奇跡_2

「うっ…」


 なんだ?眠ってしまっていたのか?

なら、今のは夢なのか?

しかし、血がついた爆撃機の破片が夢ではなかったことを物語っていた。


「そうだ、サーバルとセーバルのところに行かないと」


 立ち上がり、山頂を目指す。

身体が異様に軽い。ケガは1つ残らず治っている。

それに、よく見える。

ライトはどこかへ落としてしまったようだが、必要ない。

降りしきる虹色の光のせいか…?


 風のように走り、岩を飛び越える。


「いやいやおかしいだろ…」


 3メートル程もある岩だぞ?

ほぼ無意識に動いたが、人間にできることではない。

まあ、後で考えよう。今は山頂に行くのが大事だ。


「—!!」

「セルリアン…マズいな、武器がない」


 ポケットやホルスターを漁るが、弾切れのピストルしかない。ほぼ丸腰だ。


「せめてナイフでもあれば…」


 ナイフを思い浮かべた直後、手元に虹色の光が集まり、ナイフの形になった。


「マジかよ…」


 そのナイフで、突進してくる三日月型セルリアンの石を貫く。

さっきは弾くのが精一杯だったセルリアンの動きが見える。

動体視力が上がったのだろうか?

オレの身体はどうなってるんだ…


 異常な速度で山を登り、先ほどぶん殴られた場所に来た。

ライフルが落ちている。


「弾なんか出せたり…」


 弾をイメージしたが、出てこない。


「まあ無理か。今のオレならナイフでやれるってことか?」


 セルリアンが集まってきていた。

拾ったライフルを背負ってナイフを構え、セルリアンに襲い掛かる。

見える。動ける。

セルリアンの攻撃をいなし、カウンターの要領でナイフを刺し込む。

背後のセルリアンの動きを音で感じとり、身を躱す。

まるでフレンズの動きだ。

最後の1匹にナイフを投げ、仕留める。

すぐに手元に新しいナイフが生成された。


 立ち塞がるセルリアンを蹴散らし、山頂へ近づく。

突如として現れた謎の結晶の塊は、かなりの大きさだ。


―ガキィン!ガキィン!


 硬い物を叩くような音が山頂から響いている。

サーバルだ。山頂でサーバルが結晶を爪で叩き続けていた。


「サーバル!」


 長い時間続けていたのか、手袋の指先は真っ赤に染まり、血が滴っていた。


「キョウ…?キョウなの?」

「ああ、そうだ」

「キョウ、セーバルが。セーバルがこのなかにいるの。たすけなきゃ」

「コヨミ…そういうことかよ……」


 サーバルは虚ろな目でまた結晶を叩こうとする。


「サーバル、もう手が…一旦みんなのところに戻ろう」

「ダメだよ!セーバルをつれてかえらなきゃ!ほらみて、あそこにいるんだよ!?」


 サーバルが指差した方を見ると、結晶の中に人影が見える。セーバルだ。


「まだ一緒に行きたいところも…やりたいことも…食べたいものだって、いっぱい…いっぱいあるんだよ…!こんなの…こんなの…いやだよぉ……」

「サーバル…」


 サーバルはぼろぼろと涙をこぼす。

気持ちは、痛いほどわかる。


「うわああああああん!!あああああああん!!」


 オレの服をギュッと掴んだまま大声で泣くサーバルを、抱きしめてなだめることしかできなかった。

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