✿悪戯はほどほどに
第1話
人ではないモノが見える少年――宮前真司。
真司はある一件から知り合った謎の和服美人である菖蒲と出会う。そして、妖怪の町である『あやかし商店街』で、付喪神が憑いている骨董屋でバイトをする事になった。
真司はアルバイトとして何度も骨董屋に顔を出している――が、菖蒲はこれと言って真司に仕事を与えていなかった。
(これって、アルバイトの意味がないよね……?)
そう思った真司は、和菓子を食べのんびりしている菖蒲に尋ねた。
「菖蒲さん」
「ん?」
「あの……僕に、仕事をくれませんか? というか……どうして仕事がないのでしょうか?」
菖蒲は大きな瞳で瞬きする。そして、着物の袖口を口元に当てクスクスと笑った。
「え? え??」
真司は何が可笑しいのかわからず、少し混乱する。菖蒲はそんな真司を見て素直に謝った。
「すまんすまん。お前さんが真面目で何だか嬉しくての」
「……はぁ」
曖昧な返事をする真司。そんな真司を見て、菖蒲は顎に手を当て「ふむ……」と、小さく呟いた。
「しかし……そうか。お前さんは、仕事が欲しいか」
何かを考える菖蒲に真司は首を傾げる。
「おぉ、そうじゃそうじゃ!」
どうやら、何か思いついたらしい。真司は菖蒲の思いつきに、どんな仕事をくれるんだろうか?と、内心ワクワクしていた。
「店の掃除を頼んでもええかえ?」
「え? 掃除ですか……?」
まさか掃除だとは思っていなくて虚を衝かれる。真司の想像では、店内のレジ打ちの骨董品の勉強をするのかと思っていたからだ。
しかし、菖蒲はそんな真司とは裏腹に眉を下げ、困ったような顔をしていた。
「ふむ……ここ最近、風が強くてのぉ。物に埃や砂を被っておるかもしらんのじゃ。…………後、ただ単に掃除を忘れていた」
最後は真司に聞こえないようにぼそりと呟く菖蒲。
真司は菖蒲の言うことに納得し立ち上がると、キョロキョロと辺りを見回す(勿論、菖蒲の呟きは聞こえていない)
「どうした? 何か、探し物かえ?」
「はい。えっとぉ……箒かなにを……」
「ふむ」
菖蒲は持っていた湯呑みをテーブルに置き立ち上がると、直ぐ後ろにある襖を開け、なにやら中をガサゴソと漁り始めた。
「うーむ……確か、ここに……。おぉ、あったあった。ほれ、真司。ハタキじゃ。後、簡単な掃除道具じゃ」
そう言って渡された物は、ハタキと水色の小さなバケツ、それに薄汚れた雑巾だった。
真司は、それを受け取ると「ありがとうございます。では、行ってきます!」と言って、はりきって店頭に向かった。
菖蒲は真司の後ろ姿を見て、再びクスクスと笑う。
「嬉しそうな顔をしおってからに。ふふふっ」
そこで菖蒲は、ふと思い出す。
「そう言えば、付喪神の悪戯に気をつけんしゃいと、真司に言うのを忘れておったわ。……まぁ、あ奴なら大丈夫やろ」
ふっと笑うと菖蒲は湯呑みを持ち、温ぬるくなったお茶を飲みながらホッと息を吐いたのだった。
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