22

 浮雲ひまわり先生はつかつかと教室の中を歩いてかげろうの机の前までやってきた。(666教室の席順は、横に、ドア側からよぞら、かげろう、ひかり、の順だった)

 ひまわり先生はいつものようにその顔を『薄いシルクのような布』で覆っていた。頭には金色の冠をかぶり、(そこに布が縫い付けてあった)金色に輝く美しい豊かな髪を三つ編みにして、その腰の下あたりにまで下げている。(その先端には白い百合の中をかたどった、あるいは本物かもしれないけど、リボンによって結ばれていた)

 ひまわり先生は顔を隠している薄い布と同じようなシルクのような素材でできた服をきていた。(ギリシャ神話の神様たちが切るような服だった)

 足元は白い真珠のような色をした靴を履いている。

 そんな格好をしている、背の高い(スタイルもいい)浮雲ひまわり先生の姿は、まるで絵画の中から出てきたような神話の女神様のような、本当に美しい姿だった。(手に持っているお仕置き用の電気鞭をのぞいて)……受ける印象はすごく怖かったけど。


「かげろうくん。今の話は本当ですか?」

 ひまわり先生はじっと布の奥から、かげろうの目を見つめた。

「はい。本当です」

 少し恐怖で震えながらかげろうは言った。

 するとひまわり先生は今度はよぞらの前に移動をした。

「……よぞらくん。今のかげろうくんの話は本当ですか?」

「え、えっと……」

 よぞらはもじもじしながら、口ごもった。

 そんなよぞらの様子をじっと観察したあとで、ひまわり先生はつかつかと教室の中を歩いて、教壇の前まで戻ると、「……わかりました。今日のお仕置きはかげろうくんとよぞらくんです。お仕置きの量はかげろうくんを多めに。よぞらくんを少なめにします」と二人に言った。

 かげろうと、よぞらは「はい」「……はい」と答える。

 そして、そのひまわり先生の言葉通り、かげろうはよぞらよりもひどいお仕置きを受けることになったのだった。(お仕置きのあとで、ひまわり先生はその大きな胸の中にぎゅっと、傷だらけのかげろうとよぞらを、抱きしめて離さなかった)


「ありがとう。かげろうくん。……でも、どうしてあんなことをひまわり先生に言ったの?」

「あんなことって?」

 いてて、という顔をしながら、傷のかさぶたをいじりながら、かげろうが言った。

「……もしかして、僕のためにかげろうくんは『嘘をついてくれたの』?」

 よぞらは言う。

「……うん。まあ、そうかな? よぞらくんにはいつも勉強を教えてもらっているし……」

「かげろうくん。僕はそんなつもりで、かげろうくんに朝、テストの点が悪かったことを相談しに行ったわけじゃないよ」

 珍しくまっすぐにかげろうの目を見て、真剣な顔をしてよぞらは言う。

「だから、気持ちはすごく嬉しかったけど、かげろうくん。もう今日みたいなことは、二度としないでね。僕は話を聞いてもらえるだけでいいんだ。それだけで、すごく気持ちが楽になるんだよ。……テストの結果のお仕置きは僕がきちんと自分で受けるから」

 今度はすごく悲しい顔をしてよぞらは言った。

 そのよぞらの顔を見て、かげろうは自分が良い行いだと思ってしたことが、そうではなかったのだということに気がついた。

「……うん。わかった。ごめんね、よぞらくん」

 にっこりと笑ってかげろうは言った。

「ううん。こちらこそ。ごめん。かげろうくんの思いは、本当に嬉しかったんだよ」

 へへ、とにっこりと笑ってよぞらは言った。

 その際、よぞらは少し照れくさかったから、一度、下を向いて、石造りの大通りの道を見て、それからかげろうの顔に目を戻した。

 すると、その一瞬の間に、なぜかそこにさっきまでいたはずの竹田かげろうの姿が消えていた。

「……あれ? かげろうくん?」

 周囲の風景をきょろきょろと見渡しながらよぞらは言う。

 しかし、消えてしまったかげろうから、よぞらに返事はどこからもかえってはこなかった。

 びゅー、という冷たい冬のような幽霊(ホロウ)の街特有の風が、よぞら一人だけしかいない、大通りの上を吹き抜けて行った。

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