第11話 交換日記
セレナとカインはいつも通り、勉強するため木陰にいた。
だが、授業前にカインから「提案がある」と言って、ノート2冊を並べるのだった。
「セレナ、日記の件だがな、わかった」
カインは真面目な表情で言う。
「これも将来の事業拡大、果ては俺のためでもあるもんな。日記、書いてみるよ」
カインがそう言ったので、「じゃあ、今日から!」と言ったときだった。
「ただし、条件がある!!」
「何ですか?」
「俺だけ日記を書くのはつまらないからな。セレナも英語まだまだできてないだろう?」
「そ、それは、そうですけど・・・」
セレナはこの異国の地に着て既に一か月が経とうとしていて、簡単な日常会話をスムーズに発音できてきたりと、成長は見られていた。だが、まだ長い文章などをスムーズに話すことはできていない。
カインがいなければ、ジークたちと塀で会話をすることも、ままならなかった。
「ですが、まず、カイン様の―」
「そこでだ。俺だけが書くのは
セレナの驚く表情を、別の意味に感じ取ったのかカインは満足げに話を進める。
「使用人に買ってもらった同じノートが2つあるから、コレで、お互いの日記を書いて、次の日にお互いの文章が間違ってないか書くんだ。これなら、俺だけ変な文章で書いてても恥ずかしくない!どうだ!?」
「はい、賛成!!です!!」
瞳を輝かせながら手を挙げるセレナがいた。
予想外の反応だったのか、カインは全くの逆で驚くのだった。
「カイン様が私に英語を教えてくれる!!今日あったことを書くなら、庭の花が咲いてたこと?それとも、コック長が新しいお菓子を作ってたこと?それなら、今日のお仕事も書きたい!どうしよう!書きたいことがあり過ぎる―――!」
と言ってはノートを抱きかかえながら飛び跳ねて喜んでいる。
あとからカインから聞いたのだが、カインとしては自分一人だけ日記を書くということは恥ずかしくて避けたかったという。
――こうして、ふたりの摩訶不思議な交換日記が始まった。
語学学習の一環だったが、カインとセレナは今日あったことを書いていた。
次の日。
日記は翌日に庭で勉強する際に採点し合うことと、二人で決めていた。
「セレナ、書いてきたか?」
「はい!頑張りました!」
セレナは書いてきた日記のノートをカインに手渡す。
そして、庭の芝生に座り、相手の日記を開いて確認し合った。
「う!」
「まあ」
お互いに驚きの声があがった。
「セレナ、ここまで書かなくてもいいだろう!添削するの大変じゃないか!」
「カイン様、少ない!もっと書いてください!」
カインの日記には3行ぐらいの日記で、文字数が少な過ぎた。
一方、セレナの日記には紙一ページ分、余すとこなく一杯に書かれていたのである。
慣れない文字を書いているので、お互いに下手くそな文字で、スペル間違いやら漢字の間違え、文章の最後が変な文章で締めくくられている。
「・・・仕方ない、とりあえず添削しよう!」
「はい」
お互いに文字を書き込み、その都度間違っている個所をノートに書きこんでいく。
カインは添削するフリをして、セレナをちらっと横目でみていた。
(なんだって、自分のことを書くのがそんなに楽しいんだ?)
他人にそこまで興味も湧かなかったカインだったが、己自身のことも好きというわけではなかった。
(サッパリわからない。おまけに、アイツらの手紙で最近まで距離をとっていたのに・・。たく、アイツらからの手紙もホントに余計なことしてくれる。)
古い旧友たちからの手紙には、昔お世話になった孤児院のおばあさんのことや、街で知り合った他の子供たちからも、心配している、といった気持ちの文面がライナーの文字によって綴られていた。
そのなかに、こんな文があった。
”セレナって、カインの彼女?”
と書いてあった。
(そんなことはない)
そう思っていた。
だが、セレナが屋敷の外でメイドとして仕事をしている姿に、思わず女の子として意識せざるおえなくなっていたということは、認めざるおえない。
それに、自分が涙を流しているところさえも――――見られてしまった。
(人前で見せたことはなかったのにな・・・)
だが、それでもよかったのだ。弱い自分を受け入れられていると実感ができていた。
そして、手紙と一緒に同封されていた新聞の切り抜き。切り取られた新聞の記事を読んだカインは驚いた。セレナは街の中で、何も言わずにずっと走って後をついてきてくれてたからカインは何も知らなかった。
多分、屋根でアイツらを追いかけていた時に一度セレナの帽子が飛ばされていたのだろう。そのときを偶然目にした自衛団か誰かがいたはずだ。
セレナは益々外で自衛団たちに会ったら髪の毛ですぐバレるだろう。
そして友人たちの犯行で、セレナが逃亡に加担した一員だということも。
(セレナの髪を見られていたのが、幽霊として取り上げられていたとはな・・・)
だからこそ、あいつらはこの記事を同封したのだろう。
『セレナをしっかり守れよ』
数枚の手紙からは、そんな言葉を友人達が言っているような気がした。
――セレナが来てからというもの、こうして日記などで愚痴やたわいない会話を言い合える日々がいつまで続くかわからない。けど、カインは主人としてセレナを守れるようになりたいと思っていた。
あの日、大勢の人たちの前で殴られ、カインの傷ついた心に急に入ってきた、十二歳の少女、セレナ。そして、俺よりもツラい生活を送っているのに、それでも俺のことを心配してくれる友人達。
この仲間たちを守れるようになりたい。
「ご主人様、できました?」
セレナが急に日記の文章から目線を外してこっちを向いてきた。
「え、ああ、ちょっと待っててくれ。セレナ、文字が多すぎるんだよ」
慌てふためきながら、庭一面に涼しい風が吹き込んでいた。
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