第98話 絆

 時刻は正午、デスタ達はリゾー島の港で待っているキース達と合流すると、島で起こった出来事を話した。



キース「なるほど、そんじゃ伝説の剣とやらはもう当てにならないなぁ。で、どうやって魔王と戦うつもりだ?」


フェイン「修行する!それ以外に方法はない!」


キース「あのなぁ……魔王との力の差は半端じゃないんだぞ、普通の修行じゃ一生掛かっても追いつけねえよ」


ピノ「じゃあどうすんだよ!」


キース「まあ、今後の事はあいつに聞いてみるといいんじゃないか?」


カナ「あいつって誰よ?」


キース「お前達が島に行ってる間に俺達の所に翼の生えた小僧がやって来てな、ブレイブさんを探してるって言うから船で待たせてたんだ」


デスタ「(翼…天使か……?)」



 キースの案内で船の客室に入ると、そこには天使とブレイブがソファに座って何やら真剣に話し込んでいた。

 天界は部屋に入って来たキース達を見ると少し身構えた。しかし、デスタを発見すると構えを解いた。



天使「おお、久しぶりですね!元気でしたか?」


デスタ「誰だ、お前は?私はお前になど見覚えはないぞ」


天使「ひ、酷いなぁ。スカイゲートの街で会ったじゃないですかあ!」


ブレイブ「なんだ、デスタの知り合いかい?」


デスタ「スカイゲート……ああ、思い出した。確か、突然襲ってきたから返り討ちにしてやった天使だな?」


天使「そ、そうですよ……天使のリュシオンです。もう忘れないで下さいね」


フェイン「そんで?デスタに返り討ちにされた天使がブレイブさんに何の用だよ?」



 リュシオンは天界が魔王の標的になっている事を皆に説明した。そして、一度魔王を倒しているブレイブに救援に来て欲しいと頼みに来たとの事だった。



リュシオン「恐らく今の戦力では魔王軍には勝てません。アルマさん!いえ、ブレイブさん!お願いします、天界を……女神様を救ってください」


ブレイブ「うーん……助けて上げたいのは山々なんだけど、今の僕が魔王と戦っても勝てる確率はほとんど無いと思うよ」


リュシオン「そ、そんなぁ……それじゃあ天界が」


ブレイブ「でも希望はある!」


リュシオン「おお!では天界に来てくれるのですか?」


ブレイブ「ああ、フェイン達も連れて行くならね」


リュシオン「えっと……その子達は戦えるんですかね?」



 リュシオンは不安そうにフェイン達を見た。自信満々な笑顔でガッツポーズをするフェイン。それを見たリュシオンはますます不安になった。



ブレイブ「心配しないで、こう見えてみんな強いんだ。僕なんかよりずっと頼もしいよ」


リュシオン「あなたがそこまで言うのなら信じましょう、彼らを」


デスタ「話は決まったな。次の目的地は天界だ、早速出発しよう」


カナ「ちょっと待った!どうやって天界に行くつもりよ?」


リュシオン「天界の住人以外の者が天界に行くことが出来る道はただ一つ……」



 リュシオンが言う天界に行く唯一の方法。それは、ここより遥か北西に存在する神の塔の頂まで登ることだった。天界の入り口はそこにしかないとの事だ。



カナ「ここからずっと北西って事は……何大陸?」


ブレイブ「レスト大陸、あそこには光の部族が住む村があるんだ。修行するには良い環境だぞ?懐かしいなぁ、昔は僕も修行したっけ」


デスタ「ほぉ?伝説の勇者の修行した地か……少し興味があるな」


ブレイブ「それに、フェインもそこで勇者の力の正しい使い方を覚えるチャンスだ」


フェイン「正しい使い方?」


ブレイブ「フェイン、君はまだ勇者の力を扱えていない。だけど、もし君が力を完全に引き出せたなら、あの魔王軍の幹部とも互角以上に戦えるはずだよ」



 フェインが勇者の力を持っている事を知ったリュシオンは目を丸くして驚いた。そして、フェインをじっくりとつま先から頭の天辺まで凝視した。



リュシオン「君!まさか勇者の力を受け継いでいるのですか?」


フェイン「そ、そうらしい……よく分からないけど」


リュシオン「驚いたなぁ……だけど確かに魔王を倒す希望が見えてきましたよ」


ピノ「フェインだけじゃなくて俺達だって戦えるって事を忘れんなよ!」


リュシオン「え、ええ勿論。だけど勇者と元魔王のデスタリオスがどうして一緒に旅をしているんですか?」



 この場にいる全員が沈黙した。デスタはフェイン以外にはまだ自分の正体を話していない。気まずい空気が続く中、沈黙を破ったのはフェインだった。



フェイン「デスタが元魔王?ハッハッハッ!天使ってのは面白いジョークを言うんだなあ(こいつ……突然とんでもない事を暴露しやがって)」


リュシオン「いいえ、ジョークではないですよ」


カナ「ぷぷぷ!デスタが魔王って、どこをどう見てそう思ったのよ」


ピノ「そうだ!そうだ!確かに姉御の威圧感は魔王級だけど……」


リュシオン「ジョークじゃないんだけどなぁ」



 フェインの咄嗟のフォローにより、デスタが元魔王だと言うのはジョークという流れになった。しかし、ブレイブだけは納得していない様子だった。



ブレイブ「デスタ、僕は君を仲間だと思っている、だから正直に言って欲しい。さっきリュシオンが言っていた事は本当なのかい?」


フェイン「ちょっと待ってブレイブさん、デスタは」


デスタ「フェイン!もういい……いつかは話すつもりだったんだ」


ブレイブ「と言う事はデスタ、君はやはり……」


デスタ「私の前世、それは100年前伝説の勇者アルマと戦った魔王……デスタリオスだ」



 デスタの衝撃の告白にピノやカナ、キース達は驚いたがブレイブは全く反応を示さなかった。何となく察していたと言う感じだ。



ピノ「そんなつまらない冗談はやめてくれよ姉御……」


カナ「そ、そうよ!嘘に決まってるわ……ねえ、デスタ?」


デスタ「悪いな、今言った事は全て真実だ」


キース「だとしたらあんたは敵なのかい?」


ピノ「姉御が……敵?」


フェイン「待て待て待て、みんなどうしたんだよ!こいつが元魔王だからって仲間なのは変わらないはずだろ?」



 フェインは動揺している仲間達を必死で説得した。しかし、元魔王という立場にありながら勇者側にいるデスタに、皆納得していないようだった。

 そして、ついにブレイブが剣を引き抜きデスタの前に立った。緊張が走る中ブレイブは話し始めた。



ブレイブ「君の持っているその剣、魔界の物だね?」


デスタ「ああそうだ。魔の魂を持つ物でなければ扱えない」


ブレイブ「アルカランドで会った時、何となく他の人達とは違う雰囲気を持つ者だとは思ったけど……まさか魔王だったとは思わなかったよ」


デスタ「言いたい事があるならさっさと言ったらどうだ?」


ブレイブ「そうだね、はっきり言わせてもらうよ」


フェイン「ブレイブさん……デスタは」


ブレイブ「僕はデスタ、君を信じるよ!」


デスタ「……!?」



 予想していなかった反応にデスタは言葉を失った。騙そうとしているのかとも思ったが、彼の曇りなき真っ直ぐな眼は嘘を言っているようにはとても思えなかった。



デスタ「私を信じるだと…?自分が何を言っているのか分かっているのか?」


ブレイブ「ハハハ、勿論根拠がない訳じゃ無いさ。今まで仲間達のため行動する君を見て、敵じゃないと判断しただけだよ」


フェイン「ブレイブさんの言う通りだ、こいつが何者かなんて関係ない!そうだろ?みんな」


カナ「そうね、確かにそうかも。決めた!私もデスタを信じるよ」


ピノ「確かに!元魔王だか知らないけど姉御は俺達の味方だね」



 フェインの説得の甲斐あって、皆デスタを信じてくれた。いや、仮にフェインの説得がなくても皆信じていただろう。これまでの旅で得た絆がそこにあるから。

 こうして、より絆が深まった一行は天界を目指してレスト大陸に向かうのだった………

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