第5話:武人:マッゲ=サーン
「いやしかし、司令官殿。ここまで上手いこと、敵さんに追いつかれずに済んで良かったんですぜ。もし、渡河中に敵に襲われていたら、全滅しててもおかしくなかったんですからなあ?」
ニコラス=ゲージがアキヅキ=シュレインに肩を貸しながら、彼女の身を起こす。彼女は何ゆえか、彼女が騎士たる象徴とも言える羽ばたく白鳥の装飾が施された
(アキヅキ司令官殿は何も言わないが、もし、この隊が襲われた時には、目立つ格好の司令官殿に敵が集まるって考えていたんでしょうな……。しかし、そうならなくて本当に良かったんだぜ……)
ニコラスだけでなく、隊の誰もがアキヅキが
「さあ、先を急ぐのですわっ! サノー砦までは気を抜いてはいけないのですわっ!」
サクヤ=ニィキューが皆を鼓舞し、最後の力を使えと命じるのであった。兵士たちは、うおおお! と一度、雄叫びを上げた後、後退を再開するのであった。
しかし、アキヅキ=シュレインだけはサノー砦とは逆方向に走り出したのだ。彼女は今しがた渡ったばかりの河に飛び込み、水をかき分けていく。皆はそんな司令官を見て、どうしたんだ!? と思った時であった。
彼らが抜けてきた森の出口で天を衝くような火柱が舞い上がる。そして、その火柱の中心部には、全長5メートルはあろうかという
遠目から見ても、その
「シャクマーーー!」
アキヅキには気付いていた。あの
その証拠として、
アキヅキは頭の中が真っ白になっていく。
シャクマが
『俺は元居た世界では退きシャクマって呼ばれていたんだ。俺が仕えたダイミョー家の中では、俺が一番、撤退戦が得意だったんだぜ?』
撤退戦が得意って、それ、褒められたことなのかしら? とアキヅキは思っていたが、シャクマの元居た世界では、撤退戦こそ、
それゆえ、釈然とはしないアキヅキであったが、彼の言を信じて、
――時間は10分ほど遡る――
「見事な腕前、感服するばかりでゴザル! 其方の名を聞かせてほしいのでゴザル!」
シャクマが森を抜けた後、それに続くように紅い青銅製の胸当て、
シャクマは何だ、こいつ……と思うのであるが、こいつに付き合えば、他の兵士たちの撤退の時間を稼げると考えて、しばし、問答に付き合うことにしたのである。
「ほう。シャクマ=ノブモリと言う名でゴザルか。しかも、あの伝説の
「ああ、そうだ。俺が名乗ったんだ。次はお前さんが名乗りやがれっ」
シャクマの憮然とした返しに、ほう……と口から漏れてしまうマッゲ=サーンであった。眼の前の男が、250年前の大昔に、我が物顔でエイコー大陸を蹂躙した一族の生き残りであることに訝し気になりそうになる。
だが、先ほどの森の中での弓さばきを見れば、眼の前の男が並みの将でないことは明らかであった。
「ふっ……。
マッゲ=サーンはそう言うと、いきなり、腰の左側に佩いた紅色に光る
そして、その
そして、シャクマは肉薄するマッゲの腹に、うおらああ! との掛け声と共に右足で思いっきり蹴りを入れる。マッゲはぐふっ! と言いながら後ずさることになる。そこに間髪入れずにシャクマは連続で突きを出す。
しかし、シャクマの高速連続突きをいともたやすく、マッゲは右手に持つ
(こいつ、やりやがるっ!)
それがシャクマの素直な感想であった。シャクマはマッゲの眼を潰そうと、彼の顔目がけての三段突きであったのだが、その狙いを察していたかのように、マッゲは捌ききったのである。
「ふっ。伝説通りにえげつない戦い方をするのでゴザル。
マッゲはそこまでいうと、今度は自分の番だとばかりにシャクマに斬りかかっていくのであった。応戦するシャクマも、朱槍を振り回し、マッゲの猛攻を防ぎきるのであった。
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