第10話 太陽は近く、夏空は遠く

 今だからこそ思い出す。

――突き抜けるような青空と勇壮な入道雲が、絵画のような美しさだった。

 まだ若かったあの頃の自分は、夏を感じさせる暑さに嫌気が差していた。世間は丈の短い服装に衣替えをし、店店ではアイスキャンディーを催促していた。

 太陽はあんなにも距離があるのに、どうして世界はこんなにも暑いのか。日差しを嫌がり、窓を開け広げ、汗ばんだシャツを着ながら涼風を乞うていた。当時を。

 あの時、私たちの世界には「夏」が存在していた――。

   ―   ―   ―   ―   ―   ―   ―   ― 

 今年の七月は、予想最高気温が八十度らしい。例年通りだ。

 夏空を埋め尽くしている太陽の光線が、老いさらばえた身には苦痛である。

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