第10話

 ✿―✿―✿―✿


 次の日の朝、真司は目を覚ますと夢のことを思い出しながら学校へと向かった。



「本当に僕は前へ進めているのかな……?」



 夢なだけあってぼんやりとしか時成の姿やその時の会話は思い出せないが、それでも真司はあれが普通の人が視るような夢でないような気がした。

 そして、時成との約束通り真司はこの夢のことを菖蒲にも誰にも言っていない。



(時成さんって何者なんだろう……)



 時成が『陰陽師』ということはわかった。が、時成が言った「君と僕の夢」「私は君で、君は私だからかな」という言葉の意味は真司には全然わからなかった。

 それを詳しく聞こうにも、時成が微笑みながら「これはただの〝夢〟……今は、それだけでいい」と言っていたのもあって、真司はそれ以上聞けずにいたのだ。どこか親しみのある時成……真司はなぜこんなにも時成に家族のような親しみがあるのかわからなかった。

 思うことが沢山ある真司。すると「真司ー!」と、大きな声で真司の名前を呼びながら突進してくる海が後ろからやって来た。

 真司は振り向くと海の突進を背中で受けて大きくよろめく。



「うわわっ!?」

「遥から全部聞いたぁぁぁ! うぉぉぉぉ、俺は真司のこと信じるからな! 遥と一緒に守ったるからなぁぁぁ!!」



 男泣きしながら真司にハグする海に、遥がすかさず海の頭を小突く。



「朝からうるせぇ」



 遥に小突かれてもまだ真司から離れようとしない海は、パッと顔を上げ遥を見る。海の顔は涙と鼻水が垂れ、真司は海のぐじょぐじょになった顔に苦笑いをこぼした。



「だっで、だっでよぉぉ……そんなことが真司に起こってるなんて知らんかったしぃぃぃ。俺、見えへんじぃぃぃ」

「あ、あはは……はい、ティッシュ」

「あんがどぉ」



 海が離れると真司はポケットからティッシュを取り出し、海は「スビビビー!」という音をたてながら鼻をかむ。

 海が鼻をかんでいる間、真司は遥と目を合わせ申し訳なさそうに眉を下げた。



「神代、荻原に言ってくれたんだね。ありがとう」

「お前が言うたからな」



 そう。全て話し終えた後、真司は自分の力のことを海にも話すべきなのかもしれないと思ったのだ。それは遥も賛成だった。

 何かあった時、例え海に妖怪を見る力が無くても何かしらの助けになると遥は思ったからだ。何よりも遥は海を信頼し信用している。異質な者を忌み嫌わず、誰であっても対等に接するということを。真司のことも受け入れてくれるということを。

 遥自身はそのことを『考え無しのお人好しの阿呆』と言っていたが、真司は遥のその言葉をこう捉えていた。

『隔てなく誰とでも接する、真っ直ぐで根っからの良心者』

 本来なら真司自身が海に話すべきなのだが、遥は真司に気を遣って「俺から言うわ」と言ってくれたのだった。この話をするのには勇気がいり、真司自身もまだ乗り越えられていない過去を何度も話すのには辛かい。だから、遥が気を遣ってそう言ってくれて真司はとても嬉しかった。



「案の定、こいつ俺から昔のこと話すまですっかり忘れててさ」

「いやいや! 普通、幼稚園の頃とか小学生の頃とか覚えてるか? 記憶あやふや過ぎるし! つーか、覚えてないし!」



 フッと笑う遥は、真司の方を向くと真司の肩をポンと叩いた。



「これからは俺も海もおるし。一人で色々と抱え込むなよ」

「そうそう! 俺は全然そういうの見えへんけど、遥は何か見えるようやし! あ、俺だって、昔は遥の家で心霊現象ちゅーの体験したし!」

「それ幽霊とかじゃなくて、全部俺んとこの神様の悪戯な」

「あはは……」



 二人の話に苦笑する真司。真司は海と遥を交互に見て前を向く。



(こんな日が来るなんて思わなかった……。前に進めているっていうのも実感が湧かなかったけれど……)



 真司は深く息を吸うと朝の匂いが体全身に行き渡り、そのまま大きく息を吐いた。

 息を吐くと体も心もリラックスする真司。何となく目の前がさっきよりも鮮明に艶やかに見えるような気がした。

 昔のことで話を続けている遥と海の横を歩く真司は、この出会いに感謝すると自分の中で新しい目標が生まれた。



(いつか……また、翔平君に会いたい。それで今度こそ、ちゃんと説明して謝るんだ)



 過去から逃げるようにこの街に来た真司は、今度は今の出会いに感謝しつつも過去と向き合うことを密かに決めたのだった。

 それがいつ頃向き合えるかはわからないけれど……きっと、直ぐにその出会いはやってくるだろう。


 ――それが〝縁〟だから。



(終)


 次幕→外伝 懐古録~後編~


【あらすじ】

アルバムを見つけ、写真を見る菖蒲・お雪・星。

三人は、前回に続き写真を見ながら当時の話を思い出しながら和気あいあいと語り合っていた。

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