第4話

 茶の葉屋を出た真司達は、貰ったクッキーとお遣いの茶の葉を手に持って骨董屋へと向かっていた。

 しかし、その途中で真司の前に見知らぬ男の子が立ちはだかった。


「おいっ!!」

「え、え??」


 最初はポカンとしたが、お雪は顔見知りなのか「あー! まめくんだー!」と言いながら少年を指さしていた。


「まめくん?」

「ま、まめ言うなっ! まるで、俺の背がちいせぇみてーじゃねーか!!って、そうじゃなくて! おい、お前!!」

「は、はいっ!」

「お前、もう小豆に関わるなっ! お前なんかに小豆は似合わないからなっ!!」


 そう言い残し少年は脱兎の如く走り去って行った。


(い、一体なんなのだろう?)


 突然のことでその場で立ちつくしている真司の服の裾を、星がクイッと引っ張る。


「……行こう」

「あ……う、うん」

「まめくん、相変わらずだね~」

「……うん。小豆と雪芽と一緒で……騒々しい……」


 星がポツリと呟いた。


「その"まめくん"って誰?」

「……豆腐小僧」

「まめくんコト豆麻くんだよ~♪ って、星ちゃん、今、失礼なこと言ったー! ぶーぶー!!」


 星とお雪の言葉に真司は「あぁ」と、納得し頷く。


(彼が、豆腐小僧だったんだ)


「そう言えば、確かに腰に巻かれているエプロンの端に"豆腐"って書いてあったような……?」

「まめくんのお店はね~、お菓子も売っているけど豆腐も売っているんだよ~。それがまたまた美味しいんだよ~♪」

「……湯豆腐……好き」

「へぇ~。あれ?でも、どうして小豆ちゃんと関わるなって言うだろう? そもそも、小豆ちゃんとは、今日会ったばかりなのに……」


 出会い頭にそう言われ真司は少しションボリとしながらお雪達と一緒に菖蒲の店へと向かったのだった。

 そして骨董屋に戻って来た真司達は、出迎えてくれた白雪に茶の葉を渡し、煎れてくれるお茶を待ちつつ炬燵に入っていた。

 菖蒲は栗羊羹を食べながら、のんびりと寛いでいる。


「あれ? その栗羊羹どうしたんですか?」

「うむ。先程、再び小豆が来ての。騒がせた礼として持ってきてくれたのじゃ」


 真司は興味深そうに菖蒲が食べている栗羊羹を見る。よく見ると羊羹の栗が紅葉の形をしていた。


「へぇ~。紅葉の形をした栗かぁ。美味しそうだし、見た目も綺麗ですね」

「あ奴は器用やからのぉ」

「あ、そう言えば――」

「あのね〜、さっきね、まめくんに会ったの~……じゅるり」


 真司が言う前に、菖蒲の栗羊羹を物欲しそうに見ているお雪。

 菖蒲は、お雪の口に羊羹を入れ、お雪は「あーん」と、口を開け美味しそうにモグモグ食べていた。


「もう小豆ちゃんに関わるな、って言われたんです。初対面だったのに……」


 溜め息を吐き落ち込む真司の頭を菖蒲はポンポンと軽く叩いた。


「そう、落ち込む事はあらへんよ。嫉妬しとるだけじゃ」

「嫉妬?」

「豆麻……小豆……好き」


 お雪の隣で洋書を読んでいる星がぼそりと呟いた。

 星の言葉に真司はハッとなる。


「え、それって……」

「そのまさか、じゃよ。豆麻は、小豆のことを好いておる」

「ええええっ!?」

「お茶が入りましたよ~、って、あらあら? 真司さん、何をそんなに驚いているのですか??」


 タイミング良く現れた白雪は、真司の驚いた声にキョトンとした表情をすると瞬きをし首を傾げる。


「あのね~、まめくんが小豆ちゃんの事が好きなのにビックリしたの♪」

「あぁ、そのことね」


 驚いた理由に納得すると、白雪は湯気がたっている湯呑みをそれぞれ目の前に置いていく。


「おおきに」

「あ、ありがとうございます」

「……ん……ありがとう」

「お茶~♪」


 真司たちが白雪にお礼を言うと、白雪も自分の前に湯呑みを置き、いそいそと炬燵に入った。


「彼は、素直ではありませんからね」

「うむ。その通りじゃ」

「でも、好きなら勝負する事ないんじゃ」


 真司がそう言うと、菖蒲がは少し呆れたような表情をした。


「言ったじゃろ? 素直ではないと。あぁもせんと、話しかけられんのじゃよ。勇といい豆麻といい、妖怪のくせに初心な奴らばかりじゃ」


 苦笑いをする菖蒲に真司は「確かに、そうかも……」と、思い自分も苦笑した。

 そして、その頃の勇が、酒蔵で盛大にクシャミをしていた事には誰も知るよしもなかった。


「ぶにゃっくしょーいっ!!」


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