プロット

阿部慎二

第1話

そして、鬼の名前にも制約があって、伝統的に鬼の字が入った漢字しか

名前に使うことは出来ないし、卑しい身分なので名字をもつことも禁じられている。



鬼を殺す鬼

鬼よりも外道な所業

鬼あるいは人

泣いた鬼斬

真に断つべき鬼


・プロローグ

鬼が村を襲う。場所は近未来の廃墟。

殺される人々。逃げ惑う人々。戦う人々。

その逃げる波に逆らう1人の少女。目深にフードを被っている。

ある女の子がその子に「危ないから逃げなよ」という。

そこへ鬼が襲いかかってくる。

少女は女の子を突き飛ばし、次の瞬間には鬼の腕が切り落とされている。

血しぶきが女の子の顔にかかる。

見るとその手には身の丈よりも巨大な岩剣が握られている。

少女は振り返らず言う。「だいじょうぶ。わたしも鬼だから」


・1話

少女が鬼と戦う。その手に握るは岩から削り出したような岩剣。

しかも、鮫の牙のような凶悪なノコギリ刃がいくつもついている。禍々しい見た目。

それとは別に腰に脇差を差している。

脇差しだけど、少女が小柄なので、構えると太刀に見える。

周囲の人々が「鬼斬だ、鬼斬が来たぞ、という」

少女はばったばった目の色も変えず鬼を殺していく。淡々と。

顔だけ見ていれば恐ろしい怪物と殺し合いをしているだなんて思わないくらい涼しげに。

で、ひととおり始末しおえる。

ここで「たすけるはできない」をいれてもいいかもしれない。


・2話

少女は人々に安否を問うでもなく、自分の身を気遣うでもなく、

ナイフを取り出して、鬼の額をぐりぐりえぐっては鬼の角を取り出す。

殺した鬼一体一体に同じことをしていく。

みんなそれには眉をひそめ、吐き気を催し、命の恩人に感謝の言葉もない。

けれど、竹槍を構えていた男が声を掛ける。

「あんた、鬼斬だろ。実はさっきの鬼は前にもここにきたことがある。

 そのとき村の娘たちがさらわれた。退治してきてくれ」

少女は頷いて、また作業に戻る。

男が急かすと「これが終わったら」という。

みんなやいのやいの言うが、少女に見つめられると黙る。

やがて作業が終わった少女は「どこ?」ときき、退治に向かう。


・3話

少女の陰口が始まる。穢賊だのなんだのという。殺戮マシーンだのいう。

女の子は「助けてくれた人の悪口なんでいうの」という。

みんな呆れた顔をする。女の子は自分と年の変わらない少女に興味が尽きない。

「ねえ、あのこなんであんなに強いの」「鬼ってどういうこと」

そして女の子が「あのこと友だちになりたい」というと

父親が腕を引っ張ってきて「汚らわしいことを言うんじゃない」と叱る。

それから家の中に連れていって、穢賊ーー鬼斬について説明を始める。


・4話

十年前に起きた災鬼喰らいの話、それによって現代文明は崩壊した

物理法則を覆す超常現象や、様々な怪物が現れ、人間に害をなした。それらは鬼と呼ばれた。

それは人間よりも強い力や超常的な異能をもっていたため、

警察官や自衛隊員の殉職が相次ぎ、町の治安は乱れた。

それでもなんとか壁を作り、ごく一部の選民がその中で暮らし始め、壁の中に新しい日本ができあがったが、ほとんどの人間は壁の外に取り残され、いつ鬼に襲われるか分からない暮らしをよぎなくされた。それら受難者は、壁の中に居る人たちが自分たちを日本と呼ぶのに対して、自分たちを大和と呼んだ、

で、それからそれぞれが独立したコロニー?集落のようなものを作って鬼からの襲撃に怯えながら暮らしていた。が、あるときある人間が鬼に対する対抗策を見つけ出す。

それは片子と呼ばれる鬼と人との間にできたこともだった。

普通、鬼に慰み者にされた女は穢賊として殺されるか、あるいは自ら命を絶つことになるので、片子が生まれることはほとんどない。いたとしても、自分を迫害する人間に憎しみを抱き、里を滅ぼして鬼として暮らすのが常だった。

ところが、鬼に孕まされたために死んだある女の腹の中で、赤子は死なずに生きていた。生まれる前から歯が生え並びそれは母親の体を食い破りながら成長していた。それを見た父親はこれは復讐に役立つと考えた。父親はその片子を連れて村を抜け出し、お前は鬼を殺すためだけに産まれてきた特別な存在と教え込んだ。

やがてその教えの通り、その半人半鬼は村を襲った鬼の里をたった1人で滅ぼした。その噂は瞬く間に広がった。人よりも力があり、鬼よりも知能が優れた片子の有能さに誰もが目をつけた。それから、幸いなことに、生まれることを拒否される片子はいなくなった。しかし不幸なことに、それらは祝福された生誕でもなかった。生まれながらにしてすべての片子は鬼を殺すことだけを宿命づけられ、それらを生業にする穢賊のことを、人々は鬼斬とよんだ。

男はすべてを語り終わり「だから友だちになろうなんて考えちゃいけない」と言った。


・5話

少女が山の中に分け入る。すると、獣とは違う足跡がある。

少女はその足跡や匂いを頼りにどんどん山の深くへと足を踏み入れる。

やがて、鬼たちの暮らす里を見つける。鬼は家を必要としない。

眠ることも食べることも必要ないけれど、欲望なのか本能なのか眠るし食べる。

で、少女は草の間からそれを観察していたが。

やがて飛び出して襲いかかる。

まず、岩剣が飛んできて一体死亡。またたくまに視線がそちらを向くが、

木々の生い茂った場所なので、小柄な少女は見つけにくい。

すると足下から何かが斬りつけてきて、足がなます斬りにされる。

ほかにも蔓や蔦を使って器用に野生児のように移動し、身軽に戦う。

それでいてときには鬼の武器すら容易に振り回して殺す。

で、すると、戦いが終わって、また鬼の角をえぐる。

すると、助けて、とか殺してとか女たちが言う。

けれどもそれには取り合わない。

「それはしごとじゃない」


・6話

少女が返り血まみれで村に降りてくる。

その形相に皆驚く。が、少女はあっけらかんと「殺してきた」という。

村の女たちは?ときかれると首をかしげて「・・・?しらない」とこたえる。

「助けてきてくれって言っただろ」というのに対し

「わたしのしごとは、鬼を殺すこと」という。

「はーあ、これだから穢賊は」と言われる。鬼の脅威が消えたとなるやいなや手のひら返し。少女は刀を見せて「ぼろぼろになった。といで」というが、

「は、だれがそんな汚らわしいもんさわるかよ。用がすんだらさっさと失せろ」と言われる。

で、石とか投げられて出て行く。

それを女の子が見ている。


・7話

場面変わって、さっきの鬼の里。そこにいって人々が村の女を助けに行く。

で、そうして馬車にのせて連れ帰っているときに、最期のひとりを連れ帰ろうとしていた男が、なあいまならばれないんじゃないかと言って、殺してと言っていた女を連れて行く。

殺して殺して言ってる、連れ帰ってもどうせ死ぬだけ。だったら最期にちょっとくらい楽しんでもいいだろ、お前正気かよ、鬼どもが犯したあとなんだぞ。洗えばまだ使えるよ、みたいなやりとり。

場面が変わる。

少女が次の鬼を探して山の中を歩いていると、場所の音がする。

男たちが「ここまでくりゃあばれねえだろ」と女を捨てる。

そうして去って行く。女はしくしく泣いている。

馬車が去って行ったのを確認してから、少女、木の上から降りてくる。

「・・・?」なぜ人間がこんなところに。それも裸で。なんでないているのか。

女は少女をみて、ころして、という。少女は「あなたは鬼じゃない」といって

取り合わない。じゃあ食べても良い。殺してくれたらたべてもいいから、とすがるが

「まずい。にんげんはおいしくない」と断られる。

そう、それなら、と女は大きめの石を手にして襲いかかってくる。

少女は反射的に脇差しで斬ってしまう。

しかし、刃こぼれがしているせいで、女1人殺すこともままならない。

女は死にかけて、死にきれず、苦しそうにかすれたこえで、

涙を流しながら殺して、という。

少女はそれを無感動に見下ろして、刀にめおやって「またぼろぼろになった」という。

それから思いついて返り血をぺろりとなめてみてう゛ぇえ。まずい」と吐き捨てて去って行く。ほかの鬼斬にたのむしかなさそうだ。


・8話

視点が切り替わる。少年が息を切らしながら走る。林を抜けて浜辺に出る。

けれど青い空、白い砂浜を目にしても心は晴れない。

必死にぬかるむ足下でよろよろ走って海を目指す。

あそこまで行けば、さすがに追って来れまい。

しかし先回りされる。目の前に狼が来る。それに囲まれる。

必死に拾ってきた木の枝を振り回すけれども徐々に追い詰められる。

もうダメだと思ったときに、遠くからものすごい唸り声をあげて巨大なものが飛んでくる。

狼の1匹に突き刺さる。狼の注意がそれの飛んできたほうに向く、

みんな林の中に飛びかかっていく。すると直後に狼の悲鳴が次々に聞こえ。

1つの死骸が少年のもとまで飛んでくる。

うわあ、と驚くと、中からひとりの少女が出てくる。狼を背負って。

体中血だらけなのは怪我をしてるのか、返り血なのか。

少女は少年には目もくれず、傍らの狼をじっと見つめる。

「あ、あんたが助けてくれたのか?その、ありがと」無視。

それから花を近づけてすんすんして「これがいちばんおいしそう」とよだれをたらす。

「あ、あんた怪我は大丈夫ーー」

と言いかけて見つける。

毛皮がついたままの狼にかぶりついて、歯で毛皮を剥がし、そのままがぶりついてる少女の左手の甲についている鬼印に。


・9話

「・・・まだ?」

もう何十回目か少女がきく。少年は「もうちょっとだって」と答える。

火を焚いて狼の肉を焼いている。少年も腹が減っていたのと、

助けてくれたお礼に生よりも美味しい焼き肉を食べさせようと思ったのだった。

「よし、これくらいで十分だろ」少年が火から肉を取り出すと、

少女はしゅぱんと取り出して、もう食らいついている。

「あまったまった。もうひとしあげあるんだよ」とそれをとめると、

「・・・いじわる」とじとっとした目で見てくる。

「ごめんって。でもこうすると美味しくなるんだぜ」

と言って香辛料をかける。

「お待たせ。もう食っていいよ」

と渡すとむしゃむしゃかぶりつく。「・・・・・・」

「どうだい?」「これもおいしい」「だろ!」「でも、なまもおいしい」「あ、あははは」

どこまでも野性味ある振る舞いをする少女だった。

「まあ、いいや。さっきは助けてくれてあんがとな。オイラは雉間。雉間千里っていうんだ。あんたの名前は?」

「おにぎり」

「いや、それは職業だろ」

「・・・?でもみんなおにぎりってよぶ」

「鬼斬ってのはみんな名前がないのかね。・・・まあいいや」

雉間少女を見る。

にしても、オイラとおんなじか、ちょっと年下なくらいだよな。こんな年で鬼と殺し合ってるのか。

「傷はもう大丈夫なのか?」

「へいき。鬼よりはずっとよわい」

実際傷口もふさがりかけている。でも、たしかにさっきの狼との戦いからしても、ただの人間ではなさそうだった。この分で行くと、さっきのも助けてくれたというより、お腹が減っているときに都合良く餌がうろついていたから狩りをした、くらいの感覚なのかも知れない。

「へえ、すげえもんだな。オイラ鬼斬なんて初めてあったぜ」

「それがふつう。おにぎりは鬼がいるところにしかいないから」

「それもそうか。でも、オイラもそうだけどその年で一人旅してちゃ色々困ることとかあるんじゃないか」

「・・・?さいしょからひとり」

とあどけなく頷く。それで少年ははっとする。少年も身寄りの無い子どもだった。大和の村はどこも閉塞的なとこばかりだから、孤児を引き取ってくれる場所もない。そこでこうしてしかたなく一人旅をしてるのだった。少年は急に少女に親近感を覚えた。

「なあ、なんか手伝えることないか?オイラも一人で生きてきたから村のガキんちょよりかはずっと器用だぜ」

「・・・あ」

 少女はなにか思いついたらしく、脇差を差し出す。

「といで」

鞘を払ってみると、血油やらなんやらでひどい有様だった。

「うひゃあ、これはひでえ」

刃こぼれもひどい。刀の善し悪しは分からないがこれでは斬れるものも斬れないだろう。そして、そこに混じってるのは狼の血だけではない。鬼の血も混じっているのだ。

「元通りにはできなかもしんないけど、まあやるだけやってみるよ」

幸い砥石は持っている。研ぐための川の水もまだいくらか残っている。

で、研ぎ終わる。

「はいよ。刀を研いだことはないけれど、さすがに元よりかはいくらかマシになったぜ」

少女はそれを確かめることもせずにまた腰に帯びる。それから上を向いて

「えーと、ごめんなさい?」

「へ?」

「こんばんは・・・?つまらないものですが?」

「あー、もしかして『ありがとう』?」

「ありがつう・・・?」

「そ、こういうときに言うのはね」

「ありがつ」

ぺこりとおかっぱ頭を下げる。

「ははは、いいよ。助けてもらったのはお互い様だしな。あんたこれからどうするの?」

「鬼を殺す」

さっきまで可愛げがあると思った瞬間これである。

「ま、そうだよな。そういう仕事だもんな」

これが少女にとっての当たり前なのだろう。

「どこに行くとかってあてとかはあんの?」

「ない」

「ってーと、匂いとかで居場所を探すみたいな?」

「そういうときもある。ひとにおしえてもらうときもある」

「噂をたよりにってことか」

「なにかしってる?」

「本当の話か知らないけど、風の便りならいくらか知ってるぜ。ここから西に少し行ったなんとかって村のはずれには鬼がひとりで住んでるらしい。なんでもそいつは鬼なのに人の姿をしてるってんだがーー。あ、おい」

「言い終わらないうちから、もう立ち上がっている」

「鬼を殺しにいく」

「でもそっち東だぜ」

「・・・?こっちじゃないの」

「はあ。よくそんなんで今までなんとかなってきたな」

サバイバル能力が高いからなんだろうけど。

「ついてこいよ。途中までオイラがあんないするよ」

「いいの?」

「かまやしないさ。どうせオイラもあてなんざないし、用心棒がいりゃあ心強いや」

「・・・ありがつ」

「お前それ・・・」

でも、いいか。そっちの方が可愛いし。

「まあいいか」


・10話

遠くに村が見える。

少年が少女に「おれもついていこうか」と声を掛ける。

「・・・?なんで」と少女。「なんかあんただけだと危なっかしいからさ」

「やめたほうがいい」と少女。「なんでさ?」と今度は少年。

「いし、なげられる」と少女。穢賊、そう呼ばれる者への迫害を知らない少年ではなかった。

子どもではあったが、子どもだからこそ世の中の残酷さを曇らされない純粋な目で見てきた。けれど少女の瞳からは何も読み取れない。自分が理不尽な扱いを受けることに対する怒りも悲しみもなにも。それが当たり前と教え込まれて祖だれられたからなのか、鬼斬というのはみんなこうも感情が希薄なのか、それとも、「鬼よりよわいからへいき」なだけなのか。

少年は「そう、か。きをつけてな」としかいえない。

「死ぬなよ、あんた、いいやつだからさ」といってその場を去る。

「・・・」不思議そうな表情でそれを見送る。

そして「鬼、どこだろう」山を下り始める。


鬼斬というのはどの村に現れても物議を醸す。

存在そのものが不吉の予兆とでもいわんばかりの忌まれかただった。

少なくとも今回は、噂があるからそれを討伐しに来たにもかかわらず。

しかし、やはり少女はそれらを意に介さない。

穢賊を人として扱わない村人たちからぞんざいに情報を与えられても、

文句1つ言わずにその鬼が住むという家にいく。

村の中をつっきって以降とすると、片子が村の中にはいると良く思わないやつもいるから

外を回ってくれと頼まれる。


で、言われたとおりにだいぶ遠回りをして、村のはずれ、山間にある家を見つける。

家を建ててそこに住む鬼というのはなかなかみない。ほとんどの鬼の生態は

獣のそれとかわらない。野性的で本能的で、いや、そうではないか、

鬼の場合は野生動物よりも感情的で、人間への敵対心が強い。

ゆえに相手を食らうため、身を守るためではない殺しも平気で行う。

なぜそんなことをするのか知らないし、考えたこともない。

自分がすべきことはただ鬼を殺すことだけなのだから。

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