第5話 ゲル

 かつて踏破不可能とされた南極の氷山「シト」。その標高、9500m。何人もの登山家が挑み、行方を眩ませたこの氷山が今日、ある男によって踏破される。

 雲海が遥か下方に広がるのも見ず、男は冷え切った体で遂に、シトの頂上へとその足を踏みしめた。人類初の快挙。しかし男の胸中に、感動は無くなった。何故か。

 目の前の光景が異様だったのだ。氷山の頂上に、水色の“ゲル”が張っていた……。

 しかもそのゲルが包んでいたのは、この山で消息不明になっていた先人たちであった。男は彼らに近づく。彼らは呼吸こそしていないが、肉体は時が停止したかのように若々しかった。中には、約百年前にここへ挑んだ調査隊の姿もあった。

 男はゲルの一部を悴んだ手で採取し、下山した後、研究チームへゲルを渡した。

チームの分析によるとこのゲルには、麻薬以上の中毒性が含まれている、らしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る