第5話

これである意味終わったのだと。



結婚をして一年程がたったある日、私は夢を見ました。


いつもの私なら、たとえ夢を見たとしても何も覚えてないことがほとんどで、もし覚えていたとしても、極断片的なものしか覚えていませんでした。


しかしこの日の夢は違っていました。


私の前に一人の男が立っています。


その男はどう見ても、若い頃の父でした。


その見た目の年齢は、二十歳そこそこくらいでしょうか。


私が生まれる前どころか、母と結婚する前の父に見えました。


それが夢などではなくて、まるで現実のもののようにはっきりと見えるのです。


父は私に向かって怒りを露わにし、何か怒鳴っているようでした。


しかし私には何を言っているのかまるでわかりませんでした。


夢の中なので、なんだかの感触や臭いなどと言ったものは当然ありません。


その上にその夢は、本来ならあるべき声や音と言ったものが、全く聞こえてきませんでした。


映像だけで完全に静寂な世界だったのです。


私はそのまま父を見ていましたが、父は相変わらず何かを怒鳴っていました。


そこで目が覚めました。


――……。


まだ夜中の二時でした。


その朝、体調及び何かの変化を感じ取った私は、病院へ行きました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る