第12話 入道雲

 入道雲を最後に見たのは、熱気の盛る冬だった。

 「季節」という言葉が古語として扱われるようになったのは、今から約百二十年前だという。私たちからすれば途方もない数だと思う。

「皆さん、今秋の火曜日は季節の日です。私たちが産まれるはるか前、この国には春、夏、秋、冬という四つの世界に分かれていたらしいです。中でも秋と冬は現代でいうところのレーカーに入ったときのように、外の気温が一日中涼しかったようですね」

 先生は古典専門らしく、相変わらず楽しそうに昔の知識を話すけれど、正直興味がない。頬杖をついて外に目を映す。青空を埋め尽くすほどの入道雲。

 あれが最後に見た入道雲。あの日以来この世界から、雲は消えたから。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る