第3話
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――商店街通り
「らっしゃい! らっしゃい!」
「そこのお嬢ちゃん、これどうや!? うまいで〜」
「おーい! そこのやつも、是非買っておくれ〜!」
「まいどおおきに」
店の前を歩く度に、色んな妖怪が客引きをしているので、商店街は相変わらず賑わっている。
お雪と星手を繋ぎ「あれ、美味しそうだね!」「……うん」と、兄妹若しくは姉弟みたいに楽しそうに話をしていた。
そして、お雪の案内で、無事、目的の茶の葉屋さんに辿り着いた。
「……ここが、お茶屋なんだぁ」
店は、菖蒲の骨董屋みたいに和風的な店で、看板は木で出来ていて大きく"茶の葉"と書かれている。
そして、入口にある暖簾には咲き誇るしだれ桜が描かれていた。
いかにも、ザ・和風!という感じだった。
真司は恐る恐る暖簾をくぐる。
「す、すみませーん……」
お店に入った瞬間、お茶の葉の匂いが鼻腔を擽る。それも、その筈。
辺りには色んな種類のお茶の葉が、透明なアクリルケースの中に入っていたからだ。
「はいはーい。今、行きますよ」と、言いながら店の奥から年輩のおばぁさんが現れた。
真司はその姿にギョッと驚く。奥から現れたのは、普通のおばぁさんではなく、狸の姿をしたおばぁさんだったからだ。
おばぁさんは、深緑色の着物に背中に大きな茶釜を背負っていた。
「はいはい。お待たせしました」
「こんにちはー!」
「……どうも」
お雪と星が挨拶をすると、おばぁさんは真司に気がつき「おや」と、小さく呟いた。
「菖蒲様のところの坊達じゃないか。名前は……えっと、なんだったかねぇ~」
「あ、宮前真司です。宜しくお願い致します!」
「あぁ、そうだったそうだった」
腰が悪いのか、おばぁさんは腰を少し曲げながらジロジロと真司を見ていた。
そして真司は、あまりにも興味津々といった感じで見られているので一歩身を引いた。
(うっ……な、何だか気まずい!)
しかし、その気まずさもお雪のお陰であっという間に消え去った。
「あのね、あのねぇ~、お茶貰いに来たのぉ~♪」
おばぁさんは真司を見るのを止めると、お雪の小さな頭を撫でる。
「そうかそうか。いつものやつか? 待っとれよ」
「はーい♪」
元気よく手をあげ返事をするお雪。
そして、おばぁさんは茶色の紙袋を取り出すと、小さなスコップで紙袋の中に茶の葉を入れ始めた。
おばぁさんが茶の葉を入れている間、真司は周りにあるお茶を見て回る。
「へぇ~、色々なお茶があるんですねぇ。すごいなぁ」
「ふぉふぉふぉっ。東洋から西洋まで、幅広い茶を揃えておるからの~。ブレンドも可能じゃぞ」
「あのね、あのね! 私は、このお茶が好きー♪」
そう言って、お雪が指したアクリルケースには"きゃらめる"と書かれた和紙のシールが貼られていた。
「きゃらめる? あ、キャラメルか。え? これ、本物のキャラメルが入ってる?」
「面白いじゃろ?」
「牛乳を入れるとねー、もっと美味しいんだよ♪」
「僕は……これ」
星が指した物には"みんとてぃー"と書かれていた。
「みんとてぃーって、ミントティーだよね? キャラメルもそうだけど、これも飲んだことがないなぁ~」
「それなら、今度でも飲んでみれ。どれも美味しぞ。ほい、お待たせ。お題は五百円だよ」
「え、安くないですか!?」
袋は中ぐらいのサイズで中身も袋いっぱいに入っているので、その値段の安さに真司は思わず驚いた。
これぐらいの量が入っていれば、人間の世界では1500円ぐらいはしそうだと思ったからだ。
「わしら妖怪は、これといって金を求めて働いているわけではないからのぉ。勿論、金に煩い者もいるがな。ほとんどの妖怪は、皆、笑顔を求めて店を開いとるんだよ。後は、趣味じゃな」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」と、また笑う狸のおばぁさん。
「じゃ、じゃぁ……」
真司は、事前に菖蒲から千円を貰っていたので、それをおばぁさんに手渡した。
(どおりで、貰ったお金が少ないはずだよ)
「ん。確かに受け取った。ほれ、お釣りとおまけじゃ」
真司の手に、お釣りと桜の形をしたクッキーを乗せるおばぁさん。星とお雪の手にもクッキーを乗せると、真司は首を傾げた。
「これは?」
「ブレンドの茶の葉を混ぜた、わし特製クッキーじゃ」
「わーい♪」
「……ありがとう」
お雪と星は嬉しそうな顔をして、おばぁさんにお礼を言うと、真司もハニカミながらもお礼を言った。
「その、ありがとうございます」
「うむうむ。また、きんしゃい」
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