第9話 戻る

 「あっつ……」

 正午。男は三十六度の猛暑日にも関わらず、エアコンや扇風機を稼働させていなかった。何故ならそうしたかった訳ではなく、である。

 昨晩、都心を大型の台風が襲った。翌朝、台風の影響により一時的に電気が通らなくなると、男を含む都心の現代人は猛暑の中電力の復旧を待つしかなくなった。

「これじゃあ二十世紀に逆戻りだ……」

 ボタンが押されたまま停止する扇風機を見つつ男が呟く。充電されないスマホに目もくれず、男は本を読んでいた。桶に氷水を張り、両足を入れて涼を得ている。

 午後二時、団扇より強い風が男に吹く。見ると扇風機の羽が高速で回っていた。

「よかった……今日中に電気が戻ってきて」

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