第21話 ニブイにもほどがある!! ②

 

 ***



 一週間がこんなに長く感じたのは、人生で初めての事だったと思う。

 このままでは干からびると、いっそ脱走しようかと、正直何度も思っては止まった。

 生半可な気持ちで舞子に縋った訳じゃないだろうと。


 早朝の電車に始まり、各種交通機関を使いまくって二時間。

 ようやく辿り着いたそこは、緑豊かな山の中腹に佇んでいた。

 舞子の居る寺では、宿坊ステイと言うものをやっており、ここに来るまでの道中、一人寂しくといった事にはならず、誰かしらと話しながら辿り着いた。特に年配の夫婦やおばちゃんグループに声を掛けられたのには、少しばかり “何故だ!?” との思いもある。お姉さま方も居たはずなのに。


 別に浮気心とかではない。少し疑問に感じただけだ……断じて、ない。

 しかし。

 一週間が楽しくなりそうだと、ほんのちょっとでも思った自分が馬鹿だったと、このあと嫌でも思い知らされることとなった。




 通された部屋は三畳ほどの板張りで、文机と畳まれた布団があるだけの簡素な部屋だった。如何にも寝るためだけの場所。

 この時の感想は、“独房か?” である。

 実際、それに近い状態だった。


 他の修行体験に来た面々は、それ専用の宿泊施設に泊まっていたようだ。なのに篤志だけは、この寺に立ち寄った僧侶のための部屋だった。

 舞子に言わせれば『篤志くんはお客様じゃないでしょ』と素気無いもので、食事は他の泊り客と一緒だったが、根本的にお遊び気分の修行体験とはかなり違うものだった。


 先ず着いてすぐ、篤志だけ滝行に連れて行かれた。

 この最近少し暖かくなってきたとは言え、春先の滝行は凍え死ぬかと思うくらい水が肌を刺す。

 唇を真っ青にしガタガタ震える篤志を見て、一緒に滝行をしていた住職に『最近の若い奴は軟弱な』と小馬鹿にした台詞と共に溜息を吐かれた。


 この時篤志は滝行衣たきぎょうえと言う白装束を纏っていて、肌に張り付き余計に寒さを感じた。因みに住職はふんどし一丁だ。篤志も褌を勧められたのだが、ビジュアル的に抵抗を感じて、丁重にお断りした。

 座禅に写経に写仏(手本の上に薄い紙を敷き、仏様をなぞり描くもの)を黙々とやらされ、夜が明けきらない時間に叩き起こされると、朝のお勤めと作務をこなす。


 チラッとでも余計なことを考えれば、すかさず説教を食らう。住職の有難い言葉が地獄に感じる時間だった。それと言うのも最初は全く出来なかった結跏趺坐けっかふざのせいだ。股関節が外れるんじゃないかと本当に冷や冷やした。

 修行に来たわけではないのに、小坊主になった気分である。

 頭を丸めろと言われなくて、良かったと尽々思う。


 そして篤志を悩ませたもう一つ。食事だ。

 日々の糧は精進料理の一日二回だけ。最初の二日は空腹で仕様がなかったが、山を下りて買い物に行くわけにもいかず、下りたところでコンビニなどない。篤志はひたすら耐え忍んだ。

 肉を貪る夢を見なかった日はなかったと、一週間を振り返ると涙が出てくる。


 遊んでいる暇などなかった。

 毎日疲れ果て、布団に倒れ込むように寝た。

 頑張った自分を褒めてやりたい。


 最終日、本堂へ呼ばれた。篤志が行くと、そこには白装束に水色の袴を穿いた舞子がピンと背筋を伸ばし、正座をして待っていた。


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