第21話 蝉

 目覚めるとそこは病院の一室。窓越しに朝日が差し込んでいた。

 痛む上体を起こして、窓の外の景色を見る。葉桜だけが植えられた庭。独りぼっちの室内はあまりにも静かだ。都会とは程遠いこの病院では、朝方に車の走行音などもしない。ただ院内の生活音と、まだ動く私の鼓動がよく聞こえてくる。

西村にしむらさんおはよう。調子はどう?」

 私の担当医が朝食を持って訪れる。問題ないです、とだけ返事をした。

 朝食を食していた時、こえが聞こえてきた。窓越しからミンミンと騒ぐその鳴き声は徐々に音の厚さを増してゆく。残り少ない命、生きるために鳴り響く蝉の音。

「先生。私、生きますから」

 先生は柔らかく肯いてくれる。もし回復したら、今年の夏は何をしようか。

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