第6話

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 鍋を食べ終えた四人は後片付けしたあと、再び炬燵に入り温かいお茶を飲んでいた。


「そういえば、白雪さんはこれからどうするんですか?」


 湯呑みをテーブルに置き、真司は白雪に尋ねる。


「そうですねぇ。当分は、また、ここでお世話になろうと思います」


 ニコリと微笑むと、白雪は菖蒲を見る。お茶を飲んでいた菖蒲は、一瞥するように白雪を見ると「私はかまわんよ。ここは、もう、お前さんの第二の家でもあるんやからの」と、白雪に言った。

 当然という顔で言った菖蒲に白雪は少しだけ驚いたが、やはり、そう言われると嬉しいのだろう。少し驚いたあと、可憐な花のような笑みを浮かべ菖蒲にお礼を言ったのだった。


「菖蒲様、有難うございます」


 白雪と菖蒲を見て真司が微笑んでいると、ふと白雪がいままでどこで何をしていたのかが気になった。


「あの、白雪さんは今までどこにいたんですか?」


 真司の質問に白雪は「ふふっ」と、笑う。


「少し南の方き旅をしていました」

「旅ですか?」

「はい。暖かい地域を転々としていました。人間の世界が昔とどう変化したのか、変わらないものはあるのか気になった……という理由もありますが。本当は早くに戻って来るつもりだったのですが……色々あり、つい、遅くなってしまったんです」


 白雪も長く生きているからこそ、自分の知る人間の世界と今の世界がどう変わったのか知りたくなったのに、真司には少しだけその気持ちがわるような気がした。

 なにがどう変わったのか、変わらないものがあったのかは真司にはわからない。けれど、白雪の微笑む顔を見ると「きっと、それがなんなのか見つかったんだな」と、真司は思った。

 真司は白雪を見て、また、ふとある事が頭に過ぎった。

 それは白雪が来る前に現れた白い蝶のことだった。


「そういえば、今は見えないですけど、あの白い蝶は一体なんですか?」


 白雪に聞くと、代わりに菖蒲がそれを答えてくれた。


「あれは、白雪を守護する精霊じゃ」

「あれも精霊なんですね」


 真司がそう言うと白雪が「はい」と、言った。


「連絡係や人間界で言う保冷剤代わりになります」

「保冷剤? あ……確かに、冷たかったですね」


 真司は、あの白い蝶に触れたことを思い出していた。

 氷や雪の造形物のように美しい蝶――その蝶に触れた瞬間、氷のような冷たさが指先から伝わったのだ。

 真司は、いつの間にかあの蝶が見当たらないことに疑問を持った。

 キョロキョロと居間を見回し蝶を探す真司。


「あれ? そういえば、蝶が見当たらないような……」

「ここにいますよ」


 そう言って白雪が指さした場所は自身の帯だった。


「え……? それって帯ですよね?」

「出ておいで、お前達」


 白雪の呼び声と共に、帯の中からフワリと例の白い蝶が数頭現れた。

 帯から出ると、白い蝶は羽ばたきながら白雪や隣に座っているお雪の肩に止まる。


「あはは! 蝶々、蝶々~♪」


 お雪は白い蝶が肩に止まると、楽しそうにツンツン突つき始めた。

 肩に止まっていた蝶は、まるでお雪と遊んでいるみたいに周りを飛び始める。お雪は蝶を捕まえようとして炬燵から立ち上がり蝶を追いかけ、居間の中をグルグルと走り回った。


「まてまてー! あははっ!」

「あらあら、ふふっ。……この蝶は、雪女が生まれると同時に現れるんですよ。だから、この蝶達は私の家族でもあるんです」


 微笑ましそうに白雪がお雪を見ていると、真司の方を向き直り蝶について真司に説明する。

 真司は、蝶が白雪の家族だということに首を傾げた。


「家族ですか?」

「はい。名前もありますよ」


 白雪は、まずお雪の周りを飛んでいる蝶を指さした。

「あの蝶は、つゆ。私の肩に止まっているのははな。そして、あれがきくむらさきです」

「へぇー。僕には同じ蝶にしか見えないですけど、ちゃんと名前があるんですね」

「普通は付けません。ただ……私は、ずっと一人でしたから」


 苦笑する白雪に露以外の蝶が、まるで白雪を励ますようにひらりと集まり始める。どうやら、白雪を心配しているようだ。


「ふふっ。有り難う、皆」


 白雪は蝶の気持ちがわかるのだろうか? 白い蝶に向かって微笑みかけ撫でるように優しく触れる。


 ――その時だった。


「あー!!」と、お雪の驚く声が耳に入ってきた。

 真司と白雪、話しを聞きながらも、のんびりと茶を飲んでいた菖蒲が一斉にお雪の方を見る。お雪は、いつの間にか庭に出て空を見上げていた。


「雪だー!!」


 手を空に掲げて楽しそうにしてはしゃいでいるお雪。


「あ、ほんとうだ」

「初雪じゃな」

「綺麗ですねぇ」


 居間にいる三人は、ちらちらと降り続ける雪を家の中から見ていた。真司は、炬燵から出ると、スリッパを履き庭に出て空を見上げる。

 ほぅと息を吐くと、息は白くなり上空へ消えていった。


「冬だね♪」


 はしゃいでいたお雪は、庭に出てきた真司の傍に来ると花のような笑みを浮かべた。

 真司もお雪につられて笑みを返す。


「そうだね」


 そしてまた、二人で雪が降る空を見上げた。


(明日からは、一段と賑やかになりそうだな)


 そう思いながらクスリと笑った真司だった。


(終)


 next story→第三幕


【第参幕 あらすじ】

 季節は、まだ冬。しかし、ある妖怪の心だけは既に春が訪れていた。

 そして、真司達はその妖怪の春のお手伝いをすることに?さて、その春は無事に花を咲くことができるのか……それとも、散ってしまうのか?

 個性が強いキャラクターが次回も登場!



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