第19話 幻獣の世界
「で、レイさん。私達は結局何をしにここへ?」
「ちょっとペガサスの羽を貰いに行こうと思って」
「ペガサスって……あの馬に羽が生えたやつですよね。私、一回しか会ったことないのですが……。そう二日三日で会えるんですか?」
双樹の間を抜け、天国側を歩いていると、先程までレナさんと会議をしていたニムが聞いてくる。
「ニムでも一回しか会った事ないのか? もっと仲良くやってると思ってたんだけど」
「あいつ結構臆病じゃないですか。だからすぐ逃げて行くんですよ。レイさんは何回も会ってるんですか?」
「うん。だって友達だもん」
ドラゴンであるニムですら、まだ一回しか会えていないのか。もっと幻獣通し仲良くやっていると思っていた。
「やっぱりレイさんって変わってるんですね……」
「ペガサスを友人なんて言う人。レイ様ぐらいですよ……」
また二人から変人を見る目を向けられる。
レナさんと会ってから、ニムの感情が豊かになっているのは気の所為だろうか。以前ならずっとキラキラした目で俺を見ていたのだが……。
ニムがレナさんを通して新しい感情や価値観を学んでいるのは嬉しいが、それはそれとして中々複雑なものがある。
俺はそんな事を考えながら、道行くモンスターにペガサスの居場所を聞いていた。
そんな事を繰り返していると、
「あ、セイレーンだ」
ちょうど良い所に腕から翼の生えた少女の様なモンスター──セイレーンを見つけた。
いつも空を飛んでるセイレーンなら、もしかしたら居場所を知っているかもしれないと思い近付く──
「レイさんッ!」
と、いきなりニムが俺を心配する声をあげながら、セイレーンの前に立ちふさがる。
レナさんも俺を守るように前に立ち、弓を構えていた。
「ふ、二人共? 何してるの?」
「それはこっちのですレイ様! セイレーンに近付くなんて何を考えてるんですか!」
「そうですよレイさん! こいつの声を気にいたら問答無用で死ぬってお父様が言ってました!」
興奮気味に言う二人。
確かに世間一般では、セイレーンの声を聞くと死ぬと言われているが、それはセイレーン側が相手に殺すと言う意識を持った時だけである。
「二人とも心配し過ぎだよ。ここのセイレーンは大人しいから」
元々、セイレーンは温厚で優しい種族なのだ。
しかし、人の間でもモンスターの間でも、何故かセイレーンは出会った人を必ず殺すと伝えられてしまっている。
噂が曲解に曲解を重ねて言った、七十五日を越えて何千年も誤解が広まってしまった悲しい種族である。
俺はニムとレナさんの前に立ち、そっとセイレーンに手を伸ばした。
「少し聞きたいんだけど、ペガサス見なかった?」
そう聞くと、セイレーンが地獄側の山を指さした。
「あっちに言ってるのか……」
ペガサスは天国側を住処にしている筈だったのだが、どうやら移動しているらしい。
「ありがと。散歩してるところごめんね」
最後にお礼と謝罪をして、セイレーンと別れた。
早速地獄側を目指して歩きだそうと俺が振り向くと、唖然としたよ様子のレナさんとニムがおり……
「どうしたの?」
「いえ……なんでもないです」
「レイ様って、不思議な方ですね……」
「うーん……そうでもないと思うけど……」
歩きながらそう悩むが、別段不思議という程でもないのではと思ってしまう。
「俺、昔ドラゴンに乗った人を見た事があるぞ?」
「レイ様の見間違いでは?」
「そうなのかなぁ……」
と、俺は俺自身と他の二人の、モンスターへの見識の違いを考えていた。
地獄側に歩きながらしばらくその話題を続けつつ、奥へ奥へと歩いて行く。
カサカサと少し触れただけで折れてしまう木をかき分けてくと、少し広い場所に出た。
蔦や枝を加工して出来た、巨大な鳥の巣なモノが一つ。それ以外にはモンスターの気配を感じない安全地帯の様な所だった。
「ちょっとここで休もうか」
と、言いながら、俺は身体の中からバーベキューセットを出す。
それを見て、レナさんはまた訝しげに、ニムは興味深いと言った視線を送って来た。
「レイさん、これは?」
「これはバーベキューセットって、外で料理が出来る物だ。そろそろお昼にしようと思って」
「料理……でも材料が無いですよ? レイさん」
「そこら辺もメーさんの中にしまってある」
非常食か何かなのかはわからないが、何故かメーさんの中には生肉と生野菜が貯蔵してあるのだ。
おそらく、メーさんの貯蔵分だけで三人家族が一年は生きていける。
それだけメーさんの中には食料が溜まっている。一体何処でこんな量を集めて来たのだろうか。
「まあ、気にせずどんどん食べて」
メーさんから出した肉を焼いて、ニムとレナさんに配る。そしたらまた焼いて……と、同じ作業を繰り返していた。
天国側から地獄側まで、かなりの距離を歩いたので皆お腹が空いているようだ。よく食べてくれる。
そんな中、レナさんがふと気になったとでも言う様に、
「レイ様、これって何のお肉なんですか?」
と、硬い肉を噛みちぎりながら聞いてきた。
「うーん……何の肉なんだろ、俺も知らない。でも、毒とかは入ってないから安心して」
「そうですか……」
レナさんは俺の答えを聞くと、気にしても仕方がないかと言った様子で肉を食べていた。
それからしばらくの間料理係を担当していると、二人とも腹が満たされ始めたのか、段々食べるペースが落ちていく。そんな中で、ニムがちょいちょいと俺の服を引っ張って来た。
「レイさん、良かったらどうぞ」
腹が満たされたであろうニムが、野菜を渡してくる。
「……野菜もしっかり食べなきゃダメだぞ?」
「私、野菜より肉の方が好きです。今はお腹いっぱいで食べられないので、レイさんに差し上げます」
「……今回だけだぞ」
そう言って俺は、ニムからの野菜を受け取った。
ニムのフォークだから関節キスになってしまうと思ったが、そう言うのをニムはまだ気にしないので、俺も気にしない事にした。
「大胆ですねぇ……」
そんな声が聞こえた方に振り向くと、レナさんが半眼を作ってこちらを見ていた。
「レナさんもやる?」
「……結構です。恥ずかしいので」
目を逸らして答えたレナさんの顔は、ほん少し赤かった。
異性とのそう言う経験がないのだろう。俺も無いけど。
そんなやり取りをしていると、不意にニム「う〜……」と呻き声をあげた。
「浮気発見機能が反応してます……」
「浮気探知機能って何?」
俺は聞くが、ニムはぷいっとそっぽを向いてしまった。
後ろからはレナさんのクスクスと言った笑い声が聞こえる。
「仲が良いんですね。羨ましいです」
「……レイさんは渡しませんからね」
「はい。分かってますよ」
ニムは少し警戒の色を示し、俺の腕に抱きつきながらレナさんを見る。
レナさんはやはりクスクスと笑っていた。
「レイさんも……浮気はダメですからね?」
「わかってるよ。てか、そんな度胸俺にないから……」
竜嫁の前で浮気なんてしたら、消し炭の刑に直行である。
俺は、もしもの自分の姿を想像しながら、そっとニムの頭を撫でた。
「SSS級モンスターがいるって聞いてましたけど、意外と平和ですねぇ……」
そう、レナさんが呟いた時だった。
突然、レナさんの背後の茂みがガサガサッと音を立てる。
そして──
『キシャァッ!!!』
人間三人分程はあるであろう大蛇が現れた。
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