第8話 私の友達

 私は自分の耳の良さから、あまり周りに友達というものを作った事がありません。近くで大声を出されてしまえば卒倒してしまうほどですし、感情を込めた言葉でしたら強烈な匂いや刺激を感じてしまいますから。


 そんな私でも、この学校で唯一、たまに行動を共にしている友達がいます。それが『たちばな 結奈ゆな』、隣に居ても疲れない人です。


 彼女は、スカートは折って短く履き、第一ボタンも外して首もとのリボンタイはユルユル、髪は茶色に染めて緩くウェーブをかけている、いわゆる典型的な『不良』という立ち位置の人。


 なぜそんな人と一緒に居るかと言うと、とにかく言葉が穏やかなのです。





「そー言えば、なんで『みおっち』は『あーし』の友達でいてくれるの?」

 一緒に放課後に教室に残り、勉強をしていた時、そんな事を聞いてきました。

 私の事は水織みおりなので『みおっち』と呼び、自分の事はあたしが訛って『あーし』になっている訳で。


「んー。結奈は嘘がつけない所かな?」

「えー、嘘くらいつけるよー」

 ちょっと意地悪そうにニヤニヤと顔を崩しながら反論してきますが、そこは勝手知ったるなんとやら。


「そんな事ないよ。嘘をつくと、目線が泳ぐし」

 ギクッとなった表情をして、慌てて視線を遠くに投げます。

「まだあるよ。嘘をつく時、声のトーンが上ずる」

「え、ええー? そんな事ないよー」

 思いっきり上ずってる。


「ほら。もう声と表情に出てる。嘘がすぐ見抜けるよ」

「むうー」

 指摘をする私の言葉が、彼女にとってはいささか不本意だったようで、むっくりと頬を膨らませて膨れっ面になってしまっていました。

 もうその表情が可愛くて面白くて、「ぷふっ」と笑ってしまいました。

「何が可笑しいのよー。もー」

 そんな膨れっ面のままで文句を言っても、説得力がありません。


 それに彼女の言葉から感じる匂いや色は、すごく穏やか。いつも『腹の探り合い』をしているような言動をする周りの人たちと比較して、その裏表の無い言動が、私にとってはとても心地よい印象になっているのです。私にとっては貴重な人ですね。





 そんな彼女に勉強を教えながら、自分の宿題もある程度済ませてしまったり。そんな放課後を過ごしている訳です。


 外では野球部でしょう、大きな声を張り上げて自棄ヤケになって、練習に打ち込んでいます。シートノックと言うものでしょうか。


 そろそろ影も長く伸びてきて、秋に入ろうとしている季節です。過ごしやすい季節ですね。




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