第102話 覚醒

 黄金のオーラを纏ったフェインの雰囲気は大きく変わった。見ているだけで安心できるような優しさと、勇者として覚醒した力強さが溢れ出ているようだ。

 フェインは傷だらけのブレイブをラッシュの側に寝かせると、一人ルナシオンの元へ歩いて行った。



フェイン「これが俺に眠っていた力……」


ルナシオン「クックックッ……ただ超スピードでアルマを助けただけだろ?」


フェイン「さあな、だが動けるようになればこっちのもんだ!」


ルナシオン「あまり僕を舐めるなよ……もう一度地に這いつくばるがいい!」



 再び強い重力がフェインに襲いかかった。しかし、次の瞬間ルナシオンの前からフェインが消えた。

 そして驚いたのも束の間、背後から強烈な蹴りが炸裂しルナシオンは大きく吹き飛ばされたのだった。すかさず宙に浮き体勢を立て直す。

 しかし、またしてもフェインの姿が消えている。



ルナシオン「な…一体何が起きているんだッ……!?」



 空中身構えるルナシオンの周りからフェインの声だけが聞こえてくる。よく見ると周囲を光のようなものが超スピードで動き回っている。



フェイン「礼を言うぜ、あんたのお陰で俺は前より強くなれた」


ルナシオン「くッ……速すぎてほとんど見えない」


フェイン「今の俺はを得た!あんたの魔法も当たらなければ問題ないはずだ」


ルナシオン「確かにすごい速さだ……しかし、これならどうかな?」



 ルナシオンが徐に両手を空に向けると、上空に穴が出来た。穴の中は完全な暗闇になっており見る者を不安にさせる威圧感があった。穴は次第に大きく成長している。

 そして、周囲のものを吸い込み始めた。



ルナシオン「ブラックホール、こいつは何でも吸い込むやばい代物でね。勿論、光だって例外じゃない。この引力からは逃れる術はないんだよ!これで君達も終わりだね」


ラッシュ「気を付けろフェイン!あの穴から強い重力を感じる。吸い込まれたら二度と出られない……それどころか一瞬で潰れるぞ」


フェイン「ああ、分かってる……」


ルナシオン「逃げてもいいんだよ?傷ついた仲間を見捨ててね」


フェイン「いや、逃げる必要はねえッ!お前はここで倒す」



 フェインは腰を深く落として右腕に光を集め始めた。光の輝きは凄まじい勢いで増幅し圧縮されていく。

 何らかの魔法である事は確かだが、魔法を極めたルナシオンさえも見たことのないものだった。



フェイン「あんたら魔王軍幹部は一度死んだ奴らなんだってな?弟子との再会もしたんだし、そろそろ成仏してくれよ!」


ルナシオン「この強い光は……かつてのアルマと同じ…!?いや、それ以上だ」


フェイン「俺のありったけだ!いっけええええええええッ!!!」



 フェインは右腕に溜めていた光をルナシオンに向けて一気に解き放った。すかさずルナシオンはバリアを張ったが、光の波動はそれをもろともせずに撃ち破った。

 波動はルナシオンに直撃した、しかし勢いが落ちることなくルナシオンを上空へと押し上げて行く。その先にはルナシオンが作り出したブラックホールがあった。



ルナシオン「この僕が……負ける?だけどこれでよかったのかもしれないな……」



 薄れゆく意識の中、ルナシオンは正気に戻った。勇者の光が魔に汚染された魂を浄化したのだ。

 フェインの放った光の波動はルナシオンを巻き込んでブラックホールに衝突した。その衝撃は凄まじく、周囲の雲が全て吹き飛ぶほどだった。

 しかし、ブラックホールは完全に消え去り、ルナシオンもまた再び永遠の眠りについた。



ラッシュ「やった……のか?」


フェイン「ああ、何とかな」


ブレイブ「フェイン……先生を魔王から解放したんだね。本当にありがとう」



 三人は魔王の手先となったルナシオンを倒した。かなり苦戦したが七人いる幹部の内の一人を倒した事になる。まだ倒すべき敵は多いが、フェイン達は魔王に一歩近づいたのだった。

 その頃、デスタの試練が行われている森ではクロウと魔王軍幹部のノーシュが激しい戦いを繰り広げていた。クロウは本気の時にしか使わない、棺の中にある前世の肉体を使って戦っている。しかし、ノーシュはまだ余力を残している様子だ。



ノーシュ「へー、結構やるじゃん。俺っちとここまで渡り合える人間初めて見たよ」


クロウ[男]「その台詞、まさか格上のつもりかい?」


ノーシュ「当然っしょ、何たって歴戦の英雄なんだぜ俺っち」


クロウ[男]「だからどうした。お前達は死人、所詮過去の存在だ。大人しく冥界へ帰るんだな」


ノーシュ「嫌なこった。折角復活したんだ、昔みたいに可愛子ちゃん達にチヤホヤされるまで帰るわけにはいかねえな」


クロウ[男]「それがお前の目的なのか……?」


ノーシュ「そりゃあそうさ!それに今は魔王とやらの下で働いてりゃ大金も入ってくるし、こんな良い暮らしはないぜ〜」


クロウ[男]「魔王ゼニスが世界を支配したら人間は滅ぼされるんだぞ!」


ノーシュ「ま、死人の俺には関係ないし……そろそろ続きを始めるとしますか!」



 ノーシュは腕の関節を鳴らすと、大きく飛び上がった。そして、木々の葉の中に身を潜めた。クロウは周囲を警戒しながらノーシュが動くのをじっと待った。

 静かな時間が流れる。どれくらい時間が経っただろうか、気がつくと日は落ち、辺りに夜の帳が下りる。しかし、まだ気配が消えていない。



クロウ[男]「おい、いつまで隠れているつもりだ?」



 反応は無かった。だが、ここで痺れを切らして木に登れば向こうの思う壺だろう。クロウは再び待つ事にした。

 すると、戦い疲れて木陰で眠っていたデスタとセレカが起きてきた。二人はすぐに状況を察すると剣を構えた。



デスタ「敵は……一人か?」


クロウ[男]「一人だが油断しない方がいいぞ。奴は幹部だ」


セレカ「三人で掛かれば殺れるな」


クロウ[男]「待て、奴は木の上で身を潜めている。闇雲に突っ込むのは危険だ」


デスタ「フン、それならこの一帯の木を全て斬り伏せるまでだ。二人共、少し伏せてろ」



 二人はデスタに言われた通り身を低くした。デスタは魔界剣に魔力を集めると、大きく薙ぎ払った。デスタを中心に黒い斬撃が広がる。

 斬撃に触れた木々は一瞬で切断され、次々に倒されていく。すると、たまらず葉っぱの中に隠れていたノーシュが飛び出してきた。



デスタ「隠れんぼは終わりだ」


ノーシュ「ひー、なんて乱暴な奴だ(この禍々しい気配、こいつが例の元魔王か……)」


クロウ[男]「随分と時間が掛かってしまった。悪いが全員で相手をさせてもらうぞ」


ノーシュ「クックックッ……何人で戦おうが同じさ。お前らに勝ち目はない!」


セレカ「なんだと?」



 ノーシュは膝をつくと夜空を見上げた。煌めく星空の中に、不気味に赤く染まる満月が昇っていた。

 果たして、ノーシュの不敵な笑みの意味は…………………………………………………

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