スリッパドラゴンプラス 『言罠(ことな)』の書評小説2

昔書いた『言罠』の書評小説第2弾です。

元の小説『言罠』 https://scraiv.com/n/1553370429645

*本編を読んでいなくても、お楽しみいただけるはずです。


『言罠』の書評小説 『スリッパドラゴンプラス』

『言罠』という小説を読んだので感想を書こうと思ったのだが、個々の映像のことは覚えていても全体がどうだったかよく思い出せない。読み返して見たけど、やっぱりよくわからない。そこでおもしろかった映像の話をする。


『言罠』という小説では医者が患者である私に映像を見せて、感想を聞き、タイトルを当てさせる。その繰り返しだ。患者はちょっと心が不自由な人みたいで、論理的な思考ができない。毒電波とか言い出しそうなタイプだ。


僕が一番好きだった映像作品は、『さよなら、平将門』だ。タイトルでわかるように我が国の歴史上の人物平将門の最期を描いた映像だ。いや、そのはずだし、主人公は平将門と名乗っている。ただ、舞台は現代日本で平将門は派遣社員としていろんな会社に派遣され、派遣先で問題を起こしてそれを隠蔽するために関係者を殺して埋める。

1日だけならサスペンスとかミステリとかなのだが、何度も同じことを繰り返す。しかもきっかけは、お茶をこぼした、鼻水が垂れたところを見られた(平将門は花粉症だ)、トイレの個室に入ったといった些細なことばかり。

仕事が終わってから相手の後をつけ、殺して愛宕山に埋める。平将門がジムニーに死体を乗せて高速を走る姿はかなり笑える。なお、平将門は歴史ドラマによく出てくる、あの大げさな衣装をいつも着用している。


そんな感じで平将門はひたすら人を殺して埋めまくるわけだが、ラストに突然「源氏3兄弟」を名乗る派遣会社のOLが登場して、那須与一の矢で攻撃してくる。


いつだって、あたしはやさしくて素敵な人になりたいと思っていた。それってどんなものだろう。きれいでやさしいOLに違いない。

ところで、あたしは、思うのだけど、子供頃から「よくわからない人になりたい」と思っていた。最初は羅生門になりたいと思ったけど、ダメだったのでマンガ家を目指すことにした。うしゃしゃとか笑うのもよく分からない人だし、毎日、会社にいってコピーだけとっているのもわからない人だ。

そうだ。OLこそがあたしの転職なのだ。

「先生、あたし、きれいでやさしい、よくわからないOLになる」

あたしが、インディアンにそういうと、インディアンは書きかけのおまんこマンガの原稿から顔をあげて、ゲラゲラ笑い出した。やった、なんか知らないけど、久しぶりに受けた。


「この子、OLになるんだって」

インディアンがそういうと、みんなアシスタントのみんなが、いっせいに笑った。スゲー受けたので、あたしは少し気分がよくなった。

「いーなー、OLになったら、スーツ着て、メガネかけるんでしょ」

いつもあたしの顔を見ると、セックスをねだる桜田門外の変が、うるんだ瞳をした。なにをいってもセックスに結び付ける人はどこにでもいるのだ。

「どこに就職するの?」

インディアンは、まだ、へらへら笑っている。

「コピー機がたくさんあるところ」

あたしは、自分のビジョンを端的に言葉にした。みんなが、いっせいに爆笑した。あたしは、なにかの才能あるのかも知れない。

さらに気分のよくなったあたしは、事務所を飛び出すと、コピーがたくさんある会社を探しはじめた。

やっぱり、丸の内に違いないと目星をつけたあたしは、丸の内線にとびのった。

ところで、地下鉄は、淫靡な空間なのだなと思う。こんな不健康でうすぐらい空間に、いろんな人が、だらだら汗かきながら、のっているのは、淫靡だと思う。地下鉄は、なんだか、混んでいた。あたしの後ろにたったカッパみたいな髪型のおじさんが、うんこ臭い息をあたしの脳天に吐きかけながら、お尻をさわってきた。

あたしは瞬間的に、こいつは、敵の宇宙人だと直感した。口がうんこ臭いのが、なによりの証拠だ。下手にさからうと、危険なので、宇宙人の弱点をせめることにした。

うんこ臭い星人は、愛国心に弱いのだ。あたしは、甲高い声で、君が代を歌った。うんこ臭い星人は、びくっとして、あたしから、遠ざかっていった。


効果てきめん。ありがとうニッポン。


あたしは、気分がよくなったので、お礼の意味も含めて、隣にいた人に大外がりをかけた。いっぽん! がんばれニッポン!

その時、あたしは、丸の内線に「丸の内」という駅がないことに気がついた。

マズイ、マズイぞ。

あわてて、次の駅で降りた。東京駅だった。

ケムール人の鳴き真似のうまそうな駅員がいたので訊いてみた。

「丸の内のOLになるには、どこにゆけばいいですか?」

ケムール人は、きょとんとした顔をした。で、その後、なんだか、コホンと咳をして

「とりあえず、事務室にきなさい」

とかいって、あたしの腕をつかんできた。

あたしは、はっとした。


今日のあたしの服装は、ピンキーなマイクロミニに、真っ白のウルトラブラウス。決まりは、ミラクルキュートなおさげときている。つかまったら、犯されるに決まっている。

そういえば、友達の武蔵坊弁慶も地下鉄でつかまって、いたずらされたっていっていた。

「あんた、武蔵坊弁慶を暴行したでしょ」

あたしは、するどい切れ味で推理をしてみせた。

「武蔵坊弁慶????」

しらばっくれているケムール人の一瞬のスキをついて、相手の手首を小手返しで決めて、延髄切りをくらわせた。

我ながら最高のコンビネーションだ。ケムール人は、声もたてずに、床に崩れ落ちた。

パチパチパチと、いっせいに周りから拍手が起きた。あたしの超絶美技をみんなが見ていたのだ。

「ダーーーーーーッッッッッ」

あたしは、右腕を高くつきあげると、勝利の雄たけびをあげた。


「次はオレの番だ」

後ろで声がした。

中ボスのギガヘッダがあらわれた。自分の頭をはずすと「チェストー」と叫びながら、投げつけてきた。

誤解だわ。

あたしは、格闘をしにきたわけじゃないのに……と思ったけど、もはやおそかったみたいで、周りのみんなは、あたしの美技をワクワク期待している。

あたしは、ロリロリの白いショーツが、効果的に見えそうな角度を計算しながら、高くジャンプした。地下鉄の天井のあたりで、くるりと回転して、天井を蹴る。

「くらえ! スターダスト・ハリケーン」

1分間で1万回パンチを繰り出すと、その瞬間、まわりが真空になり、相手の身体をその風圧で切り刻むという幻のパンチだ。

観衆がどよめく。

実力者だけが味わえる至福の瞬間。

ギガヘッダは、くたびれたシーツと一緒にぼろぼろの破片になって消えた。


ああ、でも、早くOLになって、コピーとりをしなくてはいけない。

あたしは、次の挑戦者があらわれるよりも、早くどぶネズミの格好をした会社員を発見した。

どぶネズミみたいに、美しくなりたい……あたしはうろ覚えのミュージックを口ずさんだ。

どぶネズミのところまで、光速ダッシュすると、ネズミは、驚いてキーキーわめきながら、逃げ出そうとした。


「しっかりせんかい」

あたしは、少しバンカラになって、大正時代の破れた学生帽をかぶりたくなった。がっちり、ネズミの襟首をつかむと、のぶとい声で丸の内にゆく方法を聞くのだ。でも、やっぱり口からでたのは、いつものあたしの「うるるんロリータ声」だった。

「オーーーーーーッス!」

あたしは、バンカラな声を出す訓練をしなきゃいけないと思って、大声で、叫んでみた。ネズミのからだが、ビクビクっとした。快感なのかしら。

ネズミがいうには、丸の内は、地下鉄のホームの最果ての出口からしかいけないという。

それさえわかれば、ネズミに用はない。あたしはネズミをストリートファイト目当ての愚民どもに投げつけて、そのスキに、最果てを目指した。


地下鉄の最果てには、巨人が待っていた。しまった。罠だ。

「げへへへへ、待っていたぜ」

巨人は、源頼朝のコスプレでせまってくる。

ああ、でも、あたしはいかなければ、いけないんだわ。

あたしは、巨人が強そうだったので、とりあえずうるうる目で、巨人をみあげて、許してもらおうとした。

「うへへへへ、そんな顔をしたってダメだぜ。おまえは、一生地下鉄からでられなくなるんだ。ずっと、自販機の中で『ありがとうございます』っていうんだ」

やっぱり、しゃべる自販機には、人が入っていたんだ。あたしの目からウロコが落ちた。

巨人の足元に、ひざまずいてズボンのジッパーをおろした。

「へへへへ、少しはものわかりいいみたいだな」

巨人はにたにたした。

おしゃぶりして、許してもらおうと、平成が終わったことを思い出して気が変わった。そのまま、チンチン出したまま、ジッパーをあげてやるー。チンチンの皮がたっぷりはさまった。

「うおおおお、なんじゃあ、こりゃー」

巨人は、身体をよじらせて、ひっくり返った。やった、逆転ホームランだ。

「イテテテテテ」

巨人はチンチンを必死に、ジッパーからはずそうとして、ころげまわっている。チャーーーーンス。あたしは、巨人の身体を踏みつけて、最果ての階段に向かった。


最果ての階段は、なんだか、かわりばえしない普通の階段。

ああ、なんかトイレ臭いぜ。あたしは、丸の内のOLが、ここで立ちションをしている姿を想像して萌えた。

あたしは、丸の内に来た喜びを噛み締めるように、一歩一歩、階段を上っていった。

階段の中ほどで、ダンボールにくるまっていた預言者のジジイが、あたしの方をじっと見てつぶやいた。

「デンジャラス ビー・ケアフル」

英語を聞いたとたんに、あたしの中の外人エンジンが、猛烈なイキオイで、チャクラをまわしはじめた。ぐるんぐるんと、みぞおちのあたりで、チャクラが回っているのがわかる。ちなみに、あたしのチャクラは、サイクロンというのだ。回れ! サイクロン。ダブルハリケーン!


身体中に、ものすごいアドレナリンが分泌されて、どっと汗とよだれがでてきてしまった。あたしは、よだれをふきながら、階段を上った。せっかくの丸の内デビューなのに、カッコわるいなあ。ヤバい。天皇陛下が降臨しちゃいそう。

丸の内では、デンジャラスなムードがビンビンあたりを震わせていた。あたしは、近くにいた冥王星人らしいOLをつかまえた。

「ナポレオンは、どこに逃げた」

あああああああああ! しまった。こんなこというつもりじゃないのに!

マジカル・パワーがあたしの唇を支配しようとしている。くるくるキラリン。

「なんですか、あなた」

ひょっとこみたいな口をした冥王星人が、あたしをつきとばした。つきとばし方に愛が感じられなかったので、あたしは、ちょっとむっとした。

「キサマ、シャーマンだな。あたしに呪いをかけたろう!」

あああああ!また、変なことを口走ってしまった。でも、本当にコイツが、怪人シャーマンかも知れない。

「よしてください」

冥王星人あらため『ひょっとこOL』が、わめいた。 いけない! いけない! 人がパニくるのを見ると、あたしも共鳴してしまうのだ。うひー、危険。

「きゃー!タスケテー!」

あたしは、大声で叫んでいた。

脳髄に、「大変」という言葉が、あふれでてわけのわからない言葉が次々と飛び出してしまうのだ。

「ひ、ひとごろしー!」

ああああ! 止まらないよう

「大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変!

 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変!

 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変!

 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変!

 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変!

 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変! 大変!

 大変! 大変! 大変! 大変! 大変!」

あたしは、ひょっとこを放り出すと一目散に走り出した。

百メートルほど、走ると少し落ち着いてきた。


額に汗がにじむ。だって女の子なんだもん。

ちょうど自動販売機があったので、一息つくために、なんか呑むことにした。やった!あたしの好きな「ドクター・ペッパー」がある。久しぶりだなー。

ガチャん!

でてきたドクター・ペッパーをグビリと呑んだあたしは、その水っぽさにびっくりした。

「なんじゃあ!こりゃあ」

濃厚でマニアックな味わいは失われ、水っぽいへんな飲み物にかわっている。これだから、アメリカ人は、信用できない。

「太陽のバカヤロー!」

あたしの両目からどっと涙が、ほとぼしりでた。

こんなに悲しい思いをしたのは、久しぶりだわ。


手にもったドクター・ペッパーを、通りすがりの縄文人に投げつけた。あたし以外のヤツも不幸にならなければ、不公平じゃないか! ええ?ご同輩。

「なにするんだ」

はっと、声のする方を見ると、大化の改新の匂いをぷんぷんさせたスーツ姿の縄文人があたしを怖い目で見ている。

─ 犯されるかもしれない ─

女の直感が、ビリビリと子宮を刺激して、明治維新がうなる。

ドクターペッパーの匂いを漂わせた縄文人は、憎悪と肉欲のみなぎる視線をあたしに投げつけてきた。これは、挑戦だ。

「弥生フラッシュ!」裂帛の気合とともに、両手を目の前にかざして、視線を反射した。バギョーンという音とともに、視線がはじかれる。

「うぎゃーー」

という声が後ろで聞こえた。はじかれた視線にあたったOLの悲鳴に違いない。

「正義には犠牲がつきものだわ」

あたしは、ひとしずくの涙を流した。

この悲しみが、戦いへとあたしをかりたてるのだ。


あたしは、軽やかに、ジャンプすると縄文人の脳天めがけて、飛び蹴りをくらわせた。スーツ姿の縄文人は、もんどりうって、路上に倒れ込んだ。

倒れたところに、トラックがきて、そのまま三つくらいに分身してしまった。

でも、あたしのキックが効いていたのか、分身した後、全然動かなくなった。

周囲にどよーんとした空気が、漂ってきた。いつもあたしは、こういう空気を感じる。それは、ギャグをはずした時だ、なんかギャグをはずしたんだろうか?それとも、やはり丸の内では、ちょっとギャグが違うんだろうか?

あたしのかわいいブレーンに、ギャグ問題を考える過剰な負荷が増大している。そうよ。人前でセックスするより、ギャグをはずす方が恥ずかしい乙女心をわかって欲しい。

「前方後円墳のバカヤロー!」

あたしは、とりあえずのギャグをかますと、小走りに、近くの丸の内っぽい大きなビルに飛び込んだら、平将門が死んでいたので愛宕山に埋めることにした。


ラストシーンでは桜満開の愛宕山に平将門が埋められて、BGMでヒップホップ調の君が代が流れる。関係ないけど、君が代を聴くと自然と涙が出てきて、ああ日本人なんだなあって思う。歌ってるのが非国民でもね。

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