第8話
公園の外に出ると真司達は、美希の家に向かった。
住宅街の中でも高級そうな白い建物――それが、美希の家だった。
真司が上を見上げると、今日もまた、窓辺には例の黒猫が丸まって寝ている。美希は白い門扉を開け玄関の鍵穴に猫のキーホールダーが付いた鍵を差し込む。
「どうぞ!」
美希は玄関の扉を開けると、菖蒲達を中に招き入れた。フローリングの板に、玄関には客人用のスリッパが置いてあり、靴箱の上には小さなピンク色の植木鉢が置いてあった。
美希が「ただいま」と、言っても返事が返ってくることはない。家には誰もおらず、シン……と静かだったのだ。
真司はピンク色の靴を脱ぐ美希を見る。
「ご家族の方は居ないの?」
真司の質問に美希は「うん」と、答えた。
「皆、お仕事」
「そう、なんだ……」
真司は、こんな小さな女の子が誰もいない家の中で一人で過ごしていると思うと、少しだけ心が痛くなった。
しかし、美希はそんなことは気にしてないという感じで、ニコリと真司に笑いかけた。
「あんな、うち、寂しくないよ? だって、うちにはボルサノがおるんやもん♪」
菖蒲と真司、そして、勇は目をキョトンさせ数回瞬きをする。
「「「ぼるさの?」」」
二人と一匹は、声を揃えて言った。
その途端、美希は首を傾げた。
「あれ? 今、お姉ちゃん達の他にも声がしたような……?」
キョロキョロと辺りを見て首を傾げる美希に、勇はハッと我に返ると慌てて口元を押え、何もないかのように「に、にゃー?」と、鳴いた。
「あはは……き、気のせいじゃないかなぁ~」
「やれやれ……」
菖蒲は呆れたように小さく呟く。美希は周囲を見回し「んー……おかしいなぁ~」と、言いながら首を傾げていた。
「まぁ、ええかっ♪ お姉ちゃんたち中に入って! あ、ウチ、お茶いれてくる!」
「それじゃぁ、私もお手伝いでもしようかのぉ」
そう言うと、菖蒲と美希はリビングに入りキッチンへと向かった。
真司と勇は、リビングにある鼠色のふわふわしてるソファに腰を下ろすとコソコソと会話を始めた。
「なぁなぁ、ぼるさのって何や?」
「え?! 僕も知らないよ。でも、普通に考えたら猫の名前……だと思う」
「あの美猫の名前が、ぼるさのやとっ?!」
「わわっ! しーしー!!」
真司は大きな声を出した勇の口元を慌てて手で押さえる。
「声が大きよっ!」
「おっと、すまんすまん。しかし……あの美猫は外国から来たんかぁ〜」
「……え」
(思うところ、そこなの……?)
真司は、何か嫌な予感がした。
何故そう思ったかは……多分、猫の名前を聞いたからだろう。しかし、その時の真司は、それほど気にしなかった。
「まさか、そんなことはないよね」と、心の中で呟くと銀のトレーにお茶を乗せて持って来た菖蒲と茶菓子の入ったプラスチックのお皿を持っている美希がキッチンから戻ってきた。
「どうぞ!」
美希はお茶菓子をテーブルに置き、菖蒲は慣れた仕草で真司の前に紅茶の入った白いカップを置いた。
「有難う、美希ちゃん。菖蒲さん」
「うん♪」
「どういたしまして、ふふっ」
菖蒲も自分のお茶を手に取ると、スズーと音を立て飲む。何故だか菖蒲だけは湯呑みで日本茶だった。
美希は真司の隣に座っていた勇を抱き上げ、向かい側にある別のソファーに座ると勇を膝の上に乗せる。菖蒲は勇が座っていた場所に腰を下ろし、美希はキラキラとした眼差しでそんな菖蒲をていた。
「なぁなぁ! 怪我が治ったのって、お姉ちゃんの魔法なん?!」
菖蒲はゆっくりと湯呑みをテーブルに置く。そして、人差し指を口元に当て含みのある笑みを浮かべた。
「秘密じゃぞ?」
その言葉に美希の目がさらに輝く。
「わぁ!! すごーい!! お姉ちゃんは、魔法使いなんやね! なら、お姫様を助けたりもするん?!」
「ふふふ。そうやねぇ。困ってると助けるの」
そう言いながら真司のことをチラリと見る菖蒲に、真司は内心、落ち込みながらも苦笑した。
「あ、あははは……」
(そこで僕を見るってことは、僕、お姫様なんだ……)
「みゃー」
美希の膝の上に乗っている勇が鳴くと、美希は思い出したかのようにハッとする。
「そうやった! ボルサノ!! お姉ちゃん達、ボルサノはこっちやよ」
そう言うと、勇を胸に抱き美希はリビングを出た。
菖蒲と真司はお互い目を合わせるとコクリと頷く。そして、それぞれ飲んでいた物をテーブルき置くと、二人は階段を上り猫のいる部屋へと向かったのだった。
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