6
「さいころ、起きて」
こまは言った。
するとそのこまの声に反応して、タブレットに光がともった。
『……やあ、おはよう、こま』
眠そうな声でタブレットが言った。
「うん。おはよう」
にっこりと笑ってこまが言った。
タブレットの名前はさいころと言った。
さいころは、今のところ、こまの世界でただ一人の友達だった。
『どうかしたのかい?』
さいころは言った。
「散歩に行きたいんだ。一緒に行こう」こまは言った。
『うん。いいよ。わかった』
嬉しそうな声でさいころは言った。
『寝起きでまた少し眠いけど、君がそういうのなら、そうしよう』
「うん」
こまはいつものようにタブレットに青色のゴムの紐を取り付けると、それを自分の首にかけて、胸の前にタブレットをぶら下げるようにして、テントの中を出て行った。
「友達が欲しいだ」
砂漠を『一人』で散歩しながら、こまが言った。
『なら、それを願えばいい』
さいころが言った。
「え?」
こまはちょっとだけ驚いた顔をして言う。
『願い、夢を叶えればいい。それが君にはできる。いいかい、こま。人の見る夢は現実になるんだよ。嘘じゃない。強く願う思いは本当の形になるんだ。君がそうなるように働きかければ、世界は変化する。現実は変えられるのさ。こまの自由自在にね』
さいころは言う。
「……僕の、自由自在に」こまは言う。
『そうさ。その通りだよ』さいころは言う。
「僕の願い……」
こまはなにかを深く考えるようにしてそれからしばらくの間、ずっと黙ってしまう。
その間。
さいころは黙ってしまったこまの代わりに歌を歌った。
それはこんな歌だった。
誰も挨拶をしない街。
君は随分とわがままな人だね。
素直になれない男の子。
幸せとは花が咲くこと。
花は愛。
愛は花。
愛を語ろう。愛を歌おう。
太陽の輝く砂漠の上にさいころの歌が聞こえる。
暑い砂の地面の上には、こまの小さな足跡があり、そして、やがてしばらくして、砂漠の上に世界でもっとも清らかな風が吹き始めた。
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