第3話
その痣をその年初めて目にした父は、明らかな恐怖の色を、その顔にうかべるのです。
まだ幼い私が気までが気付くのですから、母も兄も当然のように気付いていました。
そして父に、あの痣がいったいどうかしたのかと、何度も問いただしたそうなのですが、父はやはり何の返答も返さなかったのです。
母も兄も後の弟も、私に気遣って私の目の前で父を問い詰めたりはしませんでしたので、私はある程度大きくなるまで、そのことを知りませんでした。
そのまま月日が経ち、私は大学受験を控える年齢になりました。
私が希望する大学は、幸いなことに家からそう遠くはない場所にありました。
その大学を希望した理由は、それが家から近かったからではありません。
たとえその大学がアメリカにあったとしても、私は迷わずそこを目指したことでしょう。
母は娘の私が遠くに行ってしまうことをひどく心配していたので、もろ手を挙げて賛成してくれました。
兄と弟も同様です。
結果私は自分の望む大学に合格し、家から通うことになりました。
その時になって、それまで口を閉ざしていた父が初めて意見したのです。
「あの大学は通えないことはないが、大学のすぐ近くに下宿したほうがいろいろと便利じゃないのか?」
母は最初呆れていましたが、やがてその感情が怒りへと変化をし、父を攻め立てました。
兄と弟もそれに加勢しました。
三対一では父に勝ち目はありません。
私は晴れて実家から大学に通うこととなりました。
その頃からでしょうか。
父が私のことを目に見えてより恐れるようになったのは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます