第22話 『敵は幾万ありとても』
郷志の初めての模擬訓練は、学長他、櫻子らに見守られる中、無事にその腕前を披露することに成功した。
普段はひとつ褒めたらダメ出しはその倍ほどにすると言われている学長ですら、手放しの絶賛であった。
それを一歩引いた位置で見ていた飛島飛鳥は、たしかに素晴らしい腕前ではあったが、それ程に褒め称えられるような腕前だっただろうか、と首を傾げたくなった。
先ほどの模擬訓練が、数字で見えるカタチにされれば分かるかもしれないとデータの表示を待ったが、それも確かに高得点ではあったが、それでも歴代の高得点保持者達に比べれば然程驚くほどのものでもなかった。
(普通に出撃して普通に殲滅して、普通に帰還しただけ、よね?確かに被弾ゼロ、母艦への被害もなし、だけどそれだけ。私にもアレくらいは問題なくこなせる。いえ、間違いなく私にも出来る。ならば何か別の、彼がアレほど絶賛される理由があるのかしら。でも、確かに不思議、何かが違う)
そんなことを考えつつ、再びモニターに流され始めた郷志の模擬訓練映像を、飛鳥は食い入る様に見つめていた。
(……ていうか、なぜ現行のMk.46を九三式とか訳の分からない名称に? Mk.45なんて魔法陣を描き直しされてる?)
「よし! 文子! 我々もやるぞ!」
「はいはい、そういうと思っていたわ」
飛鳥がまんじりともせずモニターを見つめていると、もう我慢ならぬとばかりに、櫻子が文子を促して模擬訓練機に乗り込むことを告げた。
すわとばかりに振り向いた櫻子は、はたと思い立ったかのように背後に立ち尽くしている飛鳥に向かって声をかけた。
「よし、そこの君! 飛島候補生! 君も参加したまえ! それと高倉正六位、君もだ」
「え?」
「私も? ちょ……従三位! 私は鴫野従四位の付き人と言う立場であって、教官としてこちらに赴いたわけでは」
「ん? 君も奏者の資格は持っているのだろう?」
「それはそうですけど、従三位程の方と轡を並べる域には達しておりません」
「私は別に気にしない、さあ!」
「えええええええぇぇぇえぇぇ」
ついでとばかりにオペレーター席についていた高倉にまでも声をかけ、否応なしに引っ張っていったのである。
「鴫野殿! そのまま降りずに待機していて欲しい。引き続き小隊規模での模擬訓練といこう!」
郷志の乗る模擬訓練機が完全に停止する前に隣の模擬訓練機に滑り込んだ櫻子は、マイク越しに簡潔に伝えると即座に模擬訓練機の起動を行った。
『え? ええ?』
終了寸前にいきなり割り込みが入ったモニターに驚いた郷志は、「あ、これ HERE COMES A NEW CHALLENGER!状態だ……」と呟いていた。
格闘ゲームではお馴染みのお約束とも言えるが、お一人様遊戯を行っていても発生する、いわゆる乱入である。
郷志にも山ほど経験があるが、ゲームにおいての『ミスマ』ではストーリーモードやタイムアタックモード等の各種モードで遊戯している際にでも、【対戦者を受け付ける】にチェックを入れていれば、そのまま対戦モードに移行するのである。
今回のような共闘モードもあるにはあったが、寧ろ初心者にヘルプを求められて参戦する事の方が多かった郷志であった。
「うう、なんで私まで……無駄にあった奏者適性のせいなのねそうなのね……」
無理やり模擬訓練機のハッチに押し込められた高倉紀都正六位は、しぶしぶながらもその姿勢を正し、起動を開始したようである。
他の面々もするすると手順を進め、郷志の目に映るモニターには、櫻子を隊長とした小隊の状態がモニタリングされ、それぞれの準備が完了までの時間が秒刻みで表示されていた。
「五騎小隊での作戦かぁ……」
【モードは何を選択されるのでしょうね】
「前ん時は小隊規模戦といえば無双モードかチーム対戦の二択だったけどな」
ソロでも行える、敵が無限に湧いて出てくる無双モードと、同じ小隊規模の相手とどちらかが全滅するまで戦う対戦モードがあったのだ。
無双モードでは、一度にフィールドに現れる敵の数とその強さが指定でき、初心者からトップランカー、ソロから団体様まで対応できる仕様となっており、その上で様々なクリア条件が設定されていた。
対戦の場合は奏者同士によるネットワーク対戦が行え、参加メンバーの平均レベルによって対戦相手がマッチングされる仕様となっていた。
この世界ではどのような選択肢となっているのか、郷志はまだ知らないが、それほど違いはないだろうと考えていた。
【データベースの検索を行った結果、過去の実戦データを元に加工を施したものが多数見つかりました。様々な種の単体敵性体を単騎若しくは小隊規模で討つもの、多種多様な複数の敵性体が混在して出現し、これらを各種戦術単位で殲滅するもの、あるいはチーム対戦と同様の対機導魔装戦も発見致しました】
「よりどりみどりってことか」
まあどれでもやることは同じだ、と苦笑する郷志であった。
『それでは模擬訓練を開始する。状況は坩堝の氾濫、規模はレベル5だ』
『従三位、それって?』
『ああ、『最も深く闌けき坩堝』と同規模の坩堝が氾濫を起こしたと想定、同時刻に坩堝内で作戦行動中の部隊の撤退支援だ。難易度はそうだな、どれだけ生き伸びられるか、といったところか』
『また無茶をするんだから……』
『模擬戦闘で手を抜いてどうする。どこまで出来るかを把握出来ていなければ、そもそも実戦での引き際を見極めきれんぞ』
『了解了解。それじゃ始めましょう』
櫻子と文子の交信を耳にしながら、郷志は前の頃を思い出していた。
(ああ、無双モードの中でも悪名高い【○○分間の間生き残れ】って手合と同じか)
【そうですね。アレは最初の3分を生き残るとリザルトが表示されつつ次の3分が開始される鬼畜モードでしたが】
(まともな記録はソロでしか残せてないけど、最高で何分だったっけか)
【マスターの記録は25分3秒、ソロの世界記録は32分58秒です。なおチーム戦】
(……あの店に来る廃レベルな奴ら、みんなガチ勢なんだもん。俺みたいなエンジョイ勢が組んで貰える訳無いじゃん)
【そんな廃レベルなガチ勢奏者を差し置いて対戦勝率は店舗トップでしたが。エンジョイ勢カッコワライですねわかりますん】
(うるへー。対戦勝数とかタイムアタック記録とかじゃやり込み度合いが数字に出るんだから追いつけるわけないんだし、別方向から攻めて何が悪い)
いちおうまっとうに社会人をしていた郷志にとっては、対戦数を稼ぐと言っても時間的制約上限度があるし、タイムアタックにしても同様に手のひらが擦り切れるまでやり込むことが上位に食い込むための第一歩だった。
その差を埋める為に課金でガチャるのだって、社会人的にクレジットカードの支払いを考えたら月に諭吉さん数枚が彼の限度であったため、知る人ぞ知る、と言ったイメージがゲーム内での郷志の扱いであった。
まあ、上位ランカー陣に割って入る事よりも、自機の改修やらの方にかまけていた為に、別の意味で知る人ぞ知る扱いでもあったが。
そんな事を文字で会話していた間に、他の面子の準備が整い、発進の指示がモニターに映し出された。
竹内騎、飛島騎、高倉騎は既に発艦し、続いて自分の番がやってきていた。
『鴫野騎、発艦、どうぞ』
なめらかな口調の、しかし電子音声だとわかるように幾分か抑揚に不自然さを残している指示に応え、郷志は騎体をカタパルトに載せた。
「郷志、行きまーす!」
【お約束ですねわかります】
『射出準備よし、鴫野騎、発艦はじめ。貴君に幸多からん事を』
その声とともに、郷志の身体に若干の加速Gが加えられた。
郷志に続き、櫻子の機体が発艦し、上空でダイヤモンド編隊を組んで旋回待機していた四騎に合流すると、櫻子を先頭に左右斜め後方に飛島騎と高倉騎、そのさらに斜め後方に竹内騎と鴫野騎が並ぶシェブロン編隊に組み直し、一気に加速して蒼空を飛び去っていった。
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