召喚兵術

7話

「あー、まいったね」

 扉をあけたら、中が崩れていた。これでは次の部屋に行けない。

「どうするの?」

「まあ、本来はお前が決めることなんだけど。特別に教えてしんぜよう」

「ありがとうっ」

 もはや、将棋だけでなくあらゆる指導をしている気がする。しかしそれでもお釣りがくるほどの対価はすでに貰ってしまっている。

「ダンジョンにはいくつものルートがある。もしここで行き止まりだったら、冒険者が立ち往生するかみんな帰ってくるだろう。でもそうじゃないということは、別の道を使っている」

「なるほど」

「ただ……」

 カバンからタブレットを取り出す。ダンジョン内には無料Wi-Fiが張り巡らされており、結構な階層まではダンジョンネットを使用することができる。

「ここから先に進む道は、一回地下層に入らないといけない」

「えっえっ」

「敵も強くなる。準備が必要だ」

「そっか」

「というわけで、まずはショップに寄ろう」

 浅い階層には、いろいろなものを売っている常駐のショップがある。深くなるにつれて、行商の割合が高くなり、いざというときに巡り会えないと大変苦戦することになる。

 ショップのある部屋に向けて、しばらく進む。このあたりは人通りも多いため、モンスターもあらかた狩られており姿を見ない。

「おっ、フリトスさん久しぶり」

「名前覚えてたのかよ」

「もちろん、悔しかったからねえ」

 ショップに着くと、店員の陽気なおじさんに絡まれ始めた。以前訪れた時は、俺が将棋が強いと知り、無謀にも挑んできたのだ。たまに「村では一番強かった」たぐいの力自慢に挑まれることがあるが、まあ負けるわけがない。

「薬草と、この子の装備があれば何か見繕ってくれ」

「なに、お子さん?」

「いやいや。お客さんだよ。今指導中」

「へー、そんなに小さな子に。うーん、サイズがねえ、なかなか難しいね」

「ちっちゃい盾ぐらいないの」

「それならあるかも」

 そんなわけで、コキノレミスの装備が普通のナイフと皮の盾になった。船囲い……にもまだ遠い。ただ、本人はやる気のある顔をしている。

「つよそうっ?」

「ああ、強そうだ。ただ、今のところモンスターからは逃げた方がいいと思うぞ」

 いまだにコキノレミスの討伐ポイントは0だ。将棋がどこまで強くなるかはわからないけれど、この先生き残るのにはモンスターに勝てるようにならなくてはならない。そちらの指導役も、どこかで見つける必要があるだろう。

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