クラークの第三法則 発達した科学技術は魔法と見分けがつかない 『幻の彼女』酒本歩
『幻の彼女』著者の酒本さんは福ミス受賞者で、事務局から過去の受賞者には自動的に本が送付されるので私のとこにも届きました。ずっと気になっていたのでありがたいです。ご恵投ありがとうございます。
『幻の彼女』読了。昔つきあった3人の女性が忽然と姿を消した! ドッグシッターなど言葉を聞いたことがあっても内容はよく知らないものがたくさん登場して謎と相まって好奇心にかられてするすると読み進めてしまい、気がついたら終わっていた。確かにこれは誰も書いていなかった新しい謎だ。
同時にクラークの第三法則「発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」を思い出した。昨今のミステリではノックスの十戒は死語になっており、超自然的能力を使うのはもちろん、ファンタジー世界もありありという状況なので、ミステリにリアリティを求めるのは少数派なのかもしれない。
本書は、おそらくその少数派のリアリティを求めつつ、これまでにない新しい謎を提示している。前半の導入部からラストまできれいに構成されており、プロットから完成まで時間をかけて練った作品という印象を受けた。同じ書き手として頭が下がる(私は練るどころか事実上プロットなしで書くことも多い)。
この手の小説はどこまでどのようにリアリティを担保するかが作者によって異なるのがおもしろい。私がよく書くサイバーミステリでもその違いは大きい。私は比較的リアリティを追求する方だが、そうではない人もいる。リアリティを追求するタイプの作家は、専門家に査読してもらったり、アドバイスをしてもらうことが多い。そして巻末にくわしい出典や解説を載せることもある。
選評で島田先生が指摘なさっていたようにもっと説明が多ければ、より説得力のあるものになったかもしれない。たとえば瀬名秀明さんの著作のように圧倒的な情報量でリアリティを見せつけるのも有効だったろう。
同様に登場人物の心情ももっと深く踏み込んでよかったような気がする。もっともこれは私の個人的な感想なので、これで充分かもしれない。私が「ライトな語り口でさらっと描写」と思っていたら、他の多くの読者が、心を抉られたとか、涙が止まらないとか書いていたことが何度もあるので軽めの方で正解のような気もする。
ところで福ミス出身作家のみなさんは長いプロットを書く傾向があるらしい。ツイッターによると酒本さんの2作目のプロットは50枚以上のようだ。もっとも以前は200枚のプロットを書いた猛者もいるので驚くには当たらないのかもしれない。
ちなみに私はA4で1枚か2枚に収まるようにしている。そもそもプロットと完成品はだいぶ違うし、プロットの段階、いや最後の最後までトリックや謎解きが決まっていないことも多い。そのため、プロットのOKをもらった後、前半を書いた段階で一度見てもらって確認してから最後まで書くことが多い。きっちりプロットを書いて、それ通りに仕上げられるのは私からすると超人だ。
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