第2話 予期せぬ転生

100年後……


  魔王が消えてから世界は平和になった。それは長年多くの人々が願った、魔界からやって来る魔物達がこの世界に来る事が出来なくなったのだ。

 この世界には人間界、天界、冥界、魔界の四つの世界が存在している。人間界には人間や動物、野生のモンスターなどが暮らしており、その人間界の遥か上空に神の住む天界がある。冥界は魔の者以外の生きとし生ける者全てが最後に行き着く世界で、天界と繋がっているらしい。魔界は他の世界とは別の次元に存在し、魔物達は魔界からやって来ると言う事だけ分かっている。

 そして、ここ最近になって100年前と同様に、魔界から魔物達が何処からともなく人間界に現れ、町や村を襲うと言う事が起こっていた。さらに、荒らされた町や村には必ず魔王軍の旗が掲げられているのだと言う。人々は皆噂した、魔王が復活したのではないかと。


天界.神の宮殿……


 天界でも魔王の復活は話題になった。しかし、女神アリシアは魔王の復活ではない事を知っていた。何故なら勇者と魔王は100年前の戦いで死んだ際に、ちゃんと魂を回収して宮殿内に保管していたからだ。

 しかし、魔王の復活でないにしろ、魔界で何か良くない事が起ころうとしているに違いない。



女神「と言う事で勇者君を転生させて、魔界で良からぬ事を企んでいる輩を懲らしめてきて貰おうという事です」


天使「そういう仕事は私達では駄目ですかね?」


女神「駄目ね、魔王が居ないと言っても魔界は未知の世界よ。貴方達ではちょっと危険かもしれない。それに、私の予想では魔王が死んだ事によって新しい魔王が居てもおかしくないんじゃないかしら」


天使「うーん、新しい魔王ですか……」


女神「そんなに深く考えないで大丈夫よ。まだ新しい魔王が居ると決まった訳じゃないし、居たとしても勇者君が倒してくれるわ!」


天使「何ですかその自信は……」



 女神は半ば強引に天使を引き連れ、宮殿内の一番端にある部屋に移動した。部屋の中は薄暗く少し埃っぽい。中央には魔方陣が描かれており何やら怪しい雰囲気が漂っている。



女神「それじゃ早速始めるわよ」


天使「女神様、一つ質問なんですが、最初から最強の肉体で転生させる事って出来ないのですか?」


女神「無理ね、私に設定出来るのは年齢だけで、性別や容姿は完全にランダムよ」


天使「なるほど勇者さんはまた一から強くならないといけないのか……ていうかランダム要素多すぎない?」


女神「そういう仕様なの!文句言わない!さあ、儀式を始めるわよ!」



 そう言うと女神は懐から魂を取り出し魔法陣の中央に置くと、長ったらしい呪文を唱えだす。すると魔法陣が光だし、魂は光と共に消え去った。



女神「はい、これで転生の儀式は終わり!」


天使「(勇者さんも苦労人だなぁ)」


女神「あー疲れた、しばらく儀式は出来そうにないわね」



 女神が疲れて床に座ると、突然部屋の扉が三回ノックされた。天使が扉を開けると、女神の付き人が入って来た。



付き人「女神様、例の物を持ってきました」


女神「例の物?」


付き人「忘れてたんですか?昨日勇者様の魂を取って来てって頼まれてたじゃないですか」


天使「あのー、勇者さんなら今さっき転生の儀式で転生しましたよ」



 付き人は少し驚いた様子で、持っている紙袋からケースを取り出し中身を出した。中にはなんと、正真正銘本物の勇者の魂が入っていた。



付き人「まさか…女神様ご自身で勇者様の魂を取りに行かれたのですか?」


女神「う…うん」


天使「付き人さんの持っているのが本物の勇者さんの魂なら、さっき転生させたのは一体……」



 女神の静かな困惑が二人に伝わる。その時

「大変だー!魔王の魂が無くなってるぞ!」宮殿内で誰かが叫んだ。



付き人「勇者様の魂が保管されている隣の棚には魔王の魂が保管されていたはず…」


天使「まさか……」


女神「ひいいいごめんなさいいいぃ」


付き人「……まずい事になったな」


天使「とにかく今は魔王がどこに転生したのか捜索しましょう」



 こうしてポンコツ女神によって転生してしまった魔王はどこに行ったのだろうか………


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