宅急便

森羅解羅

第1話 宅急便

***ホラー系です******





俺は30歳のフリーター。

この歳になっても、すぐに会社を辞める癖がぬけなくて、あちこち会社を転職してたら、手続きがめんどくさくて。

もう、いっそのことフリーターになったらどうだろうかと、今年の春からフリータ―になった。

勢いでフリーターになっては見たけれど、、、、。

バイト先でも人間関係になじむことが難しくて、小さなアパートに住み続けているんだけど、、、、

「あー今月の家賃どうするっかな。貯金切り崩すのもなー」

俺の目下の問題は生活費。

貯金、やはり金がないと生きてはいけない。

そのため、おれはできるだけ出費を抑えるために外出、食費を抑えていた。なのだが、、、、、。

ピンポーン。

「宅急便でーす」

玄関の外から声が聞こえてきた。

あれ、俺なんか頼んだっけ?

不思議に思いながらも俺は、玄関を開けてサインをして荷物を受け取っていた。

荷物は小さい、茶色の箱だった。差出人は書いてない。

けど俺の住所は合ってる。氏名も俺の名前だった。

とりあえず、開けてみよう。びりびりとカッターで切り込みを入れて、俺は箱の中身を見て驚いた。

「なんで黒のクレジットカードが入ってんだよ」

それもよく見たら、昨日の深夜にテレビで見た金持ちが持つという無制限のクレジットカードだった。

別の会社がつくったカードかと思ってよく見たが、見れば見るほどテレビに出てたカードだし、きちんと俺の名前がフルネームで彫られてた。

どういうことだ?俺はカードなんて作ってないぞ。

サッパリわからなかった。

とりあえず俺は、お袋に電話してみて、聞いてみることにした。

こんなときは人生経験豊富な親に聞くのに限る。

「それ怪しいから、絶対使うんじゃないよ。詐欺とか流行ってんだから、架空請求されちゃう可能性も、あるんだからね」

やっぱりお袋に聞いてよかった。

聞いたことはなかったが、たしかに新手の詐欺とかにありそうだ。

俺はお袋に礼を言って、電話を切った後、送られてきたカードをそのまま元の箱に戻して使わないように封をした。

けど、これ、どうしよう。クレジット会社に返却すればいいのか?

頼んでもないのに、めんどうだな。くそ。

そう思っていた時だった。

ピンポーン。

まただ。静かに過ごしてる俺に何の用だよ。

「宅急便でーす」

嘘だろ?俺、何も頼んでねーはずだぞ。

念のためドアを開けてみると「ちわー、宅急便でーす。サインかハンコお願いします」

はああ。

「何がはいってるんの?」と配達してきた兄さんに言うわけにもいかず、何となく受け取ってみたものの、また茶色の、今度は中くらいの箱だった

。差出人の欄は空欄。そして今度も住所、氏名は俺宛。当たり前なんだけど、なんで送られてくるんだ?

品物の欄には、本と記載があった。なんだろうと箱の中を先ほどと同じように開けてみた。

そしたら、10冊はあるであろう、文庫本があって、何の本だろうと俺は1冊を箱から出してみた。

表紙は白紙だった。裏の表紙も白紙。一応本の中もパラパラとめくってみたけど、何も書かれてない。

本に見立てたただの本である。

「なんだこれ」

俺は、他の本も1冊1冊取って確かめてみたけど、全て白紙の本だった。

は、どういうことだ?俺宛かよ、本当に。

なんで、送られてきてんだ?

俺はこれも新手の詐欺の架空請求かと思って、床に散乱している本を元の箱に入れていると、またあの音がした。

ピンポーン。

俺は、さすがにこうも心当たりのない物荷物に不気味さというか、受け取りたくないような気持ちだった。

「すみませーん、宅急便でーす。」

外の相手は、俺の気持ちもお構いなしに声を出してくる。

仕方なくおれは玄関を開けてみた。

「ハンコかサインをおねがいします」と言って、やはり、茶色の箱を俺に突き出してきた。

しかも、今回の箱は大きい箱だった。

俺は意を決して、尋ねてみた。

「なあ、お兄さん。これって、何が入ってるの?」

「箱の中身は冷凍ものと書かれていますけど……○○さんで間違いないでしょうか?」

配達の兄さんは俺の、フルネームを言ったので、「違います」と言えず、仕方なくサインして受け取った。

今度は冷凍ものか……。いったい何だよ。誰だよ。

俺はもう半分ムカつきさ半分と、不気味な気持ちを半分を抱えたまま箱の中身を開けてみた。

「うわあああああああああああ」

それは、たくさんの錦鯉の首だった。

ビニール袋に入れられていて、胴体だけなかったが、首から切られた切断面からと思われる、段ボールの底には血がたっぷり流れていた。

「ひぃ、だ、誰だよこんなもの」

俺はすっかり怖くなって、すぐさま蓋を閉めて差出人を見た。

しかし、これも何も書かれてない。

こんな気色悪いもん送ってくるなんて正気の沙汰じゃない。

俺はもう返品したかったが、差出人がわからない。

郵便局へ持っていっても返されるだろうし……俺は困っていた。

そして、またあの音が鳴るのだった。

冗談じゃない、、。もうこれ以上変な物はご免だ。誰だよ、こんな物送ってくるイカレタ野郎は!

俺は居留守を使うことにした。

しかし、その場をやり過ごしても、配達人は再びやってくる。

何回も何回も。

俺はおちおち買い物にも行けなくなってしまった。

見つかれば差出人不明の物を受け取るしかないからだ。

俺がいくら拒否しようにも、住所、氏名も合ってるし、返品することは配達人の会社としては難しいというのだ。

だから俺が直接差出人に送らないよう伝えるしか方法はないというが、その差出人がわからないのだ。もしわかっていたら、俺だって、こんなこそこそ生活を送ってない。

もう、俺は精神的にも、まいっていた。

もう俺の小さな部屋の中には、今まで届いた物が部屋を占拠していた。白紙の本、大きな赤く塗られた全身鏡、マネキン人形、腐った食べ物、、、、。いろいろな物が送られてきて、そのたびにゴミ捨ての日に出すのだが、それでも1日に10件以上も宅急便が来るので追いつけず、粗大ごみもお金がかかるため、仕方なく自分の部屋においておくしかなかった。

引っ越ししたかったが、俺はフリータ。

そんな急に、1週間で金の用意ができるわけもなく、貯金が少なくて、とてもじゃないが、敷金礼金まで払える余裕はなかった。

そして、俺は途中から、俺の思考の奥深く眠っていた有ることに、気がついた。

けれど、俺はその予感を即座に頭から消した。

なぜなら、それはー。

それは、思い出したくもない俺の過去だったからだ。

そのことがバレたら俺の未来はない。

けど、日を追うにつれて、俺の憔悴しきった顔はすさまじいものになっていた。

もう、やめてくれ、チャイムを鳴らさないでくれ。もう、嫌だ。変な物を送ってくんなよ!

俺の部屋はもう、ゴミ屋敷と化していた。大家にも、この前「近隣の人から異臭がするからって、苦情が来てますよ。どうにかしないと君、退去しないといけなくなるよ」

そう言われた。大家にさえも釘を刺された。

ちくしょう、どうにかできてたら、そっこーでしてる。もうあの宅急便を、だれか止めさせてくれ。

そして今日もチャイムは続く。

ピンポーン。ピンポーン。

「すみませーん、お荷物届いてますー」

もう来るな、、、。もう来るな!

頼むから、送ってこないでくれ!もう、もう、もう嫌だーーーー!!


俺は布団を頭の上から被り、聞こえないように、やり過ごそうとしていた。

そのときだった。

なり続けたチャイムが鳴り終わって、急に男の人のある声がした。

「○○さん、ここを開けてください。ちょっと、お話があるんです」

俺はずっとかぶっていた布団からでて、玄関をあけた。

連日来ていた宅急便の人の声じゃないからだ。

誰だ?他の人の人が訪ねてくるなんて。

俺は、虚ろとしながらもう開けることさえ心が重い、玄関の扉を開けた。

玄関を開けたその先には、スーツを着た男性2人がいた。その後ろには、目の前の男性の背により、見えづらかったが隙間からちらりと警官が見えた。

けいかん、、、、。警察だ!

おれは、失われていた考えること、頭に血が一気にながれてきたのを感じた。

「貴方は、●月○日から●月○日にかけて窃盗、強奪に関与して、錦鯉の転売、本盗難、その他の容疑がかけられています。署までご同行願います」

俺の精神は、もうすでにどうかなっていたんだと思う。

じゃなきゃ、あれだけ頑張って、にげて、にげて、行方をくらませていたのに、もう荷物が届く恐怖から逃れたい一心だったのだ。

だが、俺は、この瞬間に目の前が暗幕がかかった気がした。

こうして、俺は長い逃亡生活に終わりを迎え、ひたすら隠し通してきた盗人をお袋にも知られるという最悪なことで終わった。

ほんと、、、、最悪だ。

そして、謎の荷物の差出人は、結局わからなかった。

いや、警察は、俺が犯行したことに恨んだ人のイヤガラセだろうということで片づけられた。

「きちんと調べてくださいよ!!俺が盗んだものに関係がある物を不気味な形で送って来てるんだ!鯉のくびやら、マネキンなんか送ってくるやつなんだよ!!」

そう主張するが、警察は犯罪者の言い分は聞いてくれなかった。

俺は精神疾患があるということで、獄中の精神病棟送りとなった。

そこは、二度と出所することが困難な場所。

頭がおかしくなった、しかも元犯罪者が、この塀の外から出ることは健常者には恐怖でしかないのだ。

俺はそれでも、あの玄関音が鳴るよりはましだと思えた。

もう、俺の方が壊れてたのかな。

アハハハハハハハ。

俺は地獄から、気がつけば笑っていたのだった。

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