れたの。なぜだと思う? アイツの浮気よ。他の女とも付き合っていた訳。いわゆる『二股』ね」

 彼女は深呼吸するように息づきをして、言葉を続けます。

「で、アイツは別の女を選んだって訳よ。それでその女がどんなヤツか、見てみたかったのよ。それでソイツの顔を見てみたら……」

 そこで大きくため息を吐き出し、顔を下に向けて右手で額を押さえます。

「アタシよりもブスだったのよ……。なんだか情けなくって……」

 さらに顔を天井に向けて、目をおおうように右手をかぶせ、ゆっくりと深呼吸をします。

「なんでアタシじゃダメだったンだろうなぁ……」





 しばらく無言の時間が流れます。遠くからは、そろそろ帰ろうと談笑する下級生の声も、わずかにします。先生たちも授業を終えて、ひと段落と言った所。職員室に戻って、明日の準備です。


 ちょっと空気が重くなっていた所で、私はなるべく優しく、言葉を選んで声を上げます。

「気休めにしかならないけど、一言言っていい?」

 私の言葉に反応し、少し顔をこちらに向けてくれます。

「浮気って、言ってみれば『裏切り』じゃない。一度裏切った人は、何回でも裏切るよ。麻薬みたいにね」

 この言葉にはウラが取れています。そのお話の男、さらに別な女の子に手を出しているという情報が入ってきています。もうこうなると、つける薬もありませんね。

「そんな裏切るヤツは信用できない。なら、今度は信頼できる人を探す。その方が賢明だと思うけど」


 私の言葉を聞きながら、彼女は私を食い入るように見つめます。その大きな瞳は濡れてキラキラとしていて、同性の私でもドキッとしてしまいます。


 私の言葉が終わって少しの間を空けて、「ずずっ」と鼻をすする音をかすかにさせて、彼女は元気よく立ち上がります。

「そうよね。次はちゃんとしてる人を探さないと。じゃ、報酬と行きますかね。角のファミレスでいい?」

「お、いいね。パスタとドリンクバーをお願いしちゃおうかな」

「オマケでピザもサービスしてしんぜよう。ありがたく思うがいい。フフフ」


 肩で風を切って歩き出す彼女に、もう迷いは無いようです。

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