第26話 浮雲

 面接先の企業がある最寄り駅を九駅ほど乗り過ごし、私は人気のない駅へ降り立った。完全に私の眠りが深かったのが原因の乗り過ごしなのだが、人間は明らかな失敗を予見すると、心持ちが軽くなるものである。

 とりあえず降りた駅の周辺を散歩してみる。駅のロータリーの大きさからみて、それほど大都市というわけではないらしい。近くのコンビニエンスストアで昼食を買って街中を見物してみることにする。

 目ぼしい建造物などはなく、数分も歩けば民家の林立する住宅街に入り込む。白昼の住宅地を歩くスーツ姿の男を見たら、セールスか何かかと誤解を生みそうだと、一人でにやけてしまう。誰も自分が就職浪人だということは知らない。

 私は視線を上げる。青空を自由に揺蕩う雲が、やけに羨ましく見えた。

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