第5話 テスト
その日のお昼休みの時間、私の目の前にはいくつもの紅茶のペットボトルが並んでいました。
無糖ストレート・甘いミルクティー・濃い目のロイヤルミルクティー・スパイスの利いたマサラチャイ。マサラチャイに関しては、冬季限定で今の時期には手に入らない品物でした。
まあ簡単に言ってしまえば、私の情報が是が非でも欲しい現れなのですが……。ここまでしなくても…ねぇ。そしてその子が欲しい情報というのが、今度の期末テストの情報なのです。
「お願い! 次のテストでちゃんと点を取らないと、アタシ追試なの! 確実に出る問題を教えて。一生のお願い!」
あなたの一生がいくつあるかは知らないけど、一生のお願いをし過ぎだとは思ってます。それにこの情報は私でも厳しいものがあるのです。
求めている情報は、次の期末テストの数学の問題、その詳しい内容。
実は私でもその情報は入手しずらいものでした。
他のテストの場合、そのテスト問題を担当している先生がパソコンでパタパタ入力する、そのキーボードの音の位置で大体どんな問題を入力しているのかがわかるのですが、数学だけは別で、担当している先生が問題をスキャナーで取り込んで、それをテスト用紙にコピー&ペーストで貼り付けるという方法を取っているようなのです。
そのため、音から類推する事も出来ず、どんな問題が出るのか私にもわからないのです。ただ取り込む問題は教科書をスキャナーで読み取っているので、どこのページかは音からわかる、そんな程度です。
「ふう……。とりあえず先生が言っていた、22ページから34ページの問題。それから先々週の小テスト、そこを徹底的に解くしかないわよ。私だってそんな情報は持ってないから」
ある程度の問題の絞り込みは出来るものの、私でもわからない情報。だからこそ、私も数学の点数はあまりよくないのです。
ちなみに他のテストですと、ほぼ100点は取れるのですが、そこは怪しまれないようにわざと間違えていたりします。そういう手も必要なんですよ。
「ねぇー。もっと確実に『ココっ!』って言う情報は無いの?」
「持ってません。残念ですが。さっき言った所をちゃんと勉強するしかないわ。なので、この情報料は受け取れません」
と言う事で、ペットボトルの紅茶は全て返す事に。マサラチャイは残念だったな。あれはなかなか美味しいのに。
「…なによ、折角用意したのに…」
ブーブー言いながら、紅茶のペットボトルを抱えて出ていく彼女。次の瞬間その顔には、追試を受けなければならない諦めの表情が浮かんで、視線が何もない空間を見つめていました。
こればかりは情報が無いですから、仕方ない事なんですよね。彼女には、是非ともテストを頑張ってもらいたいです。
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