第61話 ルーバリエ学園

ラッシュは武器屋で剣を眺めていた。斬れ味の良い物、変わった形をしている物。彼には眺めているだけで充分楽しめる内容だった。すると、何やら店の外が騒がしい。外に出てみると、フェインとピノがどこかの制服を着た男達と揉めていた。



ラッシュ「どうした?何かあったのか?」


ピノ「ラッシュ!コイツら俺の財布取りやがったんだよ!」


男1「は?言いがかりつけてんじゃねえよ!」


フェイン「じゃあポケット中身を見せてくれよ」


男2「証拠はあんのかよ!証拠は!」


フェイン「んなもんポケットの中を見れば一発で分かるだろ」


男3「うるせえな!俺達にこんな事して良いのか?」



制服を着た男達は自分達をルーバリエ学園の生徒だと名乗った。生徒だから何なの?と言いたい所だが、ゾロゾロと野次馬達が集まって来ており、話しをこれ以上続けても平行線だろう。フェインは仕方なく泣き寝入りする事にし、その場を立ち去ろうとした。その時、人混みをかき分けて一人の男性が現れた。髪は青。マントを羽織っており、妙に澄んだ目をしている。年齢は二十代半ばくらいだろうか。



男1「ブレイブ先生!?」


ラッシュ「もしかして、ルーバリエ学園の教師か?」


男2「先生、コイツらが僕達を泥棒だろって言いがかりを」


ピノ「言いがかりじゃねえよ!」



ブレイブと呼ばれた男は、黙って両方の意見を聞いている。そして、生徒にポケットの中身を取り出すように指示した。生徒は渋々中身を見せる。すると、中からフェインの財布が出てきた。



ブレイブ「君達には申し訳ない事をしたね。うちの生徒達がこんな事をするなんて……後でキツく言っておくから、ここはこれで勘弁して欲しい」



そう言うとブレイブは金貨十枚をピノに手渡した。しかし、フェインがそれを断る。



フェイン「財布は返して貰ったし、そんなの要らないですよ」


ピノ「え、貰おうよ」


フェイン「いいだろ、先生は悪くないんだから」


ピノ「うーん、分かった」


ブレイブ「そうか、恩に切るよ。でも、やっぱり何かお礼がしたいなぁ……そうだ!」



ブレイブは何かを思いついたのか、徐にふところから三枚の紙を取り出した。そして、それを三人に手渡した。



ブレイブ「それは今夜、学園で行われるパーティーの招待状。よかったら来てね、きっと楽しめると思うよ」



ブレイブは招待状を一方的に渡すと、生徒達を連れて去って行った。残されたフェイン達は、取り敢えず人混みから離れる。



フェイン「なあなあ!パーティー行ってみようぜ!」


ピノ「俺は美味い飯が食えるなら行くぞ」


ラッシュ「パーティーか……どんな感じのやつなんだ?」


フェイン「どんな感じってどゆこと?」


ラッシュ「馬鹿騒ぎするだけのパーティーの事なのか、それともスーツやドレスを着ていくお洒落な方なのかって事」


フェイン「さあな、どっちでも良いだろ」


ラッシュ「はぁ……お洒落な方だったら俺達もちゃんとしたの着てかないとダメだろ…」



夜、ルーバリエ学園には沢山の人達が集まっていた。皆、今夜のパーティーに参加するのだろうか、綺麗な服を着ている。そんな中、フェイン達三人は着慣れないスーツを着て学園内を歩いていた。



ラッシュ「俺の予想通りお洒落な方のパーティーだったな」


フェイン「俺は馬鹿騒ぎでも良かったけど…」


ピノ「二人共ちょっと待ってよ!こっちは靴がぶかぶかで歩きづらいんだからさ」


フェイン「だから子供用買えって言っただろ」


ピノ「俺は子供じゃねえよ!」



三人が学園の噴水のある広場に来ると、フェインの頭の上に白いもふもふした物が飛び乗って来た。「こらー!勝手に行っちゃダメだよ、バル」と言う声と共に、デスタとカナが現れた。



カナ「あれ、アンタ達も来てたんだ」


ピノ「うん。ブレイブって言うこの学園の教師から招待状貰ったんだ」


ラッシュ「それにしても、お前達の格好は何だ……」


デスタ「?……お前には少し刺激が強すぎたか?ラッシュ」



デスタとカナは胸元の開いたセクシーなドレスを着ていた。フェインはそわそわしている。ラッシュに至っては視界にすら入れようとしない。



カナ「あはは……ちょっとセクシーすぎちゃった?」


ラッシュ「目のやり場に困る……」


ピノ「それにしても姉御もそんな服着るなんてちょっと意外」


デスタ「私はこんな戦いづらいのは着たくなかったんだが、カナがどうしてもと言うのでな」



五人で雑談をしていると、武芸試合が始まると言う放送が流れた。デスタは急いで控え室に向かう。会場では早速試合が始まっていた。デスタ以外の四人は、デスタが登場するまで試合を観る事にした。すると、四人の元にブレイブがやって来た。



ブレイブ「やあ、パーティー来てくれたんだね」



ブレイブはカナに軽く挨拶をする。そして、一緒に試合を観る事になった。



フェイン「そう言えば一つ訊きたいんですけど、この学園に勇者アルマが居るって本当ですか?」


ブレイブ「その話、どこで聞いたの?」


フェイン「仲間が天使から聞いたって言ってて」


ブレイブ「そうか……」


ラッシュ「で、この学園に勇者アルマは居るんですか?」


ブレイブ「居るよ、目の前に」



四人は言葉を疑った。まさか、探していた勇者がブレイブの事だったとは夢にも思っていなかったのだ。



ブレイブ「今は名前を変えて教師をやってるよ。セカンドライフって奴だね」


フェイン「貴方が……伝説の勇者」


ブレイブ「伝説なんて大袈裟だよ……僕はただ、みんなが傷つくのを見たくなかっただけさ」


ラッシュ「ブレイブさんは転生者って事ですよね?勇者の力は使えるのですか?」


ブレイブ「残念だけど今の僕に勇者の力は無い。だけど、前世で覚えた技術は残ってる。僕も二ヶ月後の戦いには参加するつもりだよ」


フェイン「ブレイブさんが居てくれりゃあ百人力…いや、千人力だぜ!」



フェインとラッシュは目を輝かせてブレイブに質問攻めをしている。二人共、本物の勇者に会えた事で興奮を隠せないようだ。ピノとカナ、バルは完全に勇者トークに置いていかれている。すると、ようやくデスタが会場に現れた。相変わらず胸元の開いたドレスを着ているが、まともに戦えるのだろうか。対戦相手は、約束通りライラが出て来た。そして、大勢の人達が見守る中、試合が始まった。



ライラ「とくとご覧あれ!わたくしの華麗なる鞭捌きを!」



ライラの武器は鞭だった。かなり自身があるのか、ニヤリと笑っている。どんな攻撃を仕掛けて来るのか分からない以上、デスタは様子を見る事にした。ライラは鞭を精一杯振り回す。しかし、次の瞬間、鞭はライラの手を離れあらぬ方向へ飛んでいく。



ライラ「あ、あら?おかしいですわね」


デスタ「……ふざけているのか?」


ライラ「ふざけてなどございません!こちらは至って真面目です」


デスタ「なら、そのざまは何だ。今のお前は敵を目の前にして丸腰だぞ」


ライラ「ち…違いますわ!これも計算通りですのよ、オホホホホ!」



そう言うとライラは呪文を唱え始めた。しかし、何も起こらなかった。



ライラ「くっ……わたくしには才能が無いと言うの……」


デスタ「どうやら口だけだったようだな」



デスタは軽く魔力を込めると、ライラを吹き飛ばした。ライラは腰をさすりながら立ち上がると悔しそうに俯く。そして、そのまま会場から出て行った。観客達は騒然としていたが、デスタの勝利となった。試合を観ていたフェイン達も、驚いている。



ピノ「え、あの子すごい自身満々だったじゃん。どうして帰っちゃうの?」


ブレイブ「彼女の家は貴族でね。彼女の家族は全員才能の塊みたいな人達なんだ」


ラッシュ「でも、彼女はそうは見えなかったですが?」


ブレイブ「うん。はっきり言うと彼女にはそう言った物は無い。だけど、努力無しで何でも出来ると思い込んでいる。そのせいでいつも空回りしてるんだ」


カナ「だから態度だけデカくなっちゃって実力が無いのか。でも努力すれば良いのに」


ブレイブ「うーん……その通りなんだけど、そうすると自分に才能が無いと認める事になる。彼女はそう思ってるんだ」



ブレイブの話によると、ライラは学園の中でも孤立していると言う。ブレイブも教師として何とかしてあげたいが、心を開いてくれないらしい。そんな話をしていると、デスタがやって来た。



フェイン「おいデスタ!伝説の勇者を見つけたぞ!」


ブレイブ「フェイン君、その事は他言無用で頼むよ。だれが聞いてるか分からないし」


フェイン「すみません。でも、コイツは悪い奴じゃないから大丈夫ですよ」



デスタはブレイブの前に立った。そして顔をじっくり眺める。向こうも黙ってこちらを見ている。

ついに、100年の時を超えて再開した因縁の二人。デスタはどう接するのだろうか…………

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