第2話 熱い戦い

 ここは、ごく普通の小学校の休み時間。教室内では男子も女子も楽しそうな話し声が聞こえる。


「タカシ、お前持ってるか?」

「何だよ」

「あれだよ。最近出た対戦ゲーム。スマブなんとか?」

「あれか、俺も持ってるけど」

「あれ、面白いよなー。たくさんいろんなキャラ出るしよー、いろんな遊び方できるしよー、大勢で遊べるんだよな」

「そうそう。で、お前何人キャラだした。俺は30人くらいは解放したぜ。」(凄いだろ)

「そうかー、まぁ俺は32人出したぜ」

「なにー。なかなかやるな。今度、みんなで対戦しねぇか? 最初は8人しかいなかったからよー、これだけ増えれば、楽しくなるよな」

「今度と言わず。今日でもいいぜ」


 何気ない、小学生同士の会話である。


 元気そうな少年達は、タカシとワタルである。絵里のクラスメイトのゲーム好きな男の子で、タカシもワタルも絵里よりも少し大きいくらいの背丈で、タカシは痩せ型でワタルは体格の良い容姿をしている。


「そうだな。大勢でやりたいよな。オンラインとは違って、わいわいやってみたいよな。どうだ、今日の放課後。俺んちに来ないかー」


 ワタルはクラスメイトに呼びかける。男の子も女の子も含めて


「絵里? 今日暇、私達も遊びに行ってみない?」

「いいよ」


 なんだかんだで、男女数名で、ワタルの家に行くことになった。タカシとワタル、絵里と絵里と絵里の幼なじみアサミ、そして何か面白そうだなと、小耳に挟んだヒロシの5人である。ヒロシはメガネをかけていて少し頭が良さそうな顔をした背丈が少し高い痩せ型の男の子である。


「俺んちは、K公園の近くだから、3時に公園に集合な。コントローラー持ってるやつはなるべく自分のを持ってきてくれよ」


 そう言って、休み時間が終わり。お昼後の授業が始まる。


 ――放課後――


「俺さー、実はあのゲームやり込んでんのよ」


 俺も、私も負けないよー。とガヤガヤしながら、絵里のクラスメイトの5人は一度、家に帰る。


 絵里も家に帰って。トイレを済ませて、すぐにまた家を出る。友達の家で、トイレを借りることはちょっぴり失礼にあたるので、出かける前には済ませておくものである。


 公園には3時前にも関わらずみんな集まってくる。みんなゲームをやりたくて仕方ないのである。でも3時まではまだ余裕があった。


「よし、行くかー」

「おー」


 5人はワタルの先導でワタルの家に向かう。公園からは、さほど遠くなく、すぐにワタルの家に着いた。 


「おじゃましまーす」


 5人の男女は声を揃えて言った。


 ワタルの家は木造2階建ての一軒家。それほどお金持ちの家ではないが、小学生5人が入っても窮屈にならないくらいの大きさはある。大人5人を入れるにはちょっと窮屈な感じではあった。

 リビングには40インチの大きめのテレビが置いてある。大勢で今どきゲームを楽しむには十分なサイズである。テレビの前には4人用のテーブルがあり、テーブルの近くに2人がけのソファがある。


「ここが俺んちな。まぁちょっと狭いかも知れねーが、まぁ気にせずゆっくりしてってくれ」

「お、お前んちのテレビ大きいな。これなら思いっきり楽しめそうだぜ」


 絵里たちはワタルの家でゲームを始める。ワタルがゲームの電源をいれる。


「コントローラー持ってるやつはちょっと貸してくれ」


 ワタルが呼びかける


「ほい。」


 コントローラを持ってきたタカシとヒロシはワタルに渡した。


「5人分あるな。よし」


 ワタルは、ゲームを操作して、5個のコントローラがちゃんとこのゲームで使えるように設定した。

 最近のゲームのコントローラは無線なのである。昔のようにコードがごちゃごちゃすることはないのである。もちろん有線のコントローラもあるが、ここにあるコントローラーは無線接続である。そのかわり、コントローラをそのゲーム機で遊べるようにいろいろと設定する必要がある。昔のゲームのようにコントローラの端子をゲーム機につなぐだけでは遊べないのである。一度設定すればよいだけなので、次からは面倒なことをする必要はない。


「よし、準備できたぜ。好きなコントローラを持ってくれ」


 ワタルは、ゲームのコントローラーを配る。すべて形が同じわけではないが、このゲームを遊ぶなら。それほど問題はないであろう。


「さー。始めるぞ。このゲームやったことないやつはいるかー」


 ワタルが呼びかけるように話した。


「あ、私やったこと無いけど、大丈夫かな? 操作もわかんないし。難しそうだし」


 そう言ったのはアサミ


「そうか。だったら。このモードだな。このルール設定を選んで……操作はこのスティックで、これやって、このボタンを押したら……で、こういうゲームね」


 ワタルは丁寧に手際よくゲームの遊び方を説明する。始めてプレイする人でも楽しめるように、操作説明はとても大事なのだ。


 そして、ワタルが選んだモードとルール設定は……


「さぁ、ゲーム開始だ。1対4の協力戦、みんな俺に勝てるかなー」


 ワタルが4人に司会者のように盛り上げようと明るい声で言った。


 このゲームは基本的に格闘ゲームに近い対戦アクションゲームである。対戦ゲームというものは、ゲーム慣れてない人は一方的に攻撃を受けて負ける。場合によっては手も足もでず。何もできずに楽しくもない。ということになりがちである。

 しかし、ルールが協力戦となれば話は別。遊ぶメンツ次第では初心者でも上級者に一方的に攻撃されて面白くない。ということにはならないのである。

 そして、このゲーム、プレイヤーの強さをそれぞれハンディキャップとして設定できるのである。ゲームに慣れている人にはハンディを与える。これにより、初心者も上級者も白熱してプレイできるのである。ハンディを与えることは、初心者を馬鹿にしているわけではない。ゲームである以上、初心者だけでなく、上級者も楽しみたいのである。


「えっと、このボタンで攻撃して。アイテムもこのボタンを押して……」


 ゲームに慣れている人、ゲームを極めている人なら、キャラクターの動きを見れば、瞬時にその人の技量を判断できる。当然、上級者から見れば初心者は一目瞭然である。

 ワタルは一方的に初心者を追い詰めないように、器用に判断しながら、初心者も上級者も楽しめるようにプレイしていた。


「どう、操作わかってきた? とにかく、最初は自滅しないようにキャラクターを動かすことが大事だよ。↑とBを押せばワザで上に移動できるからな、最初はとっさにはできなくても、すぐにできるようになるよ。」


 ワタルはこのゲーム初心者のアサミに優しく語りかける。と同時に


「おまえ、やりこんでるな。その動き悪くない。だがその程度で俺に勝てると思っているのかー」


 ワタルはゲームに慣れているタカシに対しては、挑発するように話す。


「オンライン対戦でやり込んでる俺に対して、そのタイミングで技を回避するとは、なかなかやるじゃねーか。後で一戦タイマンガチで勝負ようぜ!」


 タカシはワタルとのゲームで熱くなっているようである。

 6人は初心者も上級者も関係なく楽しくゲームを遊ぶ。


「よーし、アサミちゃんも、操作に慣れてきたっぽいし、そろそろ対戦モードいってみようか?」


 ワタルが呼びかける。


 このゲームの醍醐味はやはり全員敵の対戦モード。ごちゃごちゃして乱闘することがこのゲームの原点的な面白さなのである。


「よし、ここでこのアイテムが出現、アイテムゲット。このハンマーは最強なのだ」

「やべぇ。追い詰められたか」

「さぁどうした、ゆっくりいたぶってやろう」


 タカシが操作するキャラは大きなハンマーを振り回してゆっくり進んでくる。


「お前の負けだー」


 そう思って近づいてくると、別のアイテムが出現。ワタルが操作するキャラはすぐさまにそのアイテムを取る。


「なにぃ。ハンマーが効かない!」


 どんなに攻撃が強いハンマーでも、無敵アイテムには無力であった。

そして、ハンマーは攻撃が高い反面移動が遅くなる。無敵アイテムはスピードが落ちることはない。ここで形勢逆転。


「残念だったな。今回はボクの勝ちだね」


 無敵状態を良いことに、ハンマーを持った相手キャラを場外に投げ飛ばす。


「うぁー負けたー」


 このゲーム、アイテムによるランダムな要素が大きいのである。勝っても負けても笑ってごまかせる楽しいゲームなのである。


「よーし、ひとまず休憩。お菓子やジュースもあるぞ」


 切りが良いこともあり、ワタルはゲームを一旦中断して、お菓子と飲み物を持ってきた。5人は楽しそうに、お菓子を食べたり、お話したりしている。


「おまぇ、強いな」

「おまえもな」

「面白いね。このゲーム。私、初めてやったけど、偶然にも何回か1位取れたし……」

「そうだな。オンライン対戦とは違う、しゃべりながら、笑いながら、ゲームは楽しいって思えるのはいいよな。でもよ、後で一戦、ガチの終点でやろうぜ」

「いいだろう」


「どっちが勝つのかなー。なんかドキドキするね。どっちを応援しようかなー」

「このお菓子美味しいね」

「そうそう、このジュースうまいぞー。ガラナといってなコーラとは一味違う北海道の友達からもらった珍しい飲み物だ。どうだ?」


 ワタルが自慢げにジュースを紹介する。


「お、美味そうだな。一杯貰うぜ」

「わたしもー」

「私は炭酸苦手だから、遠慮するわ。ごめんね」

「そうか、じゃぁアサミちゃんにはオレンジジュースでもどうだ?」

「いいね。ありがとう」


 5人はゲームやったりおしゃべりしながら楽しい時間を過ごす。


「よし、まだ時間あるし、最後に、俺とお前の真剣勝負!」


 ワタルがこの時を待っていたというような気合の入った表情でタカシに話しかける。


「そうだな。やるか?」


 タカシも自信満々の表情で答える。


「勝った方には、このお菓子をプレゼント。それだけだと見てる人はもらえないから。どっちが勝つか予想が当たった人にもプレゼント。さぁバトル開始だ」

「いくぜ」


 こうして、熱い男同士の勝負が始まろうとしている。


「ルールはストック2の3分間勝負。アイテムなしの終点。だろっ?」


 ルールを決めたのはワタル


「望むところだ」


 キャラ選択画面になる。それぞれの使い慣れた本気のキャラを選択する。


「お前の持ちキャラはそれなのか?」

「まだ見せてなかったね。実はこの子。俺の嫁」


 ワタルは可愛いキャラを選択した。


「そいつ、人間じゃねーじゃん」

「お前の持ちキャラは剣士か? ネットでも強キャラとは言われてるし、そいつの攻撃の対策はこっちにもあるぜ」

「れでぃーつーふぁいと」


 こうして、対戦がはじまった。


「凄い。ふたりとも凄い。みんなで遊んでたときと動きがぜんぜん違う」

「まだ、始まって間もない、お互い牽制しあって、相手の強さを見ているところだろう」「ヒロシくんはやらないの?」

「俺はいいや。あいつらウマすぎ。真剣勝負なら俺に勝ち目はなかったよ。そろそろ試合が動きそうだ」


 残った4人は観客側に回る。


「しまった。油断した。まだ1回目。勝負はこれからよ」

「そうこなくちゃ。お前もなかなかやるな」


 お互い攻撃やフェイントをバックステップを駆使しながら少しづつ攻撃を与えたり、ダメージを受けたりしている。何よりも、動きが早い。まるで違うゲームのようである。


「スキあり!」

「何ぃ。うぐっ。まだだ、この程度ではあきらめないぞ」

「あー、すごーい」


 ワタルのキャラの攻撃が、タカシのキャラを直撃。タカシのキャラは場外に落下、画面上に1-0と表示される。落下したキャラは、すぐに体力満全快で復活する。


「これでもくらぇー」

「うぁー」


 今度は、タカシのキャラがワタルのキャラを場外へとぶっ飛ばす。これで1-1、そして両者互いに攻撃をぶつけ合いダメージを増やしていく。


「このコンボが当たれば、お前の負けだ」


 ワタルが挑発する。


「当たればの話だろ。俺のスピードについてこれるか?」


 タカシもワタルの挑発に反発して言葉を返す。

 両者激しい攻撃と回避の連続、どっちが勝ってもおかしくない状況。


「ゲームの対戦なのに、ここまで熱くなる男の子。なんかカッコいいね」


 勝負を見てるアサミも楽しそうな表情を浮かべながら会話する。


「このゲームはね。ゲームの世界大会があるくらい熱い試合ができるゲームなんだよ」

「へぇーそうなんだ」

「最近は女の子のプロのゲーマーもいるんだぜ」


 ヒロシは適度に試合の解説をして盛り上げる。プレイする方もみる方も盛り上がる。ゲームとはスポーツのようなものなのである。


「これで終わりだー。くらぇー」


 この勝負の大一番。タカシの操作するキャラがワタルのキャラに大打撃の攻撃を当てる。攻撃は当たった。


「よし、決まった」


 タカシはガッツポーズしたときのような表情をする。


「何、そこでカウンターだと!」


 タカシのキャラクターの攻撃は誰が見ても、ワタルのキャラに命中している。

 しかし、ダメージを受けて場外にぶっ飛ばされたのはタカシの操作するキャラだった。


「ふぅー、なんとか勝ったぜ。どっちが勝てもおかしくなかった」


 勝負に勝ったのはワタルだった。

 このゲームには反撃技がある。攻撃を受けることで発動。ダメージを受けることなく強力な攻撃で反撃をする。


「いいバトルだったぜ。また、今度やろうぜ。うで磨いておくわ」


 タカシはゲームの真剣勝負で敗北したにも関わらず、清々しい表情を浮かべている。

 お互いゲームの実力者。勝ち負けも大事だが、全力を出し切ることが大事なのである。


「なわけで、勝負に勝った俺と、予想があたったアサミちゃんに、このお菓子をプレゼントって、お昼に一緒に食べたやつだけどな。ほい」


 ワタルはお菓子をアサミに渡す。


「ありがとう。もうこんな時間だね」

「そうだな、そろそろ、お開きにすっか」

「ちょっと便所借りるぜ」


 あたりは暗くなり始め、夕方近くになっていた。絵里たちは小学生。夜までに帰らないと親や先生に叱られてしまうのである。


「じゃぁーな。またあしたー」


 絵里たちはワタルの家で別れてお互いの家に向かう。絵里とアサミは途中まで同じ帰り道。


「楽しかったね。お菓子美味しかったね」

「絵里、意外と上手だったね。実は持ってるとか……」

「あの手のゲーム昔はお姉ちゃんと昔は一緒にやってたことがあってね。最近はお姉ちゃんも忙しくてなかなか一緒にやる機会はないんだよね。まだあのソフトは持ってないけどね。ある程度は上手にやれると思うよ」

「そうなんだ。あ、またあしたねー」


 絵里とアサミはここでお別れである。


 絵里は家に向かう。家に向かって歩いている途中で……


(あ、おトイレいきたくなっちゃった……、家まで持つかなぁ)


 絵里たちは、ワタルの家でいっぱい食べたり、いっぱい飲んだりした。しかし、絵里はトイレにはいかなかった。家を出る前に済ませていたし、いつもは我慢するまでもない時間である。

 しかし、今日はワタルの家でガラナを飲んでいた。ガラナはコーラの倍のカフェインがあると言われている。カフェインをとるとトイレが近くなってしまう。

 そしてトイレというものは、あるときに急に行きたくなってしまうものなのである。

 

(家までは我慢できないかも、ちょっと公園に寄っていこう)


 絵里は帰り道の途中にある公園に寄ることにした。


(ふぅー、何とか間に合ったかな。でも油断は禁物)


 絵里は公園のトイレの前に来た。夕方とはいえ、それほど空は暗くなかった。トイレの入口に入ろうとしたところ、スマホがバイブが震える。


(うぁ、ちょっとびっくりした)


「もしもし、チーちゃん」

「エリーかニャ、今どこニャ」

「ちょっとそれどころじゃないの。後でかけ直すー」

「ちょっと嫌な予感がするニャ」


 といったもの、絵里は電話を切った。絵里が電話に出ているときに別の人がトイレに入ってしまった。


 あたりは急に暗くなってきた。


「とんとん、早くしてくれませんかー。もう限界なんですけどー」


 絵里は苦しい表情を浮かべながら、トイレの入口から人が出てくるのを待つ。何とかドアが開いた。ピンチは凌いだ。個室に入ることができた。一息ついてから、スマホでチーチャーに連絡をとる。


「チーちゃん、さっきは電話切ってごめんね。本当に乙女の一大事だったから許して」

「エリーは大丈夫かニャ」

「何とかね。ちょっとやっちゃったけど、あぁ別にこっちの話ね。気にしないで」


(スマホが鳴らなかったら間に合ったのに、ちょっと濡れちゃったよぉ。スカートに染みができるほどではないから気づかれることはないと思うけど。うぅー)


とチーチャーと話していると


「うぁー、助けてー、ママー」


 男の子の叫び声が聞こえた。


「危険な匂いがするニャ。ニャーも直ぐそっちに向かうニャ。注意して行動するニャ」


 絵里はトイレの個室をでて、あたりを見渡す。公園の内側の方を見ると。男の子が大きな獣に追いかけられていた。何とか男の子は木に登って最悪の事態は免れているものの、いつ危険な目にあってもおかしくない状況だった。すぐに空からチーチャーが乗り物に乗って現れた。


「マズイことになったニャ」

「えぇー、何が起きてるの?」


 絵里は突然の事態に混乱を隠せない様子であった。


「話は後ニャ、エリーのスマホをちょっと貸してニャ」

「これのこと、はい」


 絵里はチーチャーにスマホを渡した。


「このアプリをインストール、アカウントは『Elie』、使用言語は『SMILE BASIC』、基本設定はデフォルト、使用デバイスはこれで、初期コスチュームはこれかニャ。で、管理者権限を使用して、初級魔術師の仮契約。……理由は、緊急事態のため。っとニャ。で、入力フォームをサブミットして、データーベースに魔術師情報を情報を登録。使用権限を許可。これでよしとニャ」


 チーチャーは何やら早口でブツブツ言いながら慣れた手つきで手際よくスマホを操作して、何やらアカウントの登録を完了した。


「今からエリーは魔法が使えるようになったニャ」

「えぇー、そんな事言われても」

「まぁ、別に難しいことは無いニャ。いつもどおりにBASICでプログラムを組めばいいだけニャ。そのスマホを手にとって、杖を念じれば。杖が出てくるニャ」


 絵里はスマホをもって、手を伸ばし念じた。


 すると、スマホの画面が虹色に光だし、長い棒のようなアイテムが現れた。先端は鉛筆のような形をしているが決してとがっているわけではない。全体的にはピンク色で柄の部分の近くに宝石のようなものが散りばめられている。


「これが、魔法の杖!」


 絵里はこれが現実なのか判断もつかずに驚いている。


「そうだニャ。杖の形をしているが、プログラムの記憶と実行ができる高性能デバイスだニャ。手にとって念じることで、さまざまな機能を使うことができるニャ。まぁエリーが毎日のよう触っている『プチコン』みたいなものニャ。毎日BASICを勉強しているエリーなら使いこなせるはずニャ。自信を持てニャ」

「そうはいってもー、始めてでいきなり戦いなんてー」


 絵里は戸惑いを隠せない表情を浮かべている。


「とりあえずSLOT3のプログラムを実行して戦闘開始ニャ!ニャーはやることがあるのニャ。スマホでいつでも連絡はできるニャ」


 絵里の表情は気にせずにチーチャーは淡々と喋る。


 絵里もこういう状況なので仕方ない思いながら、チーチャーの言った通りに行動する。


(RUN 3)


 絵里は心で念じてSLOT3のプログラムを実行(RUN)した。なんとエリーの服がみるみる変わっていく。Tシャツとミニスカートの普段着から、ピンク色のドレスへと変わっていった。大きな赤いリボンが特徴的。靴下も厚手の白いハイソックス。ちょっとゴツいパッドのついた丈夫なブーツに変わった。そして、頭には……猫耳がついた。


 変身『魔法少女ロジカル☆エリー』といった感じである。


「これが私」

「そうニャ。バトルコスチュームを着ることで敵の攻撃を軽減できるニャ。これなら多少の攻撃を受けても大丈夫だと思うニャ。スプライト命令をうまく使えば飛び道具が打てるニャ。じゃ頑張るニャーん」


 そう言い残し、チーチャーはどこかへ行ってしまった。


「まぁやってみるしか無いか」


 男の子はまだ危険な状態であった。今にも襲われそうな事態である。


「大丈夫ー。今助けるから、がんばってねー」


 絵里は叫ぶ。しかし、絵里自身、戦闘の経験はない。


「やってみるしかない。頭でイメージして心で入力。『SPSET 0,0』えいっ!」


 すると、絵里の前にいちごが現れた。


「おー、確かに普段やり慣れている『プチコン』の『SMILE BASIC』だ。これならあれができる。『SPCHR 0,337』えいっ!」


 今度は、いちごが野球のボールに変化した。


「あとはアレをすれば、アレができるはず!」


絵里は日頃プログラミングの勉強を兼ねて触っている『プチコン』のプログラムを思い浮かべながら考える。


(実は私もよくわかってないけど、この前見たサイトにそんなプログラムあったし)


「『SPANIM 0,8,8,0,0,-30,0,-30,1』いっけぇーー!」


 絵里は心でプログラムを実行した。絵里が実行したプログラムをプチコンのBASICで表すと次のような内容である。『プチコン』を持っている人なら、このプログラムを打ち込んで実行してみよう。と思っても良いかも知れない。

 SPSET 0,0

 SPCHR 0,337

 SPOFS 0,200,200

 SPANIM 0,8,8,0,0,-30,0,-300,1


 絵里が叫ぶと、スプライトの野球ボールが敵の獣に向かって一直線に進んでいった。弾はに命中した。


「やったぁ」


 しかし、効果は薄かった。絵里の存在に気づいた敵の獣は、絵里に襲いかかってきた。


「うぁー、逃げないと」


 絵里は獣に追いかけられる。しかし、逃げながらも何とかプログラムを組んで反撃する。


「こうなったら。これっ!『SPSET 0,5』食べ物を粗末にするのは良くないけど……えいっ!」


 絵里が逃げながらプログラムを実行すると、バナナが出現した。敵の獣は足を取られて転ぶ。だがすぐに起き上がって襲いかかろうとする。時間稼ぎとしては意外と短かった。だがその短い時間で、絵里は次の策を用意していた。


「『SPSET 0,106:SPSCALE 0,10,10』さぁこれでもくらぇー」


 絵里がプログラムを実行すると……今度は鏡が現れた。そして、その鏡は大きくなる。最初に出た鏡の10倍のサイズに変化した。

 SPSCALEはスプライトを拡大する命令なのである。

 鏡を見た敵の獣は、鏡に向かって吠えだした。どうやら、自分と鏡に映る自分を敵だと思っているようである。これは敵も足止め。大きなチャンスである。


「よし、やっぱりね、大きくなってもワンコであることには変わりないのね。」


絵里は自信満々の表情を浮かべている。まだ戦いに勝利したわけではない。絵里は敵の獣が混乱していることを活かし次の攻撃を考えた。


「プチコンにはスロットがあるのよね。そういえばチーちゃんも私を変身させるときにスロット3を使ってたわね。ということは、スロットでプログラムを組めば、さぁ、これで勝負」


 絵里はこのチャンスを活かし、頭でイメージしながら念じてSLOT1でプログラムを組む、よしできた。あとは、『RUN 1』いっけーぇ。これならどうだっ!」


 絵里が組んだのはどのようなプログラムなのか? それはこのようなプログラムであった。(※絵里の世界と我々の世界のプログラムは若干異なることはご了承願いたい)

ACLS

SPSET 0,344

SPSCALE 0,5,5

P=0

WHILE 1

P=P+1

SPOFS 0,200,P

VSYNC

WEND


 このプログラムを実行すると何が起こるのか? そう、これはとても強い攻撃力を誇る技である。現実世界でこんなことは絶対にやってはいけない。さぁそれはどのようなものなのかというと……


 絵里がプログラムを実行すると、何と空の上から大きな大きなボーリングの玉が落ちてくる。(どれくらいの大きさのボーリングの玉かというと、プログラムを見ればわかることである)

 鏡に気を取られている敵の獣は気づくこともなく。鉄球に潰されてしまった。


 その瞬間、邪悪な黒い気は消え去り、元の小さな犬の姿に戻った。若干さきほど受けた攻撃のダメージは残っているらしく、少しぐったりしてる。だが、命には別状はなさそうである。そして黒い霧は消え、夕焼け空が帰ってきた。


「もう大丈夫よ? 降りておいで」


 絵里は男の子に近づいて声をかける。


「ありがとう。おねぇーちゃん。怖かったよー」


 絵里と男の子は抱き合う。


「もう遅い時間だから、早くおかえり」

「うん」


 男の子は家に帰っていった。


 チーチャーが戻ってきた。


「エリーはよくかんばったニャ。エリーの魔力は想像以上だニャ」

「チーちゃん怖かったよぉー。うぇーん」


 絵里はチーチャー泣きついた。戦いに勝利したとはいえ、もともと普通の女の子である。


「あれは何だったの」

「エリーには言ってかも知れないけどニャ、ニャーは異世界からやってきたニャ。邪悪な気配を感じたのニャ。BASICを教えたのも実はこのためでもあるニャ、だからいずれは……」


 チーチャーは絵里に伝えようと語る


「あー、もうこんな時間。早く帰らないと、ママに怒られちゃう」


(そういえば、今日アレをされたら、本当にやばい!)


絵里はあることを思い出し、もう急ぎで家に走り出した。


「ただいまー」


 息切れしながら、絵里は家に到着した。門限には何とか間に合った。


 小枝家では、門限を守らないと、いろいろとペナルティがあるのだ。何をされるのかわからない。この前、アサミの家で遊びすぎて門限を守れなかったときは、スカートを捲りあげられて、お尻をペンペンと叩かれてしまったのである。もし、それをされたらと思うとゾッとするのである。


 時刻は夜の7時、小枝家では、夕食の時間である。夕食は当番制でたまに絵里が作ることもあるが、今回は母のイクエが作ることになっている。絵里はまだ小学生なので、絵里が作ると言っても、母にサポートされながら作るわけであるが、お手伝いというわけでなく、作り方を教えてもらいながら絵里が作るということになる。


 夕食を終えると絵里は風呂に入る。替えの下着とバスタオルを手に取って、風呂場に向かう。小枝家では風呂場の近くに洗濯機がある。風呂に入るときに脱いだ服をそのまま洗濯機にいれるのに都合が良い。あいにく母は直ぐ近くにはいなかったので、絵里は風呂場で脱いだ下着を洗った。ぎゅーっと絞ってから洗濯機に入れた。


(ふぅー、一安心。これでバレずに済む)


 絵里は、ほっとした表情を浮かべながら風呂に入った。風呂を出ると、体を拭いて、替えの下着を履いてバスタオルを巻いて、髪を乾かして、自分の部屋に向かった。

 自分の部屋では新しい服に着替えた。絵里が自分の部屋に戻るとぬいぐるみのように動かなかったチーチャーは動いて絵里に話しかけてきた。


「君にはいずれ話す必要があったんだけど、ニャーは異世界からやってニャ」

「それはこの前ってか、夕方聞いたよ」

「真の目的はこれから起こる悪夢に立ち向かうためニャ。敵は邪悪な魔法を使ってくるニャ。魔法と対等に渡り合えるのは、魔法しか無いのニャ。だから、ニャーと契約して魔法少女になって欲しいニャ。さっきのは特別権限による一時的な仮契約によるものニャ。そろそろ有効期限が切れるニャ。本契約すれば正式に魔法が使えるようになるニャ」


チーチャーは夕方話したかったことを淡々と絵里に喋った。


「そんなこと急に言われても(夕方は急だっけど……)。他に魔法使いはいないの?」

「ニャーもいろいろ探したニャ。 でもエリーには無限の可能性を感じるんだニャ」


 絵里は迷っている。


「戦うのは怖いし、危ない。でも、あの男の子の笑顔は忘れない。うん、チーちゃんを信用して魔法少女になるよ。かわいいネコさん。よろしくね」


 チーチャーは笑顔でいった。


「『魔法少女ロジカル☆エリー』正式契約で誕生ニャ」

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