第9話
目を覚ますと最初に連絡帳に目を通す。
雨音を聞きながらページを繰って、昨夜、良二が書いた文章に行き当たる。
「え!?」
僕は慌てて立ち上がり、窓から庭を見下ろす。
雨のせいか、犬小屋に入っている子達もいるので、ゴローが本当にいないのかは判らない。
階段を駆け下りて庭に出る。
散歩に行くと思ったのか、全員が顔を出すが、ゴローの姿は見当たらない。
「はは」
何故か笑ってしまう。
嬉しいような、不安なような、いろんな感情が込み上げてくるけれど、まずは規理乃ちゃんに迷惑をかけたんじゃないだろうかと心配になる。
改めてノートを見る。
良二はいつも、簡潔にしか文章を書かない。
それはそれで判りやすくていいこともあるのだけど、今回みたいな出来事だと、その情報量の少なさが腹立たしくなる。
〇校舎裏で椎名と昼飯を食った。
探し物があるみたいだが、根古畑の人間は信用できないそうな。
アイツは幼稚舎から女子校で男子が苦手。
弁当を見る限り、料理は上手そう。
〇タロウ、サブロウ、ゴローが学校に来たので、一晩ゴローを椎名に預けた。
これだけだ。
なんでやねん!
柄にもなく僕がツッコんでしまう簡潔さ。
事の経緯が端折られていて、なんでそうなったのか全く判らない。
いや、経緯だけじゃなく、結果としての規理乃ちゃんの反応にも全く触れていない。
僕は良二のことは信頼している。
だから普段、彼の言動は把握していなくても、わざわざ他の誰かに彼のことを訊いたりはしない。
連絡帳は、あくまで日常に不都合が生じないようにする補完的なもので、彼の行動を監視したり、報告させるためのものではない。
それは判っているけれど、最も近しい存在でありながら、最も認識できない存在とも言えるわけで、全く問題ない、などと落ち着いていられないのも確かだ。
それに、良二には強引なところがある、というのも、長い付き合いから理解しているし……。
やはり、居ても立っても居られない。
手抜きの朝食と、いつもより短いコースの散歩を済ませ、僕は足早に学校に向かうことになった。
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