第2話 幼少の頃

 私に異常な能力が備わっているとわかったのは、私が幼稚園に通っていた頃の事です。





 物心ついた頃から、私は耳が良くて、幼稚園にお迎えに来てくれる父や母の足音を、離れた園内で聞き分け、すぐに玄関に駆け出している、そんな子供でした。


 私にとってはそれが『当たり前』で、『他の子供もできる』と思っていました。ですがそうではない事を、苦痛をもって知る事になりました。





 あれはある晴れた日の午後の事でした。


 同じ園内にいるある子供が、何かのキッカケで泣き出したのです。癇癪かんしゃくを起こして泣く子供って、普通にいますよね。


 その泣く子供に釣られて、他の子供たち数人も泣き出してしまったのです。保母さんも困った事でしょう。よくある日常です。


 ですが私は違いました。


 その泣き声が、まるで稲妻のように耳をつんざき、その音が持っている『色』や『匂い』や『感触』が、私の五感をこれでもかと刺激して、例えるなら「お寺などに吊り下がっている釣鐘の中に閉じ込められ、周りからガンガンに叩かれている」ような状態でした。


 子供の私にとってはとても耐えられるものではなく、耳を手でふさいで目をギュッとつむり、その場にヘタリと座り込んで声も出せずに涙をこぼすしかなかったのです。


 泣き声が一通り治まると、ようやく様子がおかしい私の元に保母さんが駆け寄ってきてくれ、私の背中をさすってくれました。そして私は目を開けて周りを見たのです。そうしたら、私のようにうずくまって苦痛にあえいでいる状態の子供は、1人としていなかったのです。


 その時に子供心でもわかりました。「」と。


 それからはよく周りの人たちを観察したり話を聞いたりして、どのくらいの音なら聞こえるのか、音に『色』や『匂い』はあるのか、どの範囲までが普通なのかを調べ、それに合わせるようにしたのです。子供の私なりに直感でわかったのかも知れません。


 周りの大人たちから見れば、奇妙な子供と映ったと思いますよ。ですが、私にはとても重要な作業でした。慎重に慎重を重ねて調べて回ったのです。






 小学校に上がる頃には、そういった他人との差も理解でき、音の感覚の調整も出来るようになりました。


 また、音に『色』や『匂い』が伴う事を『共感覚きょうかんかく』と知ったのも、このくらいでした。これもまた、私の能力の一部だったのです。


 そして現在に至る訳です。


 今では、まあまあ役に立つ能力かな、くらいには思っています。良くも悪くも私に備わっているこの能力、とりあえず他人に隠しつつうまく使いこなせているのが、今の現状です。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る