プログラムという名の魔法

ぷちぷち

第1話 出会いと始まり

 ここは、ごく普通の小学校の帰り道。春の終わり頃の涼しい季節。


「今日も楽しかったね。そういえば土曜日暇?」

「暇だけど……何?」

「遊びたいなーって思って」

「いいけど、どこで遊ぶ」


 ごく普通の小学生の会話である。話しているのは、平凡な小学生の女の子。名前は『小枝 絵里』。背はそれほど大きくなく痩せ型で、ツインテールの髪型で赤いリボンがドレードマーク。茶色い小さなカバンを肩側にかけている。赤いミニスカートと猫の絵が書かれている白いシャツが似合っている。いかにも元気そうな女の子。胸は大きくない。まぁ小学生なので、そんなもんである。


 もうひとりは、絵里の幼なじみのアサミ。同じような体型であるが、髪型はストレートなセミロング。水色のワンピースがお似合いのちょっぴり大人っぽい小学生。


 2人は途中まで、何気ない会話をしながら、家の方向が違うところで途中で分かれる。


「じゃあね。またあしたー」


 絵里は特に寄り道をすることなく自宅へ向かった。家の前に来たらカバンのポケットから鍵を取り出して家のドアを開ける。


「ただいまーって、私しかいないんだけどね」


 小枝家では、この時間は、絵里、1人しかいない。絵里は姉と母と父の4人家族で暮らしている。姉は高校生である。この時間には帰ってこない。昔は姉と絵里は一緒に遊ぶことが多かったが、この年頃となるとなかなか一緒に遊ぶことは少ない。母は仕事で夕方までは帰ってこない。

 

 絵里は玄関で靴を脱いで、きれいに揃えて、階段を上って2階の自分の部屋に向かった。カバンをおろして、一息つく。大の字になって、ベットに倒れかかる。

 

「あー、気持ちぃー。このふわふわ感。癒やされるぅー」

 一応、これでも小学生である。


「おっといけない。いけない。大事なことを忘れるところだった。お掃除しなくちゃ。 今日の当番。私なんだよなー。ママが帰ってくる前にやらないと、怒られちゃう」


 お掃除というのは、決して部屋が汚いわけではない。小枝家では、家事は当番制となっているのだ。今日の掃除当番は絵里なのである。掃除をする部分は1階のリビングや台所。といったみんなで使う部分である。

 

 絵里は立ち上がって、階段を降りて1階に向かう。掃除機を手にとって、所定の位置まで持ってくる。小学生の絵里にとっては、この掃除機はかなり重たい。掃除機のコードを引っ張って、コンセントに差し込む。

 

「スイッチON」

 ブォーという音とともに掃除機が動き出す。


「あれっ。いつもより吸い込みが弱いぞ、ゴミが一杯になったのかな」


 絵里は掃除機の蓋をあける。どうやら紙パックが満杯になっているようである。絵里は紙パックを交換するため、買い置きの紙パックがある物置部屋に向かった。

 絵里はドアをあけて、物置部屋に入った。そして灯りをつけた。この物置部屋は灯りがあっても薄暗かった。


「確かこの辺に、買い置きがあったと思うんだよねぇ」


 絵里はゴソゴソと物置部屋を物色する。一応整理はされているが、物が多いのですぐには見つからない。

 

「あった。これこれっと」


 絵里は紙パックを1つとりだす。そろそろ戻ろうかと思った時に何か奥に怪しく光るものを見つけた。

 

「あれ。なんだろう。ちょっと怖いけど、電気つけっぱなしは良くないし。ママや姉ちゃんに怒られるかもしれないし……ちょっと見に行こうかな」


 絵里は恐る恐る奥への向かった。小学生とはいえしっかりした娘である。

 

「何だろうこれ、四角い箱でパソコンみたいなボタンがいっぱいついてる。上に誰かのってる。ぬいぐるみかな……こんなぬいぐるみうちにあったけ、可愛いな。何の動物かなぁ……丁寧につくられてるなぁ」


 黄色い体に黒い斑点模様、目から口にかけての黒いライン。

 それは……


 チーターである。


「ぬいぐるみにしては、ちょっと重たいね。縫い目が見えないし、耳も鼻も目も、すごい綺麗」


 そのチーター高さ30センチくらい、仔猫のような大きさである。

 絵里はそのチーターをいろいろと触った。手や足、尻尾、耳、鼻、その時


「ニャー」


 チーターのぬいぐるみが声を上げて動き出した。


「わぁー、生きてるの」

「ニャー、静かにするニャー」


 絵里が驚いて叫ぼうとした瞬間、そのチータはすばやく絵里の後ろに回り込んで絵里の口を塞いだ。地上最速動物、チーターらしいスピードである。絵里も運動神経は決して悪くないが、不意をつかれたこともあって、何も反応できなかった。

 

「こんなところ大声を出しちゃいけないニャー」


 チーターも焦りがあるのか慌てて小さな声で囁いた。


「とにかく、ニャーは耳が良いのニャ」

「狭いところで大声を出されるのは困るのニャ、耳が痛くなるニャ」

「ここではいろいろと分が悪い、話は後ニャ」


 チーターはとても焦っている様子であった。必死の思いが通じたのか、絵里はそれ以上の言及をすることはなかった。


「わかったわ。とにかく私のお部屋に行きましょ」


 チーターと絵里は絵里の部屋に向かった。


「にゃほん、こう見えて、ニャーは先生なのであるニャ。おみゃーさんが、学校の成績を少しでも良くするために、別の世界からやってきたのだニャ。チーチャーといってニャ、あっちの世界では、凄く偉い先生なのだニャ」


 このチーターのぬいぐるみのようなやつは、チーチャーというらしい。見た目はチーター。頭には、青っぽい学者帽子を被っている。その帽子には「BASIC」「PROGRAM」と書かれている。


「私のために? その割には、何であんなところにいたの?」


 絵里は疑問に思ってチーチャーに尋ねる。


「本当はもっとカッコいい登場のしかたでも良かったのニャ。机の引き出しの中から、未来からやってきたってやろうと考えていたのニャ。まぁとりあえず、仲間の声が聞こえてニャ。仲間というのはニャーの下にあった四角い箱。○SXっちゅう、車の名前みたいなコンピューターでニャ。楽しくおしゃべりしてたら、そのまま気持ちよく眠ってしまったってわけなのニャ」

 とチーチャーは淡々と語る。


「あれ。パソコンだったんだ。パソコンと喋れるの?」

「まぁ、こう見えてプログラミングの妖精なのだニャ。あっちの世界ではBASIC言語に関して研究をしているニャ」

「ぷろぐらむ? べーしっく?」

「そうか、おみゃさんはまだ、プログラムというものをわかってないのかニャ? プログラムもBASICも身近なところにあるニャ。例えばそれニャ」


 チーチャーは、絵里の机の上においてある折りたたみ式の携帯ゲーム機を指さした。そして不思議な力で、同じものを召喚して、手に取って絵里に見せる。


「プログラムは、どこにでもあり、そして見えないものニャ。アレも、これも、プログラムで動いているニャ。この現代の情報化社会においては、プログラムを感じ取ることは、とても重要なのであるニャ」


 この現代の世の中ではありとあらゆるものがコンピューターで制御されている。そしてコンピューターはプログラミング言語で制御する。


「そして、そのプログラムをもっとも身近に感じ取ることができるのが、これニャ」


 チーチャーは折りたたみ式携帯ゲームのようなものを、パカっと開いてみせる。画面は上と下に分かれており、下にはコントローラーのようなボタンがたくさん並んでいる。上の画面は黒い背景に白い英語の文字。下の画面には、パソコンのキーボードのようなものが映っている。

 

「これは『プチコン』といってニャ。これからのプログラミング時代を生きる上で必要なプログラミングを学ぶための最適なゲームソフトなのであるニャ。おみゃーのゲーム機にも入っているかニャ?」


「入ってないけど。初めて見たよ。そんなソフト」

「にゃにゃーっ」


 チーチャーは驚いた表情を見せる。


「まぁ、無理もないかニャ。まぁこれから入れれば問題ないニャ。決して高いソフトではないのニャ。こんなに安くて良いのかってくらいだニャ。まぁ何事もやってみるのが一番だニャ」


チーチャーは『プチコン』について丁寧に説明した。


 絵里は携帯ゲーム機を起動しゲーム内のオンラインショップから、そのソフトをダウンロードするが画面を表示させる。


 最近のゲーム機では、インターネットを通じて、自宅からソフトをダウンロードして購入できるものもあるのである。わざわざお店に行かなくても、新しいゲームを買って、ゲーム機に入れることができる便利な世の中になったものである。

 ちなみに『プチコン』とは『株式会社スマイルブーム』による、ゲーム機上で自分でプログラムを書いて実行してゲームを作ったりして楽しむことができる。ケームソフトである。オンライン限定で販売しているが、ソフトの値段は高くないため。初めてプログラミングをされる方におすすめである。

 仮にプログラミングができなくても、他のユーザーが作ったたくさんのゲーム作品を楽しむことができる。またゲーム以外にも市販のソフトに負けず劣らずのお絵かきツールも公開されているため、ダウンロードして損は無い。ということである。


 そして、この物語を楽しむ上では『プチコン』を知っているとより深く楽しむことができるであろう。

  

「これかぁ、言われるがまま有料のソフトを買うのはどうかと思うけど、そんなに高くないし、まぁいいか、チーターさんを信用しよう」


 絵里は携帯ゲーム機を操作し、ソフトをダウンロードした。


「早速起動。そもそも、何をやるゲームなの? これ」


「プログラムで何ができるか、そもそも、何に役立つのか? 面白い質問であるニャ。今のおみゃーさんにできること、それは学校の宿題の答え合わせってことかニャ。百聞は一見にしかず。実際にやってみるのが一番ニャ」


 チーチャーは実際にゲーム機を手にとって説明する


「まず『プログラムを作る』」を選ぶニャ」

「これかな。チーチャーさんのやつみたいな黒い画面がでてきたね」

「次に『? 1+1』と下のキーボードで入力するニャ」

「こうかなぁ」

「そうニャ、そして『Enter』キーを押すニャ。何が起きるかニャー」

「えんたぁって、これかな。ぽちっ」

「あ、『2』って出た。何だ、ただの電卓かぁ」

「これがコンピュータの基本な機能。数字の計算することができるということなのであるニャ。でも、ただの電卓ではないニャ。」


 コンピュータとは人間が入力して計算した結果を画面に表示したりして出力するものである。もっとも身近で単純な例は電卓である。

 

「こういうこともできるのだニャ。ニャーのマネして同じことをやってみるのニャ。例えば、『りんごが5個ありました。みかんが3個ありました。合わせていくつでしょう?』ニャ。簡単な問題かもしれにゃいけど、基礎を知るには簡単なことから試すことが大事なのだニャ。文字は打ち間違えにゃいようにニャ。まぁうち間違えても、危ないことにはならないから、堂々とやるニャ」


 チーチャーは問題を投げかけた。


「まず、さっきの黒い画面で『APPLE=5』と入力して『Enter』を押すニャ。次に『ORANGE=3』と入力して「Enter」を押すニャ。次に『GOUKEI=APPLE+ORANGE』と入力して「Enter」を押すニャ。次に『PRINT GOUKEI』と入力して「Enter」を押すニャ」


「こうかなぁ……次はこうやって……えいっ!」

絵里がプチコンの画面に打ち込んだプログラムはこうであった。

 APPLE=5

 ORANGE=3

 GOUKEI=APPLE+ORANGE

 PRIT GOUKEI


「あれぇ。しんたっくす えらー?」

「コンピュータはコンピュータが分かる言葉しか理解できないんだニャ。最後の行の文字は……」

「あ、間違えちゃった。てへっ。ここを直せば。えいっ?」


 黒い画面に『8』が表示された。


「できたできたー」

「プログラムってこんなものなんだニャ。こういう間違いならちゃんと教えてくれるから、やってみると、そんなに難しいわけではないのニャ」


 チーチャーは自信満々で語る。


「今みたいに黒い画面で何行もある計算をやりたい時はうち間違えたらめんどくさいのにゃ。そこで『EDIT』を押すにゃ」


 チーチャーは実際に画面を見せて説明する。


「緑の画面ではプログラムを何行もかけるようになっているニャ。さっきのようにこうやって何行も書くニャ」


 チーチャーは慣れた手つきでゲーム機の下画面を叩いてプログラムを入力する。


「そしたら、『DIRECT』を押して黒い画面にするニャ」


 チーチャーが手に持ってるゲーム機の上の画面が黒い背景の画面に変わった。


「黒い画面で『RUN』と入力するにゃ。さっきの同じことができるニャ。ここで使ってるAPPLEというワードは 変数といって、別にAPPLEじゃなくても計算はできるニャ」


 チーチャは長々と説明した。


 チーチャーはゲーム機を操作して、別の緑の画面を表示して、別のプログラムを入力する。


 A=5

 B=3

 ?A+B


「これでも同じことができるニャ。この数字を入れて置くことができるものを『変数』というニャ。プログラミングでは特に重要だから、覚えておくニャ」


 チーチャーは学校の先生のような口調で説明する。でも語尾にニャが付くのは仕様のようである。


「『変数』か聞き慣れない名前だけど、やってる事自体はそんなに複雑ではないのね。プログラミングが何か少しわかった気がする。ありがとうチーターさん。そういえば紹介がまだだったね。いろいろゴタゴタしてて。私は『小枝 絵里』、エリーって呼んでもいいよ。チーちゃんって呼んでいっかな?」


 絵里は微笑みながらチーチャーに話す。


「エリー? ぞうさんみたいな名前だニャ」


 絵里は頭にはてなマークを浮かべた表情をする。


「いやいやウソだニャ。可愛い名前だニャ。ニャーもエリーって呼ぶことにするニャ。よろしくニャ。エリー」


 絵里とチーチャーは楽しそうに喋っている。


「にゃにゃ、何か忘れてないかニャ」


 チーチャーがからかうように笑いながら言った。


「あぁ。お掃除まだ終わってなかった。ママが帰って来るまで時間があるし、とっととやっちゃおう」


 絵里とチーチャーは楽しそうに掃除機のあるリビングに向かった。

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