33話
「いててて。どこだここは……さむっ」
交換魔法は、時間感覚もおかしくする。一瞬だったような気もしたが、長い時間かかったようにも感じる。
見回すと、だだっ広い部屋に思えた。だが、不思議と開放感はない。壁際に、でかい石の棺のようなものが並んでいるのだ。俺の身長をはるかに越える高さだ。
「ゾンビの墓……ではなさそうだ。おーい、ステノ、コキノレミス、いるか」
返事がない。みな、ばらばらのところに飛ばされてしまったのだろうか。
「しかし扉も見えんぞ、この部屋。いったいなんなんだ」
変な部屋があれば、噂ぐらいにはなりそうなものである。ということは、誰もたどり着いたことのないところに来てしまったのだろうか。
ザッザッ
何かの足音のようなものが聞こえた。床に砂袋を叩きつけたような音だ。背筋に悪寒が走る。寒さだけのせいではない。
振り向くとそこには、トカゲの頭を持った人間がいた。リザードマン、という奴か。ただ、知っているリザードマンとは少し違う。全身が青かった。そして、近付くほどに寒さが増してくる。少なくとも火を吐く雰囲気ではない。
「熱源発見」
平坦な声だった。明らかに俺のことを見ている。剣を抜いたときには、すでに攻撃は目の前に迫っていた。白くキラキラした息が、吹き付けられてくる。剣を振り下ろしながらも、本能的に体が後ずさる。
「え」
剣は、リザードマン(仮)の顎を砕いた。
敵は、走り去った。とどめを刺さなければと思ったが、体が動かない。腕は動く。首も回る。ただ、下半身が凍り付いたかのように動かなかった。
冷たくはない。ただ、全く動かない。
「どうするよ、これ……」
何らかの魔法だろう。部屋全体が寒いのと関連していると考えられる。ここは、温まってはいけない場所なのだ。
この手の魔法は、術者を倒さなければ解けない場合が多い。でも、俺は動けない。詰んでるんじゃ……
「誰かいないかー!」
静かだった。やばい。これは、立ったまま餓死するパターンだ。
嫌だ。かなり嫌だ。
頭を働かせる。幸いにも頭は冷やされて、すっきりしている。
腰に手を伸ばす。体以外は固まっていないようだった。駒もある。
「召喚、角兵!」
召喚兵も、ちゃんと現れた。そして、角兵をとにかく動かす。本来なら見えない位置まで動かすと意味がないのだが、今は違う。遠くにいるかもしれない誰かに、俺の生存を知らせないと。
とはいえ、召喚兵を使うのにも体力がいる。水筒は持っているが、食べ物はなかった。水もいつか尽きる。
孤独もつらい。最近はずっと、誰かと一緒にいた。それに慣れてしまっていたようだ。
「詰将棋でもするか」
冒険者カードも無事だった。アプリを起動して、詰将棋を解く。暇な時間の過ごし方はこれに限る。
「……ん?」
目が覚めたら、立っていた。しばらく意味が分からなかったが、そうだ、足が動かないんだった。
どうやら、問題を解きながら眠ってしまったらしい。空腹を実感する。餓死をするときは眠るように死んでいくと聞いたことがあるけれど、そこに至るまではどのぐらい苦しいのだろうか。
タタタタタタッ
軽快な足音が聞こえてきた。これは。
「おいっ、コキノレミスか!」
「ふりそすっ、ふりそすいるのっ」
「こっちだ!」
足音が急速に近づいてくる。そして、コキノレミスは俺にぶつかり、両足にしがみついた。
「ふりそすっ、よかったっ」
「お前もな。他のみんなは?」
「あのねっ、すてのとね、まほうつかいのおじいさんと、やまごやのおじさんがいるっ」
「そうか。一緒だったのか」
「でも、やまごやのおじさんいがいうごけないの」
「え」
「とかげのひとがきて、いきをはいて」
「そうか……」
ほかのメンバーがいたことは幸いだったが、いい情報ばかりではなかった。
「見ての通り、俺も足をやられて動けない。床に張り付いているみたいだ。トカゲ男を倒さないと、どうにもならない」
「でも、どこにもいなかったよ」
「この部屋にはいない可能性がある。扉はあったか?」
「あったけど、すごくむずかしかった」
八方ふさがりだ。せめてキクノスが動ければなんとかなっただろうが。
「ステノとキクノスは、どんな状況なんだ」
「すてのはね、ゆかにすわってうごけないの。おじいさんは、くびからしたがまったくうごかないの」
「あー……」
それでは、魔法も使えないではないか。いや、詠唱だけで何かできるか? そのあたりはよくわからないが、あまり期待はできなさそうだ。
「とりあえず、策を練ろう。もう少し、お使い頼んでもいいか」
「うんっ」
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