第8話 ジェレヌク

   『~私の心に棲むジェレヌクが、すくっと立ち上がった。~』

 「……一ついいかな? ここ、『ジェレヌク』である必要はあるかな?」

 「絶対必要ですよ! こういう心境のとき、ジェレヌクが立つんですって」

 彼女は、今度うちの出版社が売り出す新人作家だ。現在、私は苦労している。というのも、彼女の比喩表現は特殊すぎる。「ジェレヌク」も、その一つだ。

 「立って餌食べるんですよ。ほら、こんな感じの動物です。可愛いですよ?」

 彼女がスマホの画面を向ける。画面には、やけに首の長い、ガゼルのような生物が映っていた。可愛げはあるが、読み手に伝わるか否か。どうしたものか……。

 悩んでいると――私の心に棲むジェレヌクが、すくっと立ち上がった――。

 「分かった。けど、この表現の前にジェレヌクについての説明を入れるべきだ」

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