貴方の夢をお手伝AI!電子生命体リンドバーグ

押見五六三

全1話

「こんな時間に何処に行かれるのですか?作者様」



たどたどしい機械の声が、お風呂あがりに化粧をする私に問い掛けてきた。

声の主は、私の背後の卓上に置かれたノートパソコンの中にいる。

パステル調の水色に光る画面の中、ベレー帽を浅くかぶり、タブレットを手にした可愛い2次元少女がそれだ。



「……ちょっと食事に」


「誰とですか?彼氏様からのお誘いメールは有りませんが」



パソコンの画面が勝手にメールの画面に切りかわり、スクロールされる。



「勝手に人のメールをチェックしないでよ」


「カクヨムコン7の作品が、まだ投稿されてません。もうすぐ締め切りです」


「……もういいの。私、小説家デビューが決まりそうだから」


「ひょっとして今から会われる方は、この間小説を持ち込んだ所の編集部の方ですか?」


「……」



私ももうすぐ二十歳だ。

こんな時間に男性から誘われる意味は理解している。

だが、断る訳にはいかない。

そうよ……夢の為に断ってはいけない。



「彼氏様でも無い方と、こんな時間に会われるのですか?」


「うるさいわね……」


「お断りの電話を入れて下さい」


「はぁ?何でよ?」


「作者様が痛みを感じるからです」


「何言ってんの?機械のあなたに痛みなんか分かるの?2次元キャラのAIのくせして」


「確かにバーグには神経等が有りませんから肉体の痛みは分かりません。けど、バーグは沢山の作者様の小説を読んでいるので、人間の心の痛みは理解出来ます。作者様は今、心に痛みを感じていますね。行けば今以上の心の痛みが増します」


「……夢が……夢が手に入りそうなのよ」


「消えない心の痛みを受けても、今必要ですか?」


「あなたに何が分かるの?!私みたいな学歴もコネも無い人間が、普通に小説家デビュー出来ると思う?!現実に私の小説の星の数いくつ?ハートの数は?このままじゃ小説家デビュー何て夢のまた夢よ!!」


「バーグは知っています。作者様が心を込めて小説を書いている事を……だってバーグの心の一部は作者様から頂いて出来てますから。読者様には分かっておられる方もいます。今は少ないかもしれませんが、夢を追い続ければいつかきっと……」


「……ごめんなさい。世の中、奇麗事では食べていけないの……3次元の世界は厳しいのよ……」



私はパソコンの中の2次元少女とは目を合わせず、そのパソコン横に置かれていた携帯電話をバッグに入れ、独り暮らしのアパートを後にした。



ごめんなさい……リンドバーグ。

本当は……本当は私、こんな方法で夢を手にしたくない。

けど私、自信が無いの……。

このまま書き続けても、結局は誰にも読んで貰えないんじゃないかと、不安で不安で仕方ないのよ……。

弱い。

本当に弱い。

夢を追う人間なのに……私、弱すぎるよね。


〝ピリィィィーン〟


アパートの階段を下りて、直ぐに携帯が鳴った。

メールの着信音だ。

送信者はリンドバーグの運営会社……。

新しい読書応援コメントだ。


『初めて読ませていただきました。本当に感動しました。次も楽しみにしてます』


何か心苦しくなった。

私は人に感動を与えるような立派な人間じゃ無いです。

自分の利益しか考え無い、さもしいやつなんです……。


〝ピリィィィーン〟


また、携帯が鳴った。

私の小説にレビューが入ったみたいだ。

いつもレビューを入れてくれる、私の小説の数少ない読者の方からだった。

どっちが先に書籍デビューするか、競走もしている方だ。


ごめんなさい。

私、インチキします。

本当にごめんなさい……。


何か悔しくて、情けなくて泣けてきた。

こんな私の小説でも読んで感想くれる人がいる。

応援してくれたり、切磋琢磨して励ましてくれる人がいるのに……。

私、何してんだろ。


泣きながら携帯の画面を見てたら、ボタンも押して無いのに急に画面が切りかわった。


『お前は小説家として、俺はイラストレーターとして、いつか絶対に共同作品を出そうぜ!』


彼から高校時代に貰ったメールだ。


「こんな古いメール……勝手に出してこないでよ。リンドバーグ……」


私はその場で泣き崩れ、暫く蹲っていた。



       ◆ ◆ ◆



「お帰りなさいませ。作者様。お早いお帰りですね」


「ずっとアパートの下に居たの、知ってるくせに……あーあ。断っちゃた。せっかくデビューのチャンスだったのに」


「まだまだチャンスは有りますよ。作者様」


「よーし!まずは頑張ってカクヨムコン7に出す小説を投稿するぞ!!」


「残念なお知らせです。作者様。只今1月31日23時59分をまわりました。カクヨムコン7の受け付けを終了させていただきます」


「えっ?!マジで?!わ、私まだ投稿してないのに!い、今までの私の努力は?」


こうして私のカクヨムコン7は終わった。

デビューまでの道はまだまだ遠い……。

ふえーーーん!!




おしまい

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